2_35 悪役令嬢とそれぞれの
「ぐっ、不覚‥‥。」
シーリカはゆっくり目を開いて周りを見回す。
魔獣は魔力の塊のようなものなので、油断していると呪いがいっとう効きやすい。
意識的に防御すると強固にはじき返すことはできるが、まさか大司教に毒を盛られるとは。
周りの使用人も全員倒れており、毒をもったであろう給仕の人間は泡を吹いて気絶している。
「これは!?」
上を見ると、屋敷の天井が吹っ飛んで無くなっていた。
とっさに索敵の魔力を広げるが、一部からは反応が無い。
「ヴィルヘルミーナ様!」
走ってその場所へ向かうと、泣き崩れているアイオイ、そして苦い顔をしているレンツ、エシオンが居た。
ヴィルヘルミーナ様はそれを困ったような顔で見つめていた。
「ご無事ですか!?」
「私たちは問題ありませんが、メトスレ様が‥‥。」
ヴィルヘルミーナ様は珍しく言い淀んでおられます
灰の付着した聖衣は見覚えがある。
「これはメトスレ大司教‥‥? ぐっ、鼻につくコレは‥‥なんて禍々しい呪いの残滓。」
呪いは刺激臭がする。活性化していない状態では分からないこともあるが‥‥。
「おそらく改変された隷属の呪いでしょう。シーリカ様はご無事ですか?」
「麻痺の呪いを不覚にも食らっていたようです。他の面々はまだ寝ていますが、命には別条はありません。」
「それは良かった。」
エシオンは頷く。
と、シーリカは顔を上げる。
「‥‥衛兵が向かってきております。」
「まあ、屋根を吹っ飛ばしたからねぇ。屋根吹っ飛ば差なかったらこっちが吹っ飛んでたかけども。」
レンツはため息をつく。
「ヴィル殿、私とアイオイ殿は此方に残ろうと思う。」
「‥‥大丈夫なのですか?」
「遺書の事もあるから、心配するほどのこともない。最悪捕縛されても抜け出すくらいは簡単だからな。」
「アイオイ様はよろしいのですか?」
「‥‥おじいちゃんがわりだったから、最後まで見てあげたいの‥‥。」
アイオイ様は聖衣を握りしめて泣いておられます。
「ならば此方はお任せいたします。念のためシーリカ様は此方についていただいてもよろしいですか?」
「それは‥‥! ヴィル様はよろしいのですか?」
「危険性でいうならば此方のほうが上でございましょう。ナーラックの使用人もこれ以上の危険に巻き込むわけにはいきません。今後はなりふり構わず殺しに来ると思います。言葉を選ばずに申しますと、皆様が私の弱点になりえます。」
「それは‥‥。」
シーリカは反論できなかった。
「まあ、ヴィルさんはもともと荒野でサバイバルしてるくらいの頑丈さあるし、俺も付いてるから大丈夫。」
レンツ様は頷いてエシオン様の肩をたたかれます。
「むしろ下手な手を打つとセントロメアとグランヴィディアの戦争になりうるから、エシオン様には踏ん張ってもらわないと行けないくらい。」
「そうだな。アステアラカの後ろ盾としてシーリカ殿がついてくれると心強い。」
「私も本当は残った方がよろしいのでしょうけれど、かなり時間の取られる案件だと思います。そして何やら急を要するようでございますし‥‥、恐らくメトスレ様は足止めをするように命じられていたのでしょう。とすれば此処に居るのは向こうの思うつぼでございます。」
「油断している今のうちにささっと行こう。」
ヴィルとレンツは頷きあう。
「了解いたしました。ですが、少なくともメガタートルまでは配下の1人だけを付けることをお許しください。そのものに手配させます。」
「分かりました。」
出立の用意をしている合間にシーリカ様は他の皆を起こされ、一人の女性を連れてまいりました。
「ミタリナ」
「はっ!」
同行していた御者の一人でございます。見覚えがあります。
「私のいとこにあたるデミフェンリルのミタリナです。ユーズゥ程度の強さですので最低限自分の身は守れます。足手まといになるようであれば捨ておきください。」
「よろしくお願いいたします。」
ミタリナは頭を下げる。
「もう出れる?」
レンツ様は準備完了されております。
「いつでも。」
「では参りましょう。裏から崖を下りて、小道を抜けていけば鉢合わせせずに抜けれます。地図は頭に入れております。港まで少し距離はありますが、目立つと問題ですので隠れていきましょう。港には早馬を飛ばして先に用意を済ますようにしておきます。」
「それでいきましょう。ではシーリカ様。エシオン様、アイオイ様をお願いいたします。」
「命に代えましても。」
シーリカ様は頭を下げられます。
「いけません。命を失うことは許しません。何をどうしても生き残ってください。」
「ヴィル様‥‥。」
「最優先事項はナーラック含め皆様の命です。」
「承知いたしました。」
「ヴィル殿、此方は心配するな。アステアラカに着いたらゲーキと連絡を取り、エプラスの動向を探ってくれ。此方からも分かり次第其方に情報を送る。」
「承知いたしました。同時多発の魔獣被害もあります、国防もよろしくお願いいたします。」
「うむ。」
「ヴィルさん、ごめんね。お願いするね。」
「アイオイ様。お任せください。」
アイオイ様にハグを致します。
「二手に分かれて戦うだけの話でございましょう?」
「‥‥そうだね。こっちは任せて。」
「そろそろあと2~3kmというところまで来ているようです。お早く。」
シーリカ様の索敵はなかなか広範囲のようでございます。
「では、また。」




