2_20 悪役令嬢の愛弟子の起こす波紋と 数年後へのフラグ2
「リア様がソレイユに来ないのですか!?!?!?」
バンと机をたたいて大声を上げるのはチゾノ・デューバレー。本日も冷酷王子の仮面は行方不明である。
「まだ本決まりではないがな。」
向かいのソファーに座っているのはステリ。
「いったいなぜ‥‥?」
「いや、私もシーリカ殿から聞いたばかりだったのだが。」
「え? セントロメアの方々はソレイユに行かないのですか?」
ラウンドとの打ち合わせが終わり、ああ、そういえばという形でシーリカ殿は爆弾発言を落としていかれました。
「ええ。まあ、そもそもかの地は此方から遠くにありますので、そもそも誼みを深める価値もあまり高くはないですし。」
そもそも過ぎる話をするシーリカ。
そもそも過ぎてリアクションも取りづらい。
「では皆さまセントロメアの学園に通われるのでしょうか? であればソレイユとの交流会を考えてもよいかもしれませんな。」
フミナ・カイダル侯爵はそう言う。農業のカイダルなだけあり、他国の農業も興味があるのでせっかくだから半分というところである。
「いえ、私の母国に招聘しようかと思っております。」
「え? シーリカ殿の?」
「ええ。皆さまでしたらゲーキという国は耳にされているでしょう。」
シーリカはにこりと笑う。
レムの段階でゲーキという名前はすでにハルカ経由でラウンドには知られている。どこまで広まっているか分からないので名前くらいは出しても問題ないという判断である。
「とはいえ、ゲーキという国をあまり口に出すと、不快に思う方も居られます。あまり口にしない方が得策でしょう。」
(不快に思うのは、聞いた第三者ではなくシーリカやそれより上が、ということか。)
ステリはそう判断した。
ただ、結局あの地方領主は一体何者なのだ、という疑問だけは募っていく。
「ああ、そうそう。」
ポンと、思い出したようにシーリカは付け加える。
「現在、リア様のご実家のナーラックでは不審者が散見されているようです。私の配下を警備に貸し出しております。皆様もご注意くださいませ。」
盛大なクギを刺していく。
「なるほど。気を付けましょう。」
フミナは頷く。
「この3人で食事をするのも久しぶりな気がしますな。」
金融のステリ・デューバレー、海産のコシール・ソフィレント、農業のフミナ・カイダル。ラウンドの次点に位置するアステアラカの実働部隊の公爵3人組は皆そこそこ多忙である。
「そうだなステリ。最後に集まったのはいつだったか。」
フミナは首をひねる。
「コシールの長男のお披露目以来ではないか?」
「ああ、もうそんなにか。」
コシールはそういえばそうだった、という表情をする。
「さて、まあ、ややこしい話はともかく食事をしようか。ふむ、コーンの味が前より良い気がするな。」
「魔力増加の影響か農業は上昇傾向だ。逆にこのまま増え続けると害獣被害のほうで頭を悩ませる感じになるな。」
「ふうむ。うちの海産業も海の魔獣がネックでしたが、王家から時々テイマーの方が出張ってきてくださいまして、契約したクラーケンで一掃してくださってますね。」
コシールは野菜を味わいながらそう言う。
「ゲーキから招聘したというテイマーか。どういう国なんだ?」
「表に出ない国の1つで、古い盟約があるとは聞いているが、場所も秘匿されているらしい。とのこと。」
ステリは調べた情報を言う。他の面々も知ってはいるだろうが。
「謎だな。幾つかある不可侵区域・不到達地点の中の一つか。」
危険だから等の理由で地図にはあるが行ってはならない場所というものがある。三大大国で厳密に管理されており、それを破ったものは最悪家を取りつぶされることもあるという重罪であった。
「元々紫のが代々あそこからの出ということだろう。かなりの大国なのだろうな。」
フミナはそう言う。
国の中枢に他国の者が居るなどそもそもありえない話である。
外患誘致し放題である。
まあ、隷属の呪いをかけてはいるのだろうが。
「ふむ、魚もうまいな。この時期にしては脂が乗っている。」
「王室用にちょっと魚を捕まえてくださって。これはヒミツですよ。」
「国防の魔獣で魚取ってきたのか‥‥!?」
フミナはビックリする。
「うーん、山の魔獣もそれでどうにかしてくれんかな。」
「クラーケンなので干上がりますよ。」
「それもそうか。ん、山の魔獣をテイムすればよいのでは?」
「流石に山まで魔獣任せにはできんだろう。何のための騎士団だといわれるぞ。ただでさえ経費で頭を悩ませているのだ。」
ステリはそういう。
「まあ、国家紛争は禁止されているとはいえ、未参加国家との小競り合いはあることだしなぁ。抑止力みたいな目に見えない経費は理解しがたいだろう。適正費用の目安がないのが一番の原因だとは思うが。」
コシールはため息をつく。
「明日の安全より目の前の米が大事な人間とは相容れんだろう。米が食えるのは安全ありきだが、当の本人には関係ないからな。結局福祉の延長上の話ではあろうが。」
「結局金だな。悩ましい話だ。」
ステリはため息をつく。
「しかし残念だな。リアだったか、うちの娘も気に入っていたようだったぞ。」
フミナは娘のフランを思い出す。
プリプリしながらも楽しそうに話していたのが印象的であった。
「まあ、命の恩人ですからな。」
ステリはワインを飲みながら思い返す。
真面な攻撃が通じない魔獣をワンパンで倒したのを見た瞬間、安堵よりはさらに凶悪な魔獣が出たのではないかと生きた気がしなかった。
「ナーラックではそれくらいの戦闘力がある人間がゴロゴロしているのか? 一緒に駆け付けた少年も相当の使い手だったと聞いているぞ。」
「耳が速いことで。大怪我していたにしても、うちの騎士達複数でまごつく相手を一掃してくださいましたね。話を聞く限りは元冒険者で今はナーラック領の使用人とのこと。ただ少なくともAランク程度の強さはおありになるようだった。確かにあの一団だけで第二か第三騎士団くらいならいい勝負できるかもしれないな。」
「セントロメアはその様な武勇の国だったか?」
「いや、ただの農業国のはずだ。時たま強い人間が排出されるという都市伝説まがいの話はあったが‥‥。噂もバカには出来んという話かもしれんな。」
という会話を思い出しつつ、チゾノに伝える。念のためゲーキという単語は省き、シーリカ殿のゆかりある土地としている。
「‥‥セントロメアに留学をすれば強くなれますか?」
「ありえん話だな。セントロメアの土壌というよりは、かの者たちが外れ値なのだろう。」
「なら私もリア様と同じ学園へ!」
「公爵令息の目的は強くなることではなく、他の貴族たちと誼を結ぶことだぞ?」
「‥‥分かっております。」
「まあ、リア殿もずっとそちらというわけではないだろう。帰ってきたときに成長を見せてあげればいいのではないか? まあ、あの調子だとリア殿は数年後にはSSランクを超えそうな気はするが‥‥。まあ、人間の価値は1つのものさしだけで図るものではないのは分かるな?」
「自尊心の問題なのは分かっております。」
「子供なんだからそれだけわかっていればよい。あとは無理せず、慢心せずというところか。」
「難しいですね。」
「まあ、此方でもシーリカ殿にいい家庭教師がいないか聞いてみよう。それくらいなら良いだろう。」
「助かります。届かなくとも、目標にはしたいのです。」
「ほどほどにな。」




