2_33 悪役令嬢達とメトスレ大司教
「なんじゃお主ら。また来たのか。ヒマじゃのぅ。」
メトスレ様は旧ご本尊近くの庭でのんびりティータイムをされておりました。
「ヒマと言いますか、一応国防の一大事と言いますか。」
エシオン様は言い淀んでおられます。
「わしはもう隠居しておるので情勢に疎いからのう。なんぞ大変なことでもあったのか?」
クッキーをかじりながら席を進めてくださったメトスレ様に、毒気を抜かれたエシオン様。
「はぁ。実はかくかくしかじかで。アステアラカの国王が変わりそうなのと、ナーラックでちょっと不審者が出てたりしていましたので、ちょっとアステラカに折衝に行く予定でして。」
ゲーキの事などは一応秘密となっておりますので、濁して仰います。
「よくわからんのじゃが、なんでお主らが動くんじゃ?」
メトスレ様は不思議そうにされております。
「わしが言うのもアレじゃが、ナーラックもセントロメアも小国の話じゃし、アステアラカに放り投げた方が早くないか? お主らでどうにかできるのか? 多分アステアラカだけだと不安だからという話なんじゃろうけども。」
「色々言えない事情もありまして‥‥。」
エシオン様はしどろもどろでございます。
普通に会話しておりましたが、ゲーキの存在は超トップシークレットでございます。正直あなたたち全員家畜ですと言っているようなものでございます。
「まあ、移動で疲れておろう。今日は1泊して行くがよい。夕食も用意しておくからそれまで風呂にでも入っておくがよかろう。」
「ご厚意感謝いたします。」
エシオン様は頭を下げられております。
夕食で、使用人たちは多いので別会場で、メトスレ様とは私たち、エシオン様、アイオイ様、そしてレンツ様と私で取ることとなりました。
シーリカ様は使用人という体ということで、別部屋で食事をいただくとのことでございました。
「なかなかスパイシーな香りでございますわね。」
「グランヴィディアの郷土料理じゃよ。鶏肉にあうじゃろ?」
「結構辛いけれど美味しいね。」
アイオイ様はもごもご食べられております。
「しかしお主らもなかなか短絡的じゃな。不審者っていうか暗殺者じゃろどうせ。お主らが動くならそれくらいじゃないとありえんからのう。まあ、ナーラックは女傑がおるじゃろうからそこまで心配はしなくていいだろうが。」
ふうむと顎を撫でられるメトスレ様。女傑とはひょっとしたらテレジア・ナーラック様でしょうか。確かに庭に暗殺者を植えていたのはテレジア様のようでございました。
「叔父上もお気を付けください。」
「わしが暗殺者に負けるように見えるのかの?」
「24時間気を張るのは不可能でしょう。」
「まあ、それも真じゃな。」
メトスレ様はパンを食べられております。
「年を取ると脂がキツくてのう。」
とは言いながらもバターをもりもり付けられております。
「そういえばメトスレ様にお伺いしたかったのですが、魔力を吸収する水晶ってご存じですか?」
アイオイ様ははっと思い出されております。
「ナーラックで見つかって、今はセントロメア経由で恐らくアステアラカの研究所と共同で調べている最中だとは思うのですが、今は使い道が微妙ですが、上手く使えば世界の魔力問題を解決できるかもしれません。」
「ふうむ? しかし亡んだ遺跡からでてきたのじゃろう? 何か問題があったのではないか?」
「そうかもしれません。ですが、昔と異なり現在戦時中ではありませんし、平和利用に重点を置けば良い結果になるのではないでしょうか。」
「まあそうじゃなぁ。わしが知っているのは、遥か昔にそういった魔道技術が発達していた時代があったことくらいじゃな。」
「ほう! 便利な技術が多かったのでしょうか。」
「戦争で多くは失われてしまったからなぁ。あらゆる技術の核が、そういった魔力の運用がベースだったらしいからのう。風がやんだ風車みたいなもんじゃな。誰も使わなくなって失われていった。」
「ふむふむ。なればこそ、先のクリスタルの重要性が増すということですね。」
メトスレ様はため息をつかれます。
「危険な技術じゃよ。わしはあまり関わらん方がええとはおもうがなぁ。」
「ですが、このままでは魔力が増えたままで魔獣も増え、ジリ貧なのでは。」
「まあ、それもそうじゃがな。」
メトスレ様は遠くを見てふぅとため息をつかれます。
「メトスレ様は何を心配されているのですか?」
「ヴィルさん?」
「歯に物の挟まったと言いますか、何かしら気にされておられますよね。」
じっとメトスレ様を見てみますが、メトスレ様からは何の感情も伺えませんでした。いつも通りおどけた顔をされておられます。
「叔父上は昔の古い知識をご存じと聞いております。レンツにお教えいただいた技もそうなのでしょう。何かクリスタルに関してよからぬ話があるのであれば聞いておきたいのです。」
「‥‥。」
ふう、とため息をついたメトスレ様はエシオン様を見据えます。
ただその目は今までのおどけた表情ではなく、完全な無表情でございます。
「叔父上‥‥?」
「お主らは恐らく大国でも止めようのない何かを知っているのだろう?」
「‥‥。」
「そして、すべてを知っているわけではない。知っていれば古い知識を復興させようなどとは思わんからな。」
「悪しき力と考えているのでございますね?」
「‥‥悪か。」
メトスレ様は珍しく軽蔑するような笑みを浮かべられます。
「なりふり構わなかった時代、ってやつ?」
レンツ様はアステアラカでレム様やラウンドのバーロット様と話をしたときに出てきていたセリフを述べられました。
魔獣と混ぜたり、等と仰っていた気が致します。
「魔獣と混ぜる技術はある。本体が弱れば魔獣に乗っ取られるがな。」
メトスレ様はなんということでもないという感じで仰います。
「なぜ叔父上はそれほど詳しいのですか? セントロメアの書庫にもそこまでの知識はなかったはずです。私は一度実家に帰って改めて参りました。」
メトスレ様は楽しそうに笑われます。
「表の歴史なら文字に残せようが、裏の歴史なぞ残せまい。それを受け継ぐのは王位継承者のみだ。ただ今の王、まあ、わしの弟がそれを受け継ぐ前にわしが受け継いでしまったので、お前の父親は知らんがな。」
王位継承権を得て、知識の継承をした後に聖女の力が発動して廃嫡となったためその様なイレギュラーなことになっている、ということでございましょう。
「そ‥‥それは!?」
「国賊に当たるかもしれんな、重要な知識を国外に持ち出しておるからな。ただこの知識はわしの死とともに消え去る予定じゃ。」
メトスレ様は笑いながらご自身の首をたたくと、そこには隷属の呪いが浮かび上がりました。
「その呪いは‥‥!?」
「お主らも知るゲーキの物、ではないぞ?」
ガタッと椅子から立ち上がろうとする皆さま。
「なぜその名を‥‥、なるほど、知識の継承ですか。」
「隷属の継承じゃがな。ただわしはこんなものをお主らに引き継ぐつもりはない。」
「かなりの魔力で契約されておりますね。レム様では到底不可能な強さです。」
「それはそうじゃろう。フェンガルに上書きしてもらったからな。」




