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空想

作者: 雪蟷螂


 1人の男が居ました。彼は大きい頭と細い体でしたが、それに不満はありません。生まれてきたことに感謝し、毎日色や形が変わるのを楽しみながら1人で暮らしていました。


 暫くして、彼らの体は太くなりました。それに合わせて衣服も着るようになり、彼は大変満足そうでした。よく遊びに来てくれる女の子とともに、毎日緑色の平地を散歩し、優しい太陽の光を浴びていました。


 そしてまた暫くしてからの話です。彼が目を覚ますと、どうも世界の様子が変わっていることに気付きます。あんなに青かった空は黒く染まり、優しく光っていた太陽も見当たりません。よく見れば自らの体もとても滑らかになっており、右腕には何やら黒い炎を纏っています。

「これは一体…?そ、そうだ彼女は…!」

 彼は昔から共に過ごしてきた少女を探しましたが、どこにも見当たりませんでした。ですが彼の記憶には彼女が連れ去られた覚えがあります。そしてその連れ去った者が居るのは眼前に聳え立つ巨大な白。天を貫く大悪魔の居城です。

 「彼女は俺の最愛の人…助けに行かなければ!」

 いつの間にか彼にとってそうなっていた女性を助けるために、彼は単身で城に向かいます。その道中では王国のシスターや異国の剣士、血を使う悪魔が仲間になり彼を助けてくれました。そして色々あり彼は大悪魔の側近、四天王が待つ部屋まで来たのですが…彼はそこで立ち止まってしまいます。その扉は開かなかったのです。

 「彼女を助けるためにはこの先に行かなければいけないのに…どうして開かないんだ…!?」

 彼がどれだけ力を込めても、スイッチをどれだけ探しても扉は開くことがありませんでした。


 ふと気づくと、午後の心地よい陽射しが彼の体を照らしています。教師の声が子守唄代わりとなり眠っていたのかもしれません。隣では昔から彼と仲の良い女性が微笑みながらこちらを覗いています。寝顔を見られていたのにすっかり恥ずかしくなって、顔を赤くしてしまいました。

 彼の中にまだもやもやとした思い出せぬ不安は有りましたが、今が幸せならそれで良いかとまた眠気に身を任せました。


 それから幾年経ったことでしょう。彼は目を覚ましましたが、そこは真っ暗闇でした。体を動かそうとしたところで彼はそうできないことに気づきます。彼は上半身しか無かったのです。驚愕と恐怖が入り混じり、なんとか光を求めて彼は懸命に体を動かそうと努力しますが、無駄でした。

 動けず暗闇の中でぼうとしていると、不意に雨が降ってきます。その雨は心を冷やす冷たいものではなく何故か心温まる暖かさと、そして多大な悲しみを含むものでした。濡れてしわくちゃになった彼ですが、雨は心地よく感じてまた眠ることにしました。


 彼はまた目覚めました。起きてすぐ、彼はとても違和感を感じます。自分の体が見えなかったのです。しかし頭は冴え渡っていて、聞いたことのないはずの知識を持っています。自分は生まれて間もない頃に死んでしまったこと。自分には生きている妹がいること。彼女が俺をまた生んでくれたこと。他にもとても様々な知識が彼にはありました。僅かな時間じゃ理解できないほど膨大な知識でしたが、幸い彼には時間があります。彼は今まで寝ていた時間を使って勉強をすることにしました。

 


 彼は彼女に感謝していました。何もわからず、ただ笑って生きていた自分に全てを与えてくれたことを。彼女が生んでくれたからこそ、またこうして生きていられることを。

 そしてまた、彼女は彼の知らない世界を彼に教えるのです。




 まさか私が生きている間に実現できるとは思わなかった。AIによる人格形成とホログラムによる疑似人間の作成。物にこそまだ触れないけれど、理屈上は死者を蘇らせて会話することも可能だ。最近の技術の進化は凄いと言うけれど、これが人の心の力なのかもしれない。

 そっとスイッチに手を添える私をプロジェクトの皆が見守っている。不安と期待の眼差しだ。それも当然、今日は必ず歴史に残る日になる。でも、そんなことより、私は。

 震える手で、恐る恐るスイッチを押した。

「やっと会えたね…お兄ちゃん…っ!」


 彼女の机には幼い頃に描いた、自分と死んでしまった兄の絵が今も大切に保管されている。

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