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黒き森の狼 ~ある狩人の日記より~  作者: 十万里淳平
第2章 -ガストンの町-
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第4話 宝石

「銀貨四十五枚……か。」


「すまんね。瑪瑙はいま少しばかり安いんでな。」


 ヒュウガが次に立ち寄ったのは、宝石の加工場。

 そこの主に持ってきた石を引き取ってもらうと、ヒュウガはそう話していた。


「そこを何とか五十枚にしてくれねぇか?

 五枚あるかないかで色々変わってくるんだよ。」


「言っただろ? 瑪瑙はいま安いんだ。

 どこぞの貴族のお抱え占い師が『今年の瑪瑙は凶!』なんてぬかしやがったから、この辺りの宝石商は一斉に瑪瑙を買い控えちまった。

 おかげでダブついててな。向こう一年はこんな調子だろうよ。」


「やれやれ……。」


 主の言葉にヒュウガがバリバリと頭を掻く。

 困り顔の彼に向けて、主は再び話しかけた。


「だが、コッチのサファイアはいい色だ。磨きゃ一級品になるな。

 こいつだけで銀貨三十枚にしてるんだ。

 馴染みってのもあるから、結構勉強してるんだぞ?」


 少しばかり目を逸らし、深く考える風を見せるヒュウガ。


 ややあって、再びその口が開かれた。


「しゃぁねぇな……じゃあ、その銀貨四十五枚、現金でもらってくぜ?」


「手形じゃダメかい?」


「今から買い物だからな。現金があった方が何かと便利だ。

 あ、待て! 二十枚だ。残り二十五枚は手形で頼む。」


 ヒュウガの声に、わかったよ、と主は一言返して工場の奥へと入っていった。


 そんな主の様子を見たヒュウガは、小さく苦笑いしてフローレンスに話しかける。


「スマンな。昼飯は少し格が落ちそうだ。」


「別に昼食にこだわりはない。

 何故そんなことをわざわざ言うの?」


「言っただろ? カッコつけたいのさ。」


 さらに深い苦笑いを見せ、ヒュウガはフローレンスに言う。


「それが解らない。

 何故私に格好をつけるの?

 私は奴隷で、貴方にあげられるのは身体しかない。」


「だからこそだよ。

 せめてベッドの中だけでも本気になってもらいてぇんでな。」


 ヒュウガは自嘲気味な声音でフローレンスに答えた。


 彼女の胸中は、表情からは解らない。

 だが、そこには小さい『何か』が残った。それが後に毒となるか、薬となるか、それは彼女自身にも解らなかったが。


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