伏見と桜井 後編
ダクト日本支社 副社長 伏見レイコ
株式会社アトラス 社長 桜井サナ
「宇治宮は喜々としたわ。棚からぼた餅だものね。私の撤退条件は道標の取り下げとあなたの放逐よ。宇治宮の人使いはけっして良くはないわ。そんな人の下にあなたの身を預けるなんてできないわ。そしたら、宇治宮なんて言ったと思う?『だったら、人柱として伏見さんはずっと残ってくれるんですね』って言われたわよ」伏見は思い出し笑いをした。
「私が、あなたと新しい会社でのんびりしようとしているのがバレてしまったみたい」
桜井は、伏見が一緒に会社を離脱するつもりだった事を聞いて驚き、そして少しだけ嬉しかった。自分の事をちゃんと考えていてくれたんだと…。
「ちなみに、私が躊躇した内容も宇治宮は喜んで引き受けていたわ。清濁併せ吞むっていうタイプだったみたい。あの人は本当に昔から」
『頭がおかしかった』伏見と桜井は言葉を合わせた。
伏見は話を続ける
「あなたには、事情を知らずにこの会社から出て言って欲しかった。もし、少しでも知ってしまったらきっと残留するって言って聞かなかったでしょ。この会社は、なんて言っていいのかトップで居続けるのは本当に大変みたい。宇治宮だった最後の方は精神的に疲れていた見たいよ。じゃないと私の小手先の細工なんてすぐに見破って牽制してたと思うのよ。それが見破れずにそのまま引退だなんて…。」
「半分菊川さんに押し付けて逃げたわね」
「こんな内容まで私に話して大丈夫なの?」桜井は伏見の暴露具合に少し不安を覚えた。
「そうね。機密情報で重要視されるのは本社のことのみよ。こんな微妙な日本支社の過去の勢力争いの話なんてゴミぐらいにしか思ってないんじゃない?」伏見は笑いながら言った。
「ただし、さきほどのICレコーダーの内容を電子媒体で本当に告発するのは辞めてほしいの」
伏見は困った表情で
「私は、ダクト社としてなんらかの処理を誰かに指示しなくてはいけないわ。そうすれば、あなたを守るどころか、今持っているものも壊しかねない」ここで話をするのとはまた少し事情が変わってくるから。
と伝えた。
「もしかして、それを私から阻止するためにここまで話してくれたの?」桜井は動揺した。
「そうね。それに菊川さんも少しかわいそうだしね。」
「だったら、チームを解散なんかさせないでそのまま活動させたら良かったじゃない?」自分の件は一応納得する事にしたが菊川の話はまた別だと思った。
「それは、あなたは助けても次の犠牲は出していいんじゃないって私に問いかけているの?」
伏見は急に冷たい態度になった。
「アトラス社の三人はともかく長尾さんがやっていることは過去あなたにさせようとしていた事よ」
溜息をつきながら
「でも彼は会社を離れても菊川さんと共に行くことを選んだみたいだけどね」
その言葉に桜井は心のどこかにズキンと痛みが走る。どうして自分は長尾みたいに伏見のそばにいてあげなかったのだろうかと。自分の事ばかり考えて、伏見の現状を今まで知ろうとしなかったのかと。
「ごめんなさい。私は、長尾さんみたいにあなたに寄り添うことはなかったわ」桜井は素直に謝る。
伏見は「いいえ、こちらこそ。あなたをそうゆう意味ではダクト社に縛り付けてしまっていたわ。私の落ち度よ」
気が抜けたのか伏見はソファーに持たれると
「菊川夫妻の関係を壊してまで強引に物事を進めるなんて。私もいつの間にか壊れてしまっているのかもね」
目を閉じながら思いふけっているようだった。
そして、そのままつぶやく
「私も、疲れちゃったわ。ここに長く居すぎたのかもしれないわね。」
その項垂れる姿をみた桜井は、自分の中で執着していたであろうダクト社と伏見になんらかの終止符を打ったように感じた。
気持ちが軽くなった桜井は
『いつか、一緒に仕事をしよう』
と告げると席を立ち部屋を出て行った。
彼女の持ってきたICレコーダーは所在なさげに机の上に置いたままだった。
最後までお読みいただきありがとうございました。




