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2_10 悪役令嬢 珍しく人助け

お久しぶりでございます。ヴィルでございます。

リア様の本気により宿は一部損壊致しましたが、客室自体は概ね無事なので営業はそのまま出来るとのことでございました。

帰って来られたシーリカ様の部下の方々や、ナーラックの使用人達と相談して、まだ日が高いということで早めに次の町に移動して、そこで本日は一泊しようということになりました。

荷物は後ほど運んでくださるということで至れり尽くせりでございます。

「もうちょっと港町でのんびりできるかと思ったが、まあやむを得まい‥‥。」

馬車に揺られながら、ハノイ様は渋い顔をされておられます。

「まあ、旅程が狂うのはよくあることよ。そのために余裕のある日程を組んでいるんだもの。」

テレジア様は笑われます。流石ナーラックの方々はストレス耐性というか、少々のことでも動じない方が多いですわね。

「わー、空にどらごんさんがいっぱい。」

「え、どこ?」

レンツ様が空を見上げますが、ぱっと見は何もない青い空でございます。

「うーん、ああ、確かに、かなり上空に居るね。良く見えたねリア様。」

「目にぐーっと力を入れたら見えるの。」

「それ身体強化だね。」

「うちの娘がどんどん一般男爵令嬢から離れて行っているような気がするのだが。」

「この前の動きを見る限り人類からもかなりかけ離れてると思いますよ。」

レンツ様はそういって首をすくめられます。

「そもそもAランク自体がかなり稀なのに、ナーラック関係者でこれだけ居る時点でおかしいんだよね。」

「ぬうう、反意がないことを匂わす手紙をもう一回書いておくか‥‥。」

ハノイ様は頭を抱えられます。

「我が主からもナーラックの方々のお手伝いをするように申し付けられております。何か困ったことがあればいつでもご連絡いただければ幸いでございます。」

御者をされているシーリカ様も笑顔でサムズアップされております。

「心遣いに感謝いたしますとお伝えください。」

ハノイは頭を下げる。

ただ正直シーリカに頼んだら国が滅びそうなのでやめておこうと思うハノイであった。


「あっ!」

山を超えつつあるところで、突然リア様が驚いた声を出して、馬車から飛び出されます。

「ちょ! リア!? レンツ!」

「了解!」

レンツ様も馬車から飛び出してリア様を追われます。

「私も様子を見てまいります。皆様は此方に。シーリカ様、皆様をよろしくお願いいたします。」

「承知いたしました。お前ら、半分はリア様をお守りしろ!」

「「承知!」」

同行していた半数と共にリア様を追いかけます。


少し走りますと、数キロ先に崖の下に落ちている数台の馬車と、それに襲い掛かろうとしている魔獣の群れが見えました。

「この辺りは魔獣被害は?」

シーリカ様の部下の一人に尋ねてみます。

「街道自体では報告はないのですが、逸れてしまうと分かりません。街道には魔獣除けがかかっておりますゆえ。」

「なるほど。急ぎましょう。」

遠目で見ますと、倒れ伏す何人かの恐らく護衛と、子供を後ろに隠して剣を振る貴族でしょうか、が見えます。

風の魔法で魔獣を押しているようですが、ひと際大きい個体がじりじり迫ってきております。翼のある鹿のようなものが、口から炎を吐いております。

「あれはペリュトン! 物理攻撃がかなり効きづらい魔獣です。魔獣被害が増えているとはいえなぜこんなところに‥‥?」

部下の方が驚かれます。

「剣や魔法は効きづらいものなのでしょうか?」

「魔法も物理的な機序でダメージを与える場合はあまり効きません。我々とはかなり相性の悪い敵ですね。」

部下の方々も、シーリカ様と同系列とのことでございました。

と、そこに崖から飛び降りたリア様が降ってこられます。

「ていっ!」

かわいらしい声とともに振るった拳が、ペリュトンの顔面に当たった瞬間、輝く衝撃が走りペリュトンは欠片も残さず消滅いたしました。

「はっ!?」「えっ!?」「えええ!!?!?!?」

シーリカ様の部下の方々は顎が外れたのではないかと言わんばかりに口を開けておられます。

その間に追いついたレンツ様が、残りの魔獣をささっと片づけておられました。

さすがレンツ様。如才のない動きでございます。

「リア様、大丈夫?」

「うん。でも、間に合わないかもとおもって急いできちゃった。怒られるかな‥‥。」

「ハノイ様は人助けをして怒ることはしないよ。でも残った人が大変だから将来上に立つ人間はちゃんとほうれんそう、ね。」

レンツ様はリア様をなでられます。

と、呆然としていた貴族の方は膝をついて安堵のため息を漏らします。

「た‥‥助かった‥‥。」

「私はセントロメア、ナーラック領の護衛、レンツです。勝手ながら皆さまの身の危険と判断して介入いたしました。」

「いや、助かった。本当に助かった。ありがとう。私はステリ・デューバレーだ。アステアラカの貴族で、息子チゾノのお披露目に向かう最中だったのだが‥‥。いや本当に助かった。チゾノ、お前もお礼を。」

「あ‥‥、ありがとう‥‥。」

チゾノは涙まみれの顔で頭を下げる。

「やっと追いつきましたわ。」

崖を飛び降りて、レンツ様の横に着地いたしました。

「え、ヴィルさん、あの崖飛び降りたの? 俺らよりさらに上の道じゃん。」

「地面が腐葉土ですので大丈夫かと。」

「人類はそんな頑丈にできてないんだよ。」

「ところで、護衛の方々は皆様大丈夫でしょうか?」

「どうだろう‥‥。」

危機が去りまして、動けるものは倒れている護衛の方々を介抱しております。

転落の段階で一部の人々はかなり重症になっているようでございます。

「ここから病院まではどの程度かかりますかしら。」

「まず崖を登らねば無理だとおもいます。他に恐らく道はなかったかと‥‥。」

ステリ様は青い顔をされております。

ステリ様自体は馬車の中で防御の風魔法を使ったおかげで無事だったとのことですが、馬車外の面々や別の馬車の面々も護衛のリーダーの方の魔法でどうにかストレートに落下するのは免れたとのことですが、リーダーの方は受け身が取れず、意識不明となかなかの重体のようでございます。そこに魔獣が襲い掛かってきて半壊したという経過のようでございました。

「やむを得ないですわね。私の癒しを使いましょう。」

「え、ヴィルさん、使えるの?」

「いえ、いまいち。」

「ぶっつけ本番か‥‥でも他に方法は無さそうだね‥‥。」

それを聞いてステリ様は不思議そうな顔で此方を見られます。

「今から見ることは口に出さないことを誓っていただけますか? アステアラカ王族よりトップシークレットとなっております。」

レンツ様はステリ様に向かってそうおっしゃいます。

「王の名が出ているのであれば貴族として否というものはおりませぬ。」

ステリ様は頭を下げられます。

「どうか我が部下達を。どうか。」

「承知いたしました。では、癒しの力よ。」

アイオイ様が力を行使した時のことを思い出して、手を掲げます。

手のひらからまぶしい光が出現し、当たりを照らします。

「これは!?」

次の瞬間、がばっと倒れていた人たちが飛び起きられます。

「おお!? 痛みが!?」「なんかすげえ元気になったんだけど!?」「でもなんかすげえおなかすいた‥‥。」「半分千切れてた手が戻った!?」

皆さまめいめいに騒がれております。

「静まれ!」

そこにステリ様が声をかけると、皆さま直立不動になりました。

「お前らは崖から落ちたが奇跡的に無事だった。このレンツ様と、ヴィル様、リア様にそこを救われた。以上だ。それ以外の情報は無い。理解できたか!?」

「「はっ!」」

ガッと、胸当てに手を当てて敬礼する護衛の方々。なかなか練度が高いようでございます。


と、そこに崖の上から声がかけられます。

「皆様ご無事ですか!?」

シーリカ様が心配そうにこちらを見ております。

「ああ、無事だ。だけどちょっと立ち往生している一団がいるんだけど、どうにかできない?」

レンツ様が声をかけられます。

「了解いたしました。今から梯子を下ろします。その間に先ぶれを出して代わりの馬車を用意させましょう。少し進んだところに休憩所があります、落石がありましたが既に取り除くように申し付けておりますのでご安心を。其方にけが人の方はおられますか?」

「みんな無事です。」

「素晴らしい。では少々お待ちくださいませ。」

シーリカ様は梯子を固定する用意を始められました。

「流石でございますわね。」

「仕事ができるってすごいかっこいいよね。」

「おなかすいたー。」

平常運転のナーラック面々をみて驚愕するデューバレーの一団。

「なんと豪儀な‥‥。」


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