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2_31 悪役令嬢とモラトリアムとなんかヤバそうなの

「フェンガルの犬どもが‥‥、言いたいことばかり言いおって。」

煌びやかな衣服をまとう老人。エプラスの教皇、ムゲラル・アルマス・エプラス8世は、研究所の椅子に座ってため息をつく。

ここは地下聖堂よりもさらに地下にある古い遺跡に作られている研究所である。

エプラスの歴史は古く、細々とではあるが古い時代の高い魔道技術を受け継いできていた。とはいえ、一度大戦争でほとんど失われているので最盛期からはほど遠いのではあるが。

「相変わらずフェンガルの者は傲岸不遜でございますね。技術力はさほど差が無いですが、あの無茶苦茶な魔力量で押しているのでしょう。」

研究所所長、エマ・ハイドは細めの眼鏡を押し上げて、ふぅとため息をつく。

「あちらの方は上手くいっているのですか?」

「わしもヒマではないからな、ボチボチといったところだ。」

ワインを飲んでふぅとため息をつく。

「進捗は2~3割か。成功率は9割に近い。まあ、悪くない数字だ。完全にやられたのはあったがな。反動がキツいなアレは‥‥。」

「新型とは聞いていましたが。以前は下手をしたら命にかかわっていたそうですよ。」

「その様な不良品なら文句を垂れるところだが、まあ、便利なのは間違いない。」

ムゲラル教皇は嫌そうな顔をする。

「こちらの進捗はどうだ?」

「結局出力不足ですね。解決は同時になりそうです。」

「時間が勝負か。」

「そうですね。試料がもう少しあれば早くできるのですが‥‥。」

「忌々しいゲーキの犬が嗅ぎまわっているからな。もう表立っての手出しは難しい。あの地を領主が改めて封じたと聞いている。欲のない領主だ。」

「消さないのですか?」

「ゲーキの犬もそうだが、密かにアステアラカとグランヴィディアの暗部も入り込んでいるらしい。手出しは難しいとのことだ。」

「あの2国もその祠の価値を知って何故放置しているのでしょうか?」

「さあなあ、まあ、そこの2国間で不可侵協定でも出来ているのかもしれんな。であればあの領主はお飾りか。圧力をかけるならそちらからということだが、結局外交結果が実を結ぶ前にタイムリミットになる。やるだけ無駄というものよ。」

「さようですね。ですが、第二案、あれは本当に?」

「わしは用心深いからな。何があっても、というやつだ。」

「個人的にはあまり賛同は出来かねますが。」

「仕方ないだろう。だが、アステアラカの、カルシタン王、あやつの情報からすると、まあ、そこまで心配することではないのかもしれんが‥‥。」

「信用しておりませんでしたからね。」

「人を人とも思わん奴らを信じれるわけがないだろう。」

「矮小な存在は足掻くしかございませんからね。」

そうして見上げたエマの視線の先には淡く揺らぐ人類のような形をした何かが居た。

『v・・n・・・、v・・・h・・・!』

何か分からない言語を叫ぶその何か。

偶然発見され、解析中であるが、その力はフェンガルとは比にならない。

「最後の切り札、か。切らずに済むなら一番だがな‥‥。」

この千年現れていない存在。

勇者と対をなす存在。

「魔王、か。」


ところ変わって此方はナーラック~グランヴィディアの道中でございます。

「ちなみに、私がこのような厳重な警備で皆様をアステアラカに送るには実は理由がございます。」

移動中にシーリカ様がそう口を開かれます。

「実は魔獣被害が増えている、とは皆さまお聞きにはなっているとは思いますが、それが少し不思議な形でして。」

「と、仰いますと?」

「ペリュトンがデューバレーの馬車を襲って、リア様がワンパンでお助けされていたのは覚えていらっしゃるでしょうか?」

「忘れようにも忘れられない光景だけどね。」

小さな女児が空から降ってきて魔獣をワンパンで倒したのは衝撃映像だったとレンツ様の言でございます。

「そのあとのレンツ様の働きも素晴らしいものだったと聞き及んでおります。」

シーリカ様はニコニコでございます。

同じ魔獣とはいえ同族意識は全くないとのことでございました。異種族になると別の種類の生命体枠のような意識になるのと、シーリカ様やユーズゥ様のような言語能力がない魔獣は下位のランク扱いとなるようでございます。

「実はペリュトンではないのですが、各国で似たような被害が続出しているとのことで、三大大国はそれぞれ大貴族がかなりの打撃を受けていると聞き及んでおります。」

「大貴族だけなのでございますか?」

「流石ヴィルヘルミーナ様。そうなのです。餌とするなら民間人を狙うべきところを、まあ、高魔力の者のほうが餌としては高品質なのでそれを狙ってというのであれば分からないでもないですが、キッチリ国の中でも侯爵~公爵クラスの者だけ狙っているとのことでした。」

「‥‥では人為的で、魔獣使いが存在しており、大国という枠外の何かが裏を引いており、カルシタン王が亡命したことを考えるのであればエプラスに現況何かがあると考えていらっしゃるということでございましょうか。」

「まったくもってその通りでございます。」

「とすると解せないことがあるな。なぜ自国の貴族も襲う? 偶然を装うのであればある程度ばらけさせても良いとは思うのだが‥‥。」

「エシオン様の仰る通りです。」

シーリカ様は頷かれます。

「此処まで策を練る人間がそこまで愚かとは考えられません。となると物事には原因があると考えるのが当然です。」

「バレてもかまわないと思っているということ?」

「それかバレるのが目的なのかもしれません。となるとエプラスの動きを察した第三者の可能性もあります。」

シーリカ様は悩み顔でございます。

「大国以上の勢力が複数存在していると考えたくはないのですが‥‥。ちなみにゲーキのほうでは初耳だったようです。おかげさまでレム様はまた走り回ることになり当分こちらには帰ってこれないとのことでございました。」

「レム様もなかなか大変でございますわね。」

現地の情報を知る数少ない人間ということで引きずりまわされているとのことでございました。

「情勢によってはゲーキの侯爵クラスが此方に出てくる可能性も御座います。彼らの魔力量は私では足元にも及びません。ヴィルヘルミーナ様に失礼を働かないかだけが今の懸念事項です。」

シーリカ様はしゅんとされております。

「まあ、恐らく今回のゴタゴタもそこらへんと繋がっているのだろう。どうせ解決せねば毎日暗殺者がやってくる生活が続くだけだ。さっさと済ましてしまおう。」

エシオン様はそう仰います。

「エシオン様はよろしいのですか? セントロメアの王子ですよね、一応と申してよいのか悩みどころですが‥‥。」

それを聞いてエシオン様は苦笑されます。

「まあ、継承権のない立場としても少し自由にし過ぎているのは否めない。だから、恐らくこれが私が自由に動き回る最後の旅になるとおもう。」

「そっか。そうだよね。」

レンツ様は静かに頷かれます。

「‥‥。」

アイオイ様は静かに俯かれております。

「アステアラカでは恐らく時を置かずに失踪したカルシタン様の代わりにカルネイル様が国王となるだろう。その場合繋がりとして私も外交に戻らねばならない。私は恐らく騎士団長か副団長として父上か、恐らくテレギン兄上と共に外交に付くこととなるだろう。」

「最後の自由時間って感じ?」

レンツ様は笑ってそう仰います。

「モラトリアムにしては大事になりそうだがな。」

エシオン様は苦笑されております。

アイオイ様は静かにされておりました。


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