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2_27 悪役令嬢の葛藤

そろそろナーラックも夜は若干冷えてまいりました。

空を見上げますと、ベルクートアブルと同じ星空が見えます。誤差などはあるのかもしれませんが、同じ世界に存在しているのだろうと思う瞬間でございます。

ただベルクートアブルとは異なり、街灯の少ないこの世界はとても星空が綺麗でございます。少し涼しくなって澄んだ空気のせいかより綺麗に見えます。

「また屋根の上?」

「あら、レンツ様。どうかなさいましたか?」

「屋根の上好きだよねヴィルさん。」

「なんとかは高いところが好きと申しますから。」

「まあ、景色がいいところはみんな好きだよね。」

レンツ様はホットココアを差し出してくださいます。

「流石に多少冷えるからね。」

「お気遣いありがとうございます。」

先日の野営を思い出します。

「あそこの魔獣モドキが気になる感じ?」

「色々考えておりましたが、残念ながら人にはもう戻せないようでございます。根源的に変わっておられておりました。今、私の懸念点は、ナーラックの安全でございます。」

「アステアラカからの圧力だけだと不安だよねぇ正直。」

レンツ様はココアを飲みながらそうつぶやかれます。

「いきなり他国に暗部を送り込んでくる時点で恐らく話が通じる相手ではないのでしょう。私がいま一番懸念しているのが、普通に外交ルートから調査依頼を出せばよいのをすべて無視して強硬手段を取っている理由でございます。」

「確かに。別に普通に調査の名目で断る理由も無いからねぇ。」

「断られると踏んでいたのでしょう。そして知られることすら厭っていたのでしょう。恐らくあの地は私たちが思う以上になにか重要な場所なのでしょう。」

「ヴィルさん‥‥。」

「あの地は私にも恐らく何かしらの関係のある場所でございます。そこから何かを知り、何かに使おうとしているのでしょう。」

「多分そうなんだろうね。」

「色々考えていたのですが、私、用事等物事はさっさと済ます主義なのです」

「ん?」

「分からないなら本人に直接聞くのがよろしい気がしてまいりました。」

「それもう完全に宣戦布告だけどね‥‥」

「まあ、あの暗部が居る以上何かしらのいさかいにはなるとは思いますが‥‥、落としどころがどこになるかですわね。」

「しらを切るしかないか‥‥、ゲーキが関わっている可能性は‥‥?」

「それも懸念事項ではございます。手紙の行方もまだどうなっているかの続報が来ておりません。仕事の早いレム様にしては珍しい話でございます。恐らくどこかで難航しているのでしょう。」

「それとこれが関係ある感じ?」

「流石に情報が少なすぎて判断しかねるところですわね‥‥。一度レム様に連絡をしてみましょう。」

「まあ、それがいいよね。じゃあ早く寝た方がいいよ。流石に冷えるからね。」

「そうでございますね。」


レンツ様が去られた後、こっそりと屋敷から抜け出して、かつての祠のあった場所に参りました。

身体強化を使うと、1時間もあれば到着する距離でございます。

魔物?達は私の方をちらっと見たのちに、また静かにされております。

「私は、私の肉体はあなたたちの仲間なのでしょうか?」

私の質問に返事を返すものはおりませんでした。

レンツ様達は膨大な魔力を有するようになりましたが、その魂のありようが変わったわけではありません。

となると、魔力量は肉体に依存している可能性があります。

この地で私の前世と同程度の魔力量を有するものは、この魔族?以外には存在しないかもしれません。

すべては確証のない仮説ではございますが。

「ヴィルヘルミーナ様、夜分どうされました?」

「シーリカ様? なぜこちらへ?」

アステアラカに居られたと思っておりましたが。

「先ほどナーラックに到着いたしましたが、ヴィルヘルミーナ様の気配がなく、においをたどって参りました。かなり身体強化を使いました。」

ぐっと拳を握って笑うシーリカ様。

「ここが例の祠跡地ですか。前王朝時代の瓦礫がありますね。」

「シーリカ様は此方の歴史にも詳しいのですか?」

「一通り習っております。時間も御座いますもので。」

きょろきょろと周りを見回されております。

そういえば、ユーズゥ様より年上でございました。

「ところどころ凄まじい魔力を持つ水晶が落ちてますね。」

ヒョイと摘まみ上げるシーリカ様。

「触っても大丈夫なのですか?」

「魔物はもとより魔力の塊のような存在ですので、注意していれば触れても特に問題ありません。確かに魔力を持たない生物が触れるのは危険かもしれませんね。とはいえ、取り込もうとすると酔ったり、最悪死ぬ可能性もありますが‥‥。」

くるくると回して観察されております。

「中に細い鋼線みたいなのが見えますね。大きな何かのひとかけらなのでしょうか。」

「もともと巨大な水晶があって、それが砕け散った、ということでございましょうか。」

「その可能性はありますね。いくつ存在していたのかは分かりませんが。」

シーリカ様は水晶の中をじーっと見られております。

「中に文字が書いてありますね、かなり小さいですが‥‥、此方も前王朝時代の文字みたいですね。ただの番号が書いてあるみたいですね。ただ、このような小さな文字を彫り込むのはなかなかの技術ですね。」

「当時の技術はどのようなものだったのでしょうか?」

「前王朝時代は千数百年前ですが、大きな戦争があり、詳しい情報は残っておりません。当時のゲーキはかなり壊滅的な打撃を受けたとの噂はございますが、当時生きていたものは殆ど今は残っておりません。今より魔道技術は発展していた、との噂もありますが当の王国自体はすでに海の藻屑です。」

「まあ、流石に千年前でございますからね。」

「ゲーキで一番古世代の方々は生き残ってはいらっしゃるのですが、ボケたり、記憶を代謝されて失ってたりされておりまして、あまりろくな記録がないのです。魔力媒体に記録を保存していたという話も御座いましたが、戦争の折魔力枯渇によりすべての記録が消えたとのことでした。紙や碑文等位しか現在は残っておりませんね。」

「記録の長期保存というのも難しい話なのでございますね。ではやはりこの祠の情報はないのですか。」

「ナーラックにある資料以上のものは分かりませんでした。入ったら出てこれない祠だったので基本的に罪人の処分とゴミ捨て場として使われていたそうです。」

「罪人‥‥。」

その単語に理由のわからない引っかかりがあります。

理由は分かりませんが、何となく、この祠にこの肉体は所縁があったのでしょう。


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