第4話 宝石
「銀貨四十五枚……か。」
「すまんね。瑪瑙はいま少しばかり安いんでな。」
ヒュウガが次に立ち寄ったのは、宝石の加工場。
そこの主に持ってきた石を引き取ってもらうと、ヒュウガはそう話していた。
「そこを何とか五十枚にしてくれねぇか?
五枚あるかないかで色々変わってくるんだよ。」
「言っただろ? 瑪瑙はいま安いんだ。
どこぞの貴族のお抱え占い師が『今年の瑪瑙は凶!』なんてぬかしやがったから、この辺りの宝石商は一斉に瑪瑙を買い控えちまった。
おかげでダブついててな。向こう一年はこんな調子だろうよ。」
「やれやれ……。」
主の言葉にヒュウガがバリバリと頭を掻く。
困り顔の彼に向けて、主は再び話しかけた。
「だが、コッチのサファイアはいい色だ。磨きゃ一級品になるな。
こいつだけで銀貨三十枚にしてるんだ。
馴染みってのもあるから、結構勉強してるんだぞ?」
少しばかり目を逸らし、深く考える風を見せるヒュウガ。
ややあって、再びその口が開かれた。
「しゃぁねぇな……じゃあ、その銀貨四十五枚、現金でもらってくぜ?」
「手形じゃダメかい?」
「今から買い物だからな。現金があった方が何かと便利だ。
あ、待て! 二十枚だ。残り二十五枚は手形で頼む。」
ヒュウガの声に、わかったよ、と主は一言返して工場の奥へと入っていった。
そんな主の様子を見たヒュウガは、小さく苦笑いしてフローレンスに話しかける。
「スマンな。昼飯は少し格が落ちそうだ。」
「別に昼食にこだわりはない。
何故そんなことをわざわざ言うの?」
「言っただろ? カッコつけたいのさ。」
さらに深い苦笑いを見せ、ヒュウガはフローレンスに言う。
「それが解らない。
何故私に格好をつけるの?
私は奴隷で、貴方にあげられるのは身体しかない。」
「だからこそだよ。
せめてベッドの中だけでも本気になってもらいてぇんでな。」
ヒュウガは自嘲気味な声音でフローレンスに答えた。
彼女の胸中は、表情からは解らない。
だが、そこには小さい『何か』が残った。それが後に毒となるか、薬となるか、それは彼女自身にも解らなかったが。