2_12 悪役令嬢アステアラカなう
そんなこんなで、道中いろいろございましたが、アステアラカ首都アラタに到着いたしました。
「おー、これが宿‥‥宿? 屋敷では??」
巨大な屋敷を前にポカンと口を開けるナーラック領の面々。
「いつでもヴィルヘルミーナ様がいらしても大丈夫なように屋敷を一つ押さえております。普段はゲーキ関連者が使っておりますのでお気遣い無く。ささ。」
にこりとシーリカ様は笑顔でエスコートされます。
「デビュタント時期は宿も埋まっておりますので、ウィンウィンですのでお気遣いなく。セントロメアの方々はもうおつきですので、また後ほどご案内いたしますね。」
シーリカは固まるハノイとテレジアをエスコートして屋敷の奥に消えていかれました。
「うちのおうちの5倍くらいありそうだね!」
リア様は目がキラキラされております。
「ヴィルさんの実家とどっちが大きい感じ?」
「そうですわね‥‥。庭を入れてでしたらこれの10倍ほどでございましょうか。」
「無茶苦茶やでぇ‥‥。」
レンツ様はキュゥと変な声を出しながら遠くを見つめておられます。
「大きくても不便さのほうが強いですが、分かりやすい権威というものは何かと便利でございまして。言語外コミュニケーションというものでございましょうか。」
「究極的に利便性というならそれもそうなのかもしれない‥‥。」
レンツ様は首をひねられております。
「あ、みんな居た。」
リア様の視線の先には、庭の隅っこで遊んでいるセントロメアのお子様たちと、お付きの者たちが見えます。
「あ、リアちゃん。」
スイ・ファストロット様、バイク・テューダーローズ様、ヤーズ・マロカシュ様の三人組でございます。
「みんなひさしぶりだねー。」
リアさまがととと、と走って近寄られます。
「なにか大変だったみたいだね。リアは大丈夫?」
ヤーズ様がリア様の手を取られます。
「うん、みんな大丈夫。チゾノ君っていう子と仲良くなったよ。」
「流石。卒業までにはリアに追いつくぞ。」
スイはぐっと手を握って笑われます。
「みんな今何やってるの?」
「屋敷が広すぎて落ち着かなくてね、隅っこで遊んでたんだ。」
バイク様は苦笑されます。
「明日の王城はもっと広いんだろうなぁ。今から気が重いよ。」
「バイクはもうちょっと自信を持つのが大事ってヴィル先生にも言われてるだろ。」
スイはバイクの背をたたく。
「うーん、頑張るよ。」
「お子様たちは私が見てるから二人とも一休みしてくれば? シーリカの部下も居るみたいだし。」
ハルカ様はひらひら手をふってそう仰います。
「夕食まではまだ時間があるだろうし、ヴィルさんも旅のホコリを落とした方がいいかもね。」
「お部屋を汚すわけにもいきませんものね。ご厚意に甘えておきましょうか。夕食までにはリア様もお風呂によろしくお願いいたします。」
「おっけー。」
大きなお風呂を使わせていただき、さっぱりしたところで夕食用のドレスに着替えて食堂に向かいます。
そこにはちらほらと皆様がお集まりでした。
「お久しぶりです、ヴィル嬢。ナーラック以来でしょうか。」
ナルクル・テューダーローズ様はにこりと会釈されます。
「お久しぶりでございます。ナルクル様もお変わり無さそうで安心いたしました。あれから体調はいかがですか?」
「ええ、ありがたいことに絶好調です。息子ともどもお世話になりっぱなしで。この礼はいずれ。」
「こちらの都合に巻き込んだのもあるがな。」
ハノイ様はそうおっしゃいます。
「それはそうですね。」
「そこは否定しろよ。」
「クックック。」
お子様同士と同じで親同士もお友達のようで楽しそうですわね。
やはりセントロメアの風土は特殊なのでございましょうか。
その後集まってきたお子様たちも含めて和やかな夕食となりました。
「では、この場を代表して、ハノイ、お前が仕切れ。」
「あー。俺か。ゴホン、では、同じセントロメアの友人をアステアラカ王国という大国に招待、またデビュタントを行うという幸運に、そして皆のこれからの発展とそして、われらの子らの平和な学園生活を願い、乾杯!」
「「乾杯!」」
食後はのんびりお酒を飲みながら、大人だけでデビュタント準備等のすり合わせでございます。
何故か私の前にはぶどうジュースでございます。ハルカ様が残像すら残らない勢いで取り換えられておりました。
まあ、確かにお酒に弱い人間が打ち合わせで飲酒をするのは褒められたことではございませんわね。
ハルカ様とハノイ様はお互いに深くうなずいていらっしゃいます。
「さて、来週にはついに恐怖のデビュタントだ。正直俺はアステアラカの貴族なんて誰も知らない。よってお手上げだ。」
自信満々に述べるハノイ様。
「投げやり過ぎんか?」
ジルは頬杖をついていやそうな顔をする。
「どうせナルクルが調べているだろ。」
「あなた、学園でもいつも私のノートをあてにしてましたよね。」
「字がきれいで真面目な人間がノート取ってるのに、なんで俺が劣化版を作る必要があるんだよ。」
「はあー、子供には聞かせれんな。」
ヒマキはため息をつく。
「アステアラカで我々が恐らくかかわるのは、まず王族です。」
「まず王族っていうのが胃に穴が開きそうだな。」
ジルは渋い顔をしてワインをちびちび飲む。
「まずはカルシタン・アステアラカ国王。そして長男カルネイル・アステアラカ公爵、次男カルトルージュ・アステアラカ侯爵、三男カルファレン・アステアラカ侯爵。とりあえずこれは覚えておこう。三男のカルファレン様は学園でも教鞭を取られているので、今後も関わり合いになる可能性が高い。」
「ふむ。」
「そしてその他3大公爵、海産のソフィレント、農業のカイダル、そして金融のデューバレーだ。」
「ブゥッ!」
「おい! ハノイ。お前汚いぞ!」
ワインを噴き出したハノイ様の正面にいたヒマキ様は半分ほど浴びられておられました。
「おい、まさかこっちに来る途中に関わり合いになったのって‥‥。」
ジル様が半目になっておられます。
「ステリ・デューバレー様と仰っていたな‥‥。アステアラカで困ったことがあればいつでも来てくれていいし、名前を出しても良いと言われている。」
「お前何してるの。」
ヒマキ様は顔をナプキンで拭きつつ、嫌そうに仰います。
「俺は悪くねえ。何が悪いかといえば、間が悪かった、あと魔獣の運が悪かった。」
「聞いたぞ、リアちゃんのワンパンで吹っ飛んだって? お前国家転覆でも狙ってるのかよ。」
「バカ言うな。セントロメア国王には反意がない手紙を季節ごとに書いてるぞ。」
「変なプレッシャーになってなければいいんだけれどな。」
「エシオン様に聞いてみるか‥‥。」
「エシオン様も王子だからな。俺ら男爵な?」
「他に選択肢が無いのが悩ましいところですね。」
われ関せずのスタンスでしれっとワインを飲まれているのはナルクル様。
「まあ、とりあえずそこくらいまで覚えていれば最低点っていう感じでしょうか。」
「一応デビュタント時には我々も付いておりますのでフォローは致します。」
シーリカ様も笑顔で頷いていらっしゃいます。
「それはとても心強い。お世話になりっぱなしで申し訳ないが、お願いする。」
ハノイ様は頭を下げられます。
しかしこの時、大国のデビュタントに小国が混じり、そこに何故か王族と公爵が集まり、また王族と懇意にしている謎の執事が付き従う異常事態がどうみられるかという想像をしていたのは。
ヴィル以外全員であった。
「「頭が痛い。」」
「皆様、お酒はほどほどと申しますわ。」
「ヴィル。あなたにだけは言われたくないわ。」
「まあ、ハルカ様。」




