2_34 悪役令嬢達と老人の矜持
「フェンガル!?」
「さて、そろそろか。」
メトスレ様がアイオイ様を見た瞬間、がくっとアイオイ様は崩れ落ちられました。
「が‥‥!? あ‥‥。」
「麻痺の呪いじゃな。一番食べていたのじゃろう、出るのがはやいのう。」
レンツ様とエシオン様も崩れ落ちられます。
「お主は食べておらんのか?」
「私、ナーラックの方以外信用しておりませんもので。それにハルカ様にも隙が大きいと注意されたばかりでございます。」
アイオイ様を癒そうと手をかざそうとする前に、メトスレ様は手を掲げます。
「封印。」
その瞬間、空間から魔力自体が根こそぎ枯渇したようになりました。
メトスレ様の手の甲には、いつの間にか見たことのあるクリスタルが輝いておりました。
「空間から魔力を奪い去れば、伝達不可能なんじゃよ。知らんかったろう?」
「なるほど。これが魔力が枯渇した場合の世界なのですね。」
「余裕そうじゃな。」
「条件は五分では?」
「いいや?」
メトスレ様のクリスタルが輝くと、太いレーザーが此方に発射されました。
すっと身をかわすと、後ろの壁がレーザーで焼き切られました。
「ふむ。本気なのですね?」
「冗談でこんなことはせんよ。」
「フェンガルに頼るほどその知識が問題なのですか?」
「正直人類を滅ぼしたくなるのう。」
メトスレ様のレーザーが顔の中心を狙いますが、右手でそれを受け止めました。
「なんと。」
「外の魔力がなくても体内にはあるでしょう。」
メトスレ様の腕を取ろうと手を伸ばしますが、謎の力で弾かれます。
謎の力というよりは体技でしょうか。高齢者が出してよい速度ではございませんね。
「なるほど、それが本気の速度でございますか。エシオン様やリア様相手ではまだまだ手を抜いていらっしゃいましたね。」
メトスレ様の右手が顔面狙いのフックを放つのに合わせて、左手でガードを上げた瞬間、軌道を変えて左わき腹に拳が刺さります。
「ぬん!」
その拳から魔力が噴出して、吹き飛ばされます。
「ヴィルさん‥‥!?」
アイオイ様が顔を上げられます。
追撃と言わんばかりに極太のレーザーがやってきますが、右手で弾きます。
「お主がフェンガル以上というのはあながち嘘では無さそうじゃな。」
「フェンガルがいかほどかは存じませんがその様でございますね。」
パンパンとホコリを払います。
メトスレ様のパンチに込められていた魔力は瞬間的ですがリア様よりも遥かに高い濃度でございました。
ですがかすり傷一つ負っておりません。
「それがお主の本来の力か。」
「さて。」
メトスレ様は後ろに3m程吹っ飛び、着地されます。
「今のは?」
「魔力をそのままぶつけただけでございます。媒介する物がなくても、霧散を気にしなければ行けそうですわね。」
「無茶苦茶な‥‥。」
「足止めには十分でしょう。」
「なんじゃと?」
その瞬間、ザン!という音とともに、メトスレ様の両手はクリスタルごと天井付近まで舞い上がりました。
「後は頼んだ。」
右手を伸ばしたエシオン様の斬撃でございます。
唇をかみしめていらっしゃいます。
「な‥‥!?」
「滅びよ。」
右手に魔力を込めて、天井付近まで舞い上がった両手に向けてメトスレ様のレーザーのような物を打ち上げます。太さは5mを優に超えるサイズでございます
レーザーが当たった瞬間、爆発が起こりましたが、それよりも強い力で上空に吹き飛ばしたおかげで、屋敷の天井はなくなりましたが、上空遥か彼方の花火で済みました。
「癒しよ。」
此方も癒しの力をたたきつけることで、無魔力状態でも作動するようでございます。
ただ力が霧散したせいでメトスレ様の手は治りませんでしたが、止血と皮が張っている状態に戻りました。
「エシオン。お主麻痺していなかったのか?」
「食べていたのはアイオイ殿だけだ。アイオイ殿は毒に強いため自ら毒見役を買って出てくださったのだ。」
「そ‥‥そうよ!」
よろよろと立ち上がるアイオイ様。ご自身で解毒されたようでございます。
ものすごく目が泳いでいらっしゃいますので、多分、普通にもりもり食べていらっしゃったのでしょう。
「エシオン様とアイコンタクトして話に乗って機会をうかがっていたけれど、出番はなかったね。」
レンツ様は首をすくめられます。
「‥‥お手上げじゃな。殺すがよい。」
メトスレ様はごろりと横になられます。
「外交問題になりますので、捕縛させていただきます。私の一存では決めかねる問題です。」
エシオン様はそう仰います。
「メトスレ様は本気で我々を殺そうとはしていなかったように見える。いや、ヴィルさん相手はマジだったと思うけど‥‥。殺そうとするなら麻痺じゃなくて即死の呪い使うよね普通。」
レンツ様の言葉に皆さまはっとされております。
「ふぅ、全く。思い通りにならんのう。」
「何が目的だったのですか?」
「素直にしゃべるとでも? ちなみにこの呪いは上書きしようとした瞬間大爆発起こすぞ。」
「また面倒な呪いを‥‥。」
エシオン様は歯噛みされております。
「クリスタルにずっと反対されておりましたわね。その割にはご自身で使われていたりされておりましたが‥‥。これは‥‥。」
目の前でみるみるメトスレ様は年を取っていかれます。
元気な老人だったその体は枯れ木のようになっております。
「まあ、反動じゃな。」
ふっと鼻で笑われるメトスレ様。
「お主らフェンガルに勝てるのか?」
「分かりません。あったことも御座いませんし。」
「ふぅ、まあ、目的の一つは達せたからよかろう。」
「叔父上!」
エシオン様がメトスレ様の上半身を起こされます。
「遺書はわしの部屋にある。ああ、今なら呪いが消えかかっているな。フェンガルは2つ、ベルクートアブルを神と抱く急進派と、穏健派だ。急進派は世界を滅ぼすつもりじゃ。クリスタルの力を使ってな‥‥、ああ‥‥、これでもう一つの、目的も‥‥。」
メトスレ様はそのまま目をつむり、最後の息を吐き出されました。
「叔父上!」「メトスレ様!」
エシオン様とアイオイ様はメトスレ様の手を取ろうとしますが、其の儘メトスレ様はゆっくり灰となって消えられました。
残るは着古した聖衣のみでございます。
「‥‥、こんなの、人の死に方じゃないよ‥‥。」
アイオイ様は泣いていらっしゃいます。
「‥‥。」
エシオン様は難しい顔で静かにされております




