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道標  作者: 鈴木澪人
再び現在編

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【閑話】宇治宮のその後

 私物を持って会社を静かに出ていく。

突然の更迭に驚いたが伏見の手腕に舌を巻いた。桜井の代わりにダクトに縛り付けていた意趣返しだったのだろうか、タカセを一人にしてしまった。


 マヤには一言伝えたが、タカセには連絡できなかった。伏見が手を回していたみたいだ。

彼の道標で大丈夫だとは思っているが、今の地位の維持は厳しい見通しになるだろう。

 でも、フォローしてあげることができないな…。マヤがなんとかしてくれるのだろうか。


 中途半端な感じでダクトを出てしまったが、元々疲れていたので今の地位に執着していない自分に少し驚いた。多分、逃げたかったのかもしれない。


 自宅に着くと静まり返った部屋にパンフレットが置いてあった。

前日から妻と一緒に見ていたやつだ。引退後はゆっくりしたいという話をしていてその第一弾で船旅をしようという話になった。


 妻と一緒に豪華客船に乗り、いままであまり時間をとれなかった分ゆっくりと過ごすことができた。

色々な国に停泊したので楽しかったが、あの会社の本社がある国だけ外出せずに船内に残った。

…。念のため。

 そうして無事に船旅を終えた後、今度はゆっくり温泉に行こうという話になる。

場所は、妻が前から一緒に行きたがっていたところだった。温泉に入り観光しゴルフも回った。

温泉まんじゅうを夫婦で一つずつ摘まみながら歩く。行儀が悪いがこうゆうのもいいなと思った。


 ふと、妻が立ち止まり

 「あなた、ありがとう」と恥ずかしそうに言った。


 「ああ」もう少し気の利いた言葉を返した方がいいと思いながらも、難しい。







*****




「先生!さようなら」

次の授業があるのだろうか、生徒たちが笑いながら私の隣を走りながら抜き去っていく。


「ぶつかると危ないから気をつけなさい」

ついつい老婆心から小言を言ってしまう。社内ではそんな気持ちも起こらなかっただろう。


私は次の授業がなかった為、息抜きにキャンパスの庭を歩いてみる。桜が終わり青々とした木々が静かに風に揺れていた。木陰になっているベンチを見つけたので座ってみた。


 次の仕事をどうしようか、仕事自体を続けるか悩んでいるところ耳の早い知り合いから、大学で授業を教えてみないかと声を掛けられる。タカセを最後まで面倒をみれなかった罪悪感を消すように了承した。


 生徒との日々のふれあいは自分が思っていた以上に充実している。もちろん、やる気のない生徒も一定数いるが目を輝かせて自分の話を聞いてくれる姿を見ると気持ちに張りがでてくる。



「宇治宮先生」


ふと、ベンチの後ろから生徒ではない声の主に呼ばれる。


「ああ、元気だったかい?」


その姿は、どこかの教授か講師に見えるだろうなと思いながら。


「君は、ここの生徒ではないよね」と嫌味を言ってみた。


すると相手は、笑いながら。


「はい。先生に最後まで教えを乞う事ができなかった、ザンネンな部下ですよ。」

と近づきながら答えた。


「そうだね、機会があればまた続きを教えようか?」と答えると。


今度は肩をすくめながら

「すみません、それは遠慮させていただきます。今は、ただの従業員なんですよ」

と言いながら名刺を渡された。


それを見た私は

「ああ、ここの大学のシステムを管理しているのか」と苦笑いし


「そうなんですよ。株式会社エヌマヤの菊川タカセと申します。」

とおどけて挨拶をした。

そして、片手に持っていた缶コーヒーを宇治宮に渡しながら


「お久しぶりです」といい宇治宮の隣に座った。


私は、マヤは上手くやったんだと思いながら元部下の短い社長時代の話を聞く事にした。



某大学講師    宇治宮タスク

株式会社エヌマヤ 菊川タカセ


最後までお読みいただきありがとうございました。

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