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2_17 悪役令嬢と壮大な未来へのフラグ

その晩、屋敷は、死屍累々となっている保護者の面々と、疲れてスヤスヤねているお子様たちで静かなものでございました。

ハノイ様は打ち合わせ‥‥打ち合わせ‥‥と唸りながらソファーで沈没されておりました。

実は明日お子様のうち男の子メインでお披露目があることを知ったのもあるようでございます。当家はリア様だけでしたので、完全に意識の外でございました。


あの後、お子様たちとハノイ様は中央で数曲踊ることになっておりました。

皆様が盛り上げてきますので、私もかなりハイテンポな曲やらちょっとネタに走ったような曲をやっておりましたが、ピアニストの方はかなり腕が良く合わせてくださいました。


「ヴィルヘルミーナ様、本日は大変お見事でした。」

シーリカ様はぶどうジュースを渡してくださいます。

「いえ、売り言葉に買い言葉のようなところも御座いますので。」

「ふむ、あの無礼な子供はいいようにしておきましょうか?」

口の端から犬歯をのぞかせるシーリカ様でございます。

「子供のやることでございます。ハノイ様やリア様も楽しく踊っていらっしゃいましたのでまあ、結果的には良かったのではないでしょうか。」

「承知いたしました。」

「なんか楽しそうにしてるよねー。」

向かいのソファーではお酒を飲んで管を巻いていらっしゃるハルカ様。

「出禁だから何も見えなかったよー。私自体にも監視ついてるから巻くわけにもいかないし! なんなの!?」

「まあ、実際一度王家を裏切っておりますのでそこはまあ。」

「ダヨネー。」

一度はマルチア様側の密偵として、そののちは国王側のスパイとして、最後は私側について国王を裏切るという裏切り3連発でございます。首を切られなかっただけ御の字といったところでしょうか。

「ハルカ様はデューバレー様をご存じで?」

「そら公爵だからね。色々知ってるよ、色々。」

「まあ、その色々は忘れておいた方が身のためでございましょうか。」

「ダヨネェー‥‥。」

「ハルカ様は落石は事故だと思われますか?」

「んなわけないよね。落石が公爵の馬車にストライクして、たまたま相性の悪いレア魔獣が徘徊してるとかどんだけなのよ。」

「証拠は何かありました?」

「落石が人為的なもの、まあ、人だか知能のある魔獣だかは分からないけれど、工作のあとはあったねー。誰かは分からなかったけど。まあ、逆に言うとだれかわからないくらいの工作ができるのは残りの大国2つのどちらかだね。」

「なるほど。まあ、それも明日カルネイル様とご相談いたしましょう。」

「あのぉ。」

シーリカ様は言いづらそうにもごもごされております。

「一応主になりますので、カルネイル様のご意向を尊重しようと思ったのですが、少し話からは状況が変わったような印象でして。実はカルシタン様はそのどちらかの大国に亡命されたらしいのです。」

「マジで?」

ハルカ様は驚いていらっしゃいます。

「アステアラカの王って、血の契約で国外に出れなくなる代わりに色んな知識とか長寿とかが授かる契約だった‥‥、あ、ひょっとしてヴィルさんが上書きしたから?」

「なるほど。契約の呪いが強すぎて私に不利益をもたらさないという確信があれば、前提として国外に出れる、ということですか。」

「ということは、カルシタン様はヴィル様のために何か動かれている?」

シーリカ様は首をひねられます。

「ヴィル様が何か困った状況になることがあまり想定できないのですが。」

しょんぼりされております。

「ヴィルに敵対しない、と、ヴィルの利益になる、はまた別だね。」

「そこを突いて動いている、ということでしょうか。」

シーリア様は眉間にしわを寄せて悩んでいらっしゃいます

「本人に聞かないと分からないことではございますが‥‥。」

「あと、ヴィル、あなた多分昔は無敵みたいな感じだったんだと思うけど、ちょっと注意した方がいいよ。私が2人いたら多分殺せてたもん。プロレスみたいに受ける癖はやめた方がいいと思う。」

「‥‥そうでございますわね。」


「どうした。珍しく暗い顔をしているではないか。」

夕食を終え、残務を処理しようとしたところ、屋敷のバルコニーで物思いに耽るチゾノに話しかける、ステリ・デューバレー。

「父上。リア様の不興を買ったかもしれません。」

「ふむ?」

「いつものようにカルバー様と言い合いになりまして‥‥。」

「まあ、レディの前ですることではないな。」

ステリはバルコニーに腰を掛けて、執事に合図をする。

「お父様?」

「公爵らしくないか? たまにはこれくらいよかろう。」

ステリは首をすくめる。

「リア様もそうだが、父上のハノイ殿も中々だな。見事なダンスだったぞ。」

「セントロメアの知識はあまりないのですが、そのような特殊な国なのですか?」

「さて‥‥、私の情報でもただの小国、その中でもナーラックはかなりの片田舎、というイメージではあったが‥‥。大災害の起きた土地という印象だな。」

「歴史の先生に昨日聞きました。山脈が消し飛んだとか。」

「まあ、昔の話だからある程度誇張はされてはいるだろうが、特殊な人間がたまに排出される、という噂はあるな。セントロメアは。」

ふうむ、とステリは顎をなでて考える。

ハノイ殿は間違いなく無魔力であった。テレジア殿の魔力は分からないから、リア殿の力はそこからかもしれないが‥‥。

「さて、お主はどうしたい? 立場からすれば第三婦人位に打診をすることは可能だが。」

「その様な恥知らずな者は公爵家に居るとは思えません。」

チゾノは心外といった顔をする。

「だが気に入っているのだろう?」

「あの力を見て、興味がわかない人間が居ますか?」

「そうだな。」

騎士団の者にペリュトンについて聞いてみたが、勇者か聖女以外だと倒すことが困難と言われていた。つまりリア殿は、聖女に類する力を持っていると思って間違いはない。あの強さからは大聖女に近いものではないか。王族が取り込んでもおかしくないほどの力である。

また、あのシーリカという最近現れた者。不可侵の紫、ラウンドの背後に居る者らしい。

それがあのナーラック一族に遜っている。つまりラウンドより上位にあのナーラックの者が居ると考えておかしくはない。かなりの口止めが入っているようではあるので、口に出すことすらはばかられるような事情があるのだろうが‥‥。いずれにしても下手に突くと怪我をする話題だろう。

となると、リア殿が此方を助けたのも仕組まれた話か‥‥? タイミングが良すぎるが‥‥。だが、特に何もアプローチもなければ、あのハノイ殿が腹芸ができるとも思えない。そちらは偶然か‥‥。

「お父様?」

「私にもまだ分からないことが多いな。ああ、丁度ホットココアが来た。」

使用人が温めたココアとマシュマロを持ってきた。

「お母さまに怒られますよ。」

「なあに、証拠は胃の中さ。」

「ふふ、全くお父様は。」

「お前も外ではそのような顔をすればよいのに。」

「‥‥そうしていければ良いのですが、子供は愚かですから。」

「お前もまだ子供だろう。」

チゾノの頭をなでる。

「少なくとも明日のお披露目まではな。」

「そうですね。」

ふう、とココアが少しだけ涼しい夜風から癒してくれる。

「正直リア殿にはあまりかかわらない方がいい。」

「お父様!?」

「王家のほうでゴタゴタがあったみたいだが、ラウンド以外には一切情報が来なかった。公爵家の我が家ですらだ。それにあのヴィルヘルミーナ殿が関わっているらしい。そしてその愛弟子のリア殿。正直危険だ。」

「それはそうですが‥‥。」

「悪い意味でかかわっているわけではなさそうと言っていたな。それが分かっただけで一安心だ。ただ、王家のもめごとにわざわざ首を突っ込む必要性はないだろう。」

「私は恩を返したいだけです。」

「ならば私が返しておこう。それが筋だろう?」

「‥‥。」

「それに子供の身でできることなど少ない。リア殿が困っていたら助けてあげる、それくらいでよいのではないか?」

「明日まではですか?」

「あとは実力次第だな。」

ステリは冷めたココアを飲み切って、立ち上がる。

「いずれにしても弱者の助けを必要にしているようには見えなかったからな。それに見合う人間になることだ。」

それだけ言うと、ステリは戻っていった。

「見合うだけ‥‥。」


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