2_09 悪役令嬢とお迎え
こんにちは。ヴィルでございます。
現在アステアラカの港町で、首都への用意をしている最中でございます。
「本日はいかがなさいますか?」
「腐らないものはあらかた昨日買ったからな。多少日持ちのいい食品くらいかな。とはいえ合間合間に町は山ほどあるだろうけれど。」
「さようですわね。野宿などはしなかった思い出がございます。」
「流石に貴族が野宿はしんどいなぁ。リアとかまだ小さい‥‥けど大丈夫そうな気はしてきたがいやダメだ。」
「まあ、要らない苦労は金を払ってでも捨てろと申しますわね。」
「貨幣社会の縮図みたいな文言だね。」
「金とは時間でございますゆえ。」
「他人の時間を買ってるみたいなもんだからねぇ。」
「さようでございます。ところで以前通った際は小さいながら魔獣が多少出てきておりました。」
「ああ。まあ、街道沿いはナーラックと同程度か少し弱い程度と聞いている。むしろ過剰戦力だろう。フラグじゃないぞ?」
「まあ、ハルカ様が大体切り捨てられますので大丈夫かと。」
「最近力が戻ってきているのか無茶苦茶強いなハルカ。セントロメアの騎士団長を片手であしらってたぞ。」
「まあ、元々ショートレンジはアステアラカ最強とご本人も申しておりましたので、そのようなものでしょう。どうしても倒す必要があるのであれば遠距離から魔法を絶え間なくたたき込むのがよろしいかと。」
「今のところ予定がないから大丈夫かなぁ。」
「今私の話してたでしょー。」
上を見てみますと、吹き抜けの2階あたりの天井付近に張り付いておられるハルカ様がおられました。
「お前そこで何してるの?」
「筋トレついでに、遠くでレンツ様と遊んでいるリア様を見ておりました。」
しゅたっと音がでそうな感じの着地をされます。
「ついでに遠くからこちらに向かってくる馬車の一団が居ましたが、知合いですか?」
「いや、何も聞いてないが?」
「ふむ、お出迎えでございましょうか?」
「え? アステアラカまでってことで此処までじゃなかったの?」
「私が思うに、大貴族がそのような中途半端なことはしないかと。」
「あ、先に誰か来たっぽい。」
ハルカ様が扉をあけると、驚いた顔をしている執事風の女性がおられました。
「気配を消していたはずだが‥‥。」
「まだまだ甘いですね。」
ふっふっふとハルカ様は笑われております。
「ユーズゥ様のお知り合いでございましょうか?」
少し不思議な魔力を感じます。
「はっ、非常に失礼ながらユーズゥはデビュタント関連で時間が取れず、私、シーリカが代わりを務めさせていただいております。ユーズゥの元上司でございます。」
「お世話になる。セントロメアのハノイ・ナーラック男爵だ。此方はヴィルヘルミーナ。」
「初めましてシーリカ様。ヴィルヘルミーナ・ローゼンアイアンメイデンでございます。」
「‥‥一目で理解いたしました。ヴィルヘルミーナ様。シーリカとお呼びください。」
シーリカは深く礼をする。
「仲良くなりましたらそう致しましょう。シーリカ様は新しくゲーキより参られた方ですか?」
「はっ。私はレム・ドンシャンク男爵と懇意にさせていただいておりますウロウ・リーツワーズ子爵預かりとなっております。この度ナーラックの方々を安全にお連れするためアステアラカ内のみにはなりますが護衛させていただければと参りました。」
ちなみに会話中にハノイ様が遠くを見られているのは気のせいでございましょうか。
「なるほど。これがフラグというやつか。」
「別方向ではございますが。ところでシーリカ様。まだ準備が実は終わっておりませんでして。」
「なるほど。本来は先ぶれを出して良いタイミングでお話しようかと思っておりましたが、この身の未熟のためこのようなことになり申し訳ございません。ですが、此方も人手が多数ございます。一緒に済ませてしまいましょう。筆頭執事の方とお話させていただければと存じます。」
「あー、じゃあ私が案内するねー。此方です。」
「ふむ、あなたも中々悪くない。流石ですね。あとで一戦いかがですか?」
シーリカは油断なくハルカを見る。
「ちょ、いや、私護衛だから。」
「残念です。」
と言いながらお二方は消えていかれました。
「ゲーキってバトルジャンキーが多いの?」
「存じませんので何ともでございますわね。」
「わー、お姉さん早いね!」
「これがナーラック‥‥!? 流石ヴィルヘルミーナ様の秘蔵っ子ということでございますね! 少し本気を出させていただきます!」
「わあ! すごい!」
「わー、スゴーイ。」「スゴイワー。」
かわいらしいリア様の声と、同じセリフでございますが呆けたようなハノイ様とテレジア様、あと無言で遠くを見ているレンツ様が何を見ているかと言いますと、かわいらしさの塊であるリア様の運動能力をみて、闘争本能が疼いたとのことでございます。
現在シーリカ様の部下が色々買い出しなどして頂いており、ナーラックの使用人もそれに同行中という空いた時間でございます。
最初は丁度いい程度で追いかけっこをされておりましたが、プライベートな庭ということで、リア様はネックレス型の封印を現在開放して全力近くで動いておられます。
レンツ様曰く「なんか日に日に強くなってる気がするんだけど。」とのことでございました。
「はぁ、はぁ、お姉さん早いね!」
「リア様もとてもお早い! ナーラックは安泰でございますわね。」
「最後に本気の競争しよう!」
「‥‥本気、でございますね。」
シーリカ様はにやりと笑われます。牙のようなものが見えますわね。
「どの程度の本気でございましょうか?」
「完全の本気!」
「承知いたしました。」
なお、その合間ナーラックの皆様はリア様に色々身振り手振りで合図を送っていらっしゃいます。応援の踊りでございましょうか。
「では、少々失礼しまして。」
シーリカ様は目をつむると、ミリミリと音を立てて巨大化されます。
ジャケットは特別性なのかそのまま伸びていきます。すごい布でございますわね。
『では、本気で参りましょう!』
そこには巨大な狼と化したシーリカ様がおられました。
「よーい、どん!」
「さて、リア。どうして怒られてるかわかるかな?」
珍しくプリプリ怒っているハノイ様です。
「壁を壊したから?」
「土もめくれあがってたし、窓ガラスも割れちゃったね。服もボロボロになっちゃったし、っていうか色々ボロボロになっちゃったからね。とりあえずシーリカ様にごめんなさいしようか。」
「ごめんなさい。」
リア様はしゅんとされております。
ああ、なんということでしょう。ばあやが止めなかったばかりにこんなことに。
ただしょんぼりされているリア様もかわいらしいでございます。
いけないと思いつつ心のアルバムが埋まっていくことに喜びを覚えてしまいます。
「音速を超えるとは思っておりませんでした。」
一応助け舟を出してはみますが。
「色んな意味で想定してないよ。」
レンツ様に一蹴されます。
「まだ港町でよかったと思ったらいいのか‥‥。」
「誠に申し訳ございません。私が焚きつけたばかりに。」
しゅんとされているのは、リア様の加速と同時に吹っ飛ばされたシーリカ様(人間形態)です。見えませんがぺたんとしているしっぽが見えるようでございます。
「ああ、いえ、うん、ああ、うーん。」
フォローを入れようとハノイ様はしどろもどろですが、正直フォローの入れようもない状況でございます。
「この宿やその補修などは私が責任をもってさせていただきますのでご安心ください。それくらいの権限はリーツワーズより頂いております。」
「良かったー。」
はぁとため息をつくのはテレジア様。
実際かなりの金額になりそうでございます。
「リア、力には責任が伴うんだ。これからの目標は早くなるとか強くなるもいいけど、物を壊さないってのを第一目標にするんだぞ。」
「はぁい。」
リア様は手を上げて了解されあああかわいい。
「ヴィルも止めてね。」
「鋭意努力いたしますがかわいらしさを優先してしまう本能が。」
「理性拾ってきてね。」




