2_16 悪役令嬢一味 大喝采を受ける
「リア様、お友達と楽しくお話しできておりますか?」
すっと後ろから話しかけますと、気づいていらっしゃらなかったのか、皆さまビックリした顔でこちらを見られます。
「あ、ヴィル。」
「ご紹介に預かりました。ヴィルヘルミーナ・ローゼンアイアンメイデンでございます。現在故ありナーラックでお世話になっております。」
すっとカーツイを致しますが、皆さまぽかんとしたままでございます。
「皆様どうされたのでしょうか?」
「ヴィルの仮面がかっこいいからかな?」
「なるほど。子供のころはこういったものにあこがれるものですものね。」
ぽん、と手を打ちます。
「お初にお目にかかる。カルバー・アステアラカだ。詳しくは聞いていないが父上が世話になったと聞いている。」
「初めましてカルバー様。大したことは致しておりませんが、喜んでいただけたのであれば幸いでございます。」
「ふうむ。」
カルバー様は顎に手を当ててこちらをじっと見られております。
年かさの者でしたらぶしつけというかもしれませんが、小さな子供がしているとなんとなくほんわかした気持ちになりますわね。
「そういえばヴィルヘルミーナ殿はこのリア嬢の家庭教師もしているとか。」
「さようでございますわね。」
「金に困っているようであれば、アステアラカでも働き口はあるぞ? 父上に頼んで紹介して差し上げようか?」
「いえ、今のところ不要でございます。」
「なるほど。」
「王族が、地方男爵の家庭教師にご執心とは私今日一番の驚きでございますわ。」
リスロイブ・ソフィレント様は扇で口元を隠してカルバー様にそう仰います。
「聞こえの悪いことを言うな。私の気持ちはわかっているだろう?」
「さて。チゾノ様、株を上げるいいタイミングでございますわよ。」
「都合のいい話だな。」
チゾノ様はふうとため息をつかれます。
「カルバー様、ヴィルヘルミーナ様に何かお願い事があるのではないですか?」
「おお、チゾノ。そうだ。ヴィルヘルミーナ殿はそこのリア殿曰く、何でもできると聞いている。さて、曲も後半だが、正直私はこの曲を聞き飽きた。できればその腕前を見せていただきたいのだがどうか?」
カルバー様は無邪気な笑顔を浮かべてそう仰います。
なるほど。まだお子様でございますわね。分かりやすうございます。
「ヴィル様!」
そこに息を上げて走ってこられたのはカルネイル・アステアラカ様でした。
「おや、お久しぶりでございます。」
「いえ、こちらこそ。ご健勝でなにより。」
一国の王子が地方の、それも男爵の家庭教師(仮面)に丁重な口調で話しかけたことに全員驚愕をする。
「後ほどいろいろと相談事がある、せっかくなのでハノイ殿と共に明日時間あるだろうか?」
「恐らく問題ないかと思われます。さて、ではリア様、少し行ってまいりますわね。」
「ん? どこか用事でも?」
「ええ、カルバー様のご要望により、一曲披露いたしましょうか。少しピアノの人をお借りしますわね。」
「なっ‥‥!? カルバー!」
「ただのお願い事です。」
カルバー様はそう眉間にしわを寄せてつぶやかれます。
「お前は‥‥。また後で話をしよう。しかしヴィル様、無理をせずとも‥‥いや、差し出口でしたな。」
もはやリア様以外はぽかんとしたまま一言も口を挟めていない状況でございます。
リスロイブ様すら目が泳いでいる状況でございます。
とはいえ、私の役目は曲を弾くことですので、あとはレンツ様にでも任せておきましょう。
「リア様、ヴィルさんはどっちに?」
そこにハノイに一言告げてきたレンツ登場。
「ああ、レンツ殿、久しいな。」
「はっ、カルネイル様もお元気そう‥‥とは言い難い顔色でございますね。色々と難しい時期だとは思いますが、お体ご自愛下さい。」
「さすがナーラックの者は聡いな。また明日ヴィル様にも話があるとお伝えしている。レンツ殿にも聞いてほしい。」
「ああ、なるほど。了解いたしました。主にも伝えておきましょう。」
「ちなみにヴィル殿は楽器の腕前は‥‥。」
カルネイルはひそひそとレンツに話しかける。
「ああー、ヴィルさんに関しては心配するだけ無駄な気がするんですけど、ナーラックだと音楽の教師が信徒になってましたね。」
「なるほど。安心した。」
「ちょっと、ちょっと、どういうことなの?」
フランはリアをつつく。
「なにが?」
「どうして第一王子様があなたの使用人と仲良くしてるのよ!?」
「なんか色々あったらしいよ。」
「さっきからずっと色々ばっかりじゃない!? 色々すぎない? そしてなんでそんなに動じてないの!?」
「うーん、私の問題じゃないからかなぁ。」
リアは興味無さそうにローストビーフをもぐもぐする。
正直ヴィルがすごいのは十分知っているし、アステアラカで何か助けたのも聞いているが、それを詳しく知らされていないということは、多分あまり表に出さない方が良いことなのだろうとリアは思っていた。
概ね正解であった。
「‥‥。いや、うん、確かに。えっと、うん、いや、うーん‥‥。」
フランはくるくると表情を回している。
家の事といえば家の事だが、逆に言うと家の事なので言えないこともあるということは、という無限ループであった。
「ヴィルヘルミーナ様は、リア様の師匠ということですか?」
そこにずずいと現れるのがチゾノ。氷の貴公子は本日は閉店している様子。
「そうだね。私と、みんなヴィルにお世話になってるよ。」
急に話を振られたセントロメアの残りの3人は流石にビクッとする。
子供同士はともかく流石に王子までは荷が重い。
「ということは、ヴィルヘルミーナ様はリア様よりもお強い‥‥、ということですね?」
「100倍は強いよ。」
「ほう!」
「ちょっと、チゾノ。今日はどうしたのよあなた本当に。変な薬でもやってないでしょうね。」
「心底失礼だなリス。」
「私も珍しく同意だな。いつものキャラはどうした?」
そこに叱られて若干しょげているカルバーも合流。カルネイルとレンツはハノイと向こうでお話中である。
「余計なお世話です。また怒られますよ。」
「いい度胸だな。」
チゾノとカルバーは笑顔でにらみ合う。
「ご飯の邪魔だから話が終わったらどっかいってもらっていい?」
珍しくリアは真顔でぶった切る。
全員ビクっとなっていた。フランだけ妙にキラキラした目でリアを見ていたが。
と、その時会場がざわざわしだす。
「さて、常連の方々もそろそろ飽きてきたころではないでしょうか。お年を召した方以外は聞き覚えのある曲ばかりでしょう。」
ブラックジョークでおざなりなワッハッハという声がする。
「さて、ここでセントロメアより、新しい曲を披露してくださるとのことです。皆さま、ご父兄の方々も我こそはという方、聞いたことのない曲で踊ってみませんか? さあさ、皆さま前へ!」
「スイ、ナルクル、ヤーズ。踊りに行こう!」
リアは3人の手を取って前に行く。
「あ‥‥。」
それを名残惜しそうにみるチゾノ。
「‥‥。」
片眉を上げてそれを見るリスロイブとカルバー。
「さて、私もお父様と踊ろうかしら。皆さま、行きましょう。」
リアが居なくなって興味をなくしたフランは取り巻き(子分)をひきつれて其のまま去っていく。
フランはわりとドライであった。
「では、ヴィルヘルミーナ様、どうぞ!」
司会がジャーンというBGMを鳴らすと同時にヴィルを紹介する。
「ご紹介頂きました。ヴィルヘルミーナでございます。さて、とはいえ細かいことはよろしいでしょう。早速ですが皆さま、腕に自信のある方、中央へどうぞ。少し早めですがみなさま足首にご注意くださいませ、ではピアノの方、用意は大丈夫ですか?」
ヴィルがピアニストのほうをみると、真っ青な顔でこくこくと頷いていた。
先ほどの裏での鬼練習の結果である。
「まずは軽くでいきますので、無理そうでしたらお休みくださいませ。」
そしてヴィルは、ピアニストに合図をするとバイオリンを構える。
その曲はアステアラカに存在しない、チャルダッシュであった。
「ふむ、スローテンポから始まるようだな。」
何気にダンスが得意なハノイは、せっかくだからとテレジアを誘って、とはいえ少し端で踊っている。
「なかなかテンポが面白くて楽しい曲ね。」
ピアニストがテンション上がっているのか異様にねっとりした始まりであった。
ヴィルも負けず劣らず、ねちょねちょした始まりをする。
「なかなかクドくないかしら?」
「ん、ちょっとテンポが上がってきたかな。」
「いや、そうでもないわね。なかなかヴィルも溜めてくるわね。」
フフフと二人は笑いあうが、周りの一般的な曲になれている貴族はちょっとわたわたしている。
ナーラックの面々はヴィルのいつもの曲で耳が慣れているので余裕であった。もっとえげつない曲も何度も聞いている。
「なかなか振り回してくるわねヴィルちゃん。」
「楽しそうで何よりだ。ピアニストのほう大丈夫か? なんか恍惚としてない?」
と見た瞬間。
「うおっ!? 急に早くなった。」
「あっはは! すごい! 指に残像残ってるわよ。」
「これは足首ひねりそうだな。ただ楽しい曲だな」
周囲の貴族はわたわたしている。
「あははは! すごいすごい。あなたもやるわね。」
「何年一緒に踊ってきたと思ってるんだ。」
と、急にまたテンポが落ちる。
「ころころ変わるなこれ。飲み屋の曲じゃないか?」
「お酒入って踊ると楽しいかもね。なんか最後はしっとり気味だし。」
くるりとテレジアを回してゆったりと踊る。
「終わりかしら?」
「ああ、って、また速度あがるのね。」
「ヴィルちゃんすごい楽しそうよ。」
「ピアニスト頭振りまくってるが、大丈夫かあれ。」
そして、クライマックスでジャン!と弾き終わった瞬間、会場からは割れんばかりの拍手が。
「無茶苦茶するなぁ。」
と、思ったら、なぜか自分たちにも拍手が向けられていた。
「いやいや! あのような曲を踊りこなすとは!」
「さぞや名のある方が教師として居られたのでしょう。お名前を教えてもらっても!?」
「奥様もその身のこなし、素晴らしいですわ!」
「素人とは思えないキレですわ!」
教師は渦中のヴィルヘルミーナで、奥様のキレは元Sランク程度の実力者だからであるが、急に貴族に囲まれた経験が無い二人はフリーズしていた。
それを見て、シーリカはあの身のこなし、ダンスの腕前、そして急に上位貴族に囲まれても欠片も動じないとは、流石ヴィルヘルミーナの寄親だなと斜め上に感心していた。
同時刻会場ど真ん中で華麗に踊っていたセントロメアのお子様達にも拍手が降り注いでいた。
なおこの後さらにテンポを上げたわりと本気のヴィルの姿を見て全員が驚愕したのはまた別の話。
実際の曲を聴きながら読むと尚情景が浮かびやすいかもしれません。
チャルダッシュ自体ではお気に入りは小●太夫のやつです。




