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2_08 悪役令嬢と物思う元勇者

「うーん、よく寝た。ここの宿はいいなー。ヴィルも言ってたけどやはりベッドはもうちょっと良いやつを奮発するべきか‥‥。」

ハノイは窓を開けて、朝の空気を吸う。

「うーむ、朝のいい香りがすおぇえ!?」

窓の外の屋根の上には体育座りをしているハルカが居た。

「お前何してるの!?」

「酔っ払いの相手をして疲れました。」

10歳くらい老けこんでそうな顔をしてそうつぶやく。

「またどうせヴィルにちょっかいかけてひどい目にでも会ったんだろう。」

「私のいろんな葛藤を1行でぶった切るとそうなりますね。」

ジト目でハノイを見る。

「お前な。そもそも冷静に考えろ。平民も小国の男爵も、大国大貴族からしたらチリみたいなもんだ。今更ヴィルが何とか、どうとか考えるだけ無駄だ。取りあえずは目の前の物事をこなしていけ。」

「私の目の前の物事って何ですかね?」

「お前自分の将来像とか何もないだろ。」

「なんでも大体できますよ?」

「短期的な話じゃないんだよ。どういう感じで大往生したいかを考えろって言ってるんだ。」

「‥‥。」

「まあ、いろいろ苦労してきたのは聞いてるし、今も多分大概苦労してるんだろうけれど、苦労したからといって幸せになるわけでもないからな。自分の機嫌は自分で取れ。その方法を考えるのがお前の目の前の物事だ。」

ハノイはハルカの頭をぐりぐり撫でる。

「‥‥。はぁー、どうしようもなくなったら愛人枠とかありますか?」

「無いな。俺はテレジア一筋だ。だからアホみたいなことを言うな。精神的な自傷行為は手伝わんぞ。」

「きびしいっすねぇ。」

「地方領主で男爵で魔力0だとシビアになるんだよ。まあその分もめごとからは離れられたけどな。」

「大枠は変わらないけど、小さな小競り合いはあるものね。」

「うむ。なので地方の男爵は逆にまとまる場合と、バラバラになる場合がある。うちらは仲良しでよかった。」

「まあ、ハノイ様良い人ですもん。普通不審者そんなに雇いませんよ。」

「それはまあそうだな。ところで初代不審者はどうしてる?」

「まだ寝てるんじゃないですかね? 昨日は夜中まで楽しそうに飲んでましたよ。」

「公爵令嬢にあるまじき話だな。親御さんが聞いたら泣くぞ。」

「まあ、泣くでしょうね。」

その土地に住まう生きとし生けるものが。と思ったが言わないハルカである。

圧をかけてきたはいいが所詮酔っ払い。わりと色々情報を零していた。

とはいえ、現在伝える先も当の本人だけなので全く意味のない情報ではあるが。

ひとつわかったのは、ヴィルヘルミーナの父親、ヴァンドゥークはマジでヤバイ人間ぽいということだ。娘溺愛もあるが、多分半殺しじゃ済ませてくれなさそうな雰囲気である。

「ヴィルも早く手紙の返事が来るといいな。」

「そうですねえ。」


「ふむ、何やら昨日は色々喋った気が致しますが、本日も寝起きすっきりでございます。」

どうもおはようございます。ヴィルでございます。

お酒を飲むと性格が変わる人がいるとは聞いたことがございますが、まさか自分がそれだとは。新しい発見でございました。

「おはよー、ヴィル。もう朝食出来てるってー。」

リア様がパタパタと食堂に向けて階段を下りるところでございました。

「おはようございますリア様。よく眠れましたか?」

「うん。やっぱりヴィルが言ってた通りベッドはこっちのほうがいいね。」

「そうでございましょう。やはり人間、人生のうち大半を寝具とともに過ごします。なればこそ寝具とは服と同じくらい大事なのではないでしょうか。」

「なるほど!」

リア様は納得した顔で頷かれます。

「いや、お前ら朝から何の話?」

既に席についていた皆様方から温かい視線がまいります。

「良い寝具は良いものですわという話でございます。」

「確かにここのベッドは良かったわね。」

テレジア様は頷かれます。

「ですが、テレジア様。大事なお話があります。」

「‥‥何かしら?」

「王宮横のホテルのベッドは、もっと素晴らしいですわ。」

「‥‥あなた?」

「お財布と相談カナー。」

ハノイ様は遠い目をされております。

「以前聞いた感じでは恐らく金貨30枚ほどですかと。」

「お財布と相談カナー‥‥。」

ハノイ様は遠い目をされております。

テレジア様も遠い目をされております。

「まあまあ、皆さん。とりあえずおいしい朝食がありますから食べましょうね、ね?」

レンツ様は取りなすように仰います。流石レンツ様。

「たまごおいしい!」

リア様はにっこにこでございます。

流石リア様かわいい。


朝食が終わり、帰国時のお土産をどうしようかと相談しているところでハノイ様が切り出されました。

「ありがたいことに足代は全部アステアラカ第一王子カルネイル様が出してくださっているので、お土産はいっぱい買える‥‥と思ったら大間違いだ。」

「そうなのですか?」

「配慮してくださった分ナーラック領のお土産を渡さねば筋が通らないだろう。アステアラカ王族に何を献上するかかんがえている間に体重5㎏落ちたわ。」

「結局マンティコアの素材にしたのよ。わりとレアな魔物だからね。」

テレジア様はそうおっしゃいます。

「丁度良いというには曰くのある魔物だが、他に大王族に献上するものなど何も思いつかなかった。」

「ナーラック領の麦などは品が良いですのでそういうのでよろしかったのでは?」

「食品関連は卸先が厳密に決まっているから急に動かすわけにはいかんのだ。死人が出る。少量の麦というのも、いや品は良いが、客観的なものではないからな。」

「なるほど。差し出す側も大変なのですね。」

「そうなんだよ。実家に帰っても覚えておいてね。」

「かしこまりました。」

「というか、他人の金で旅行して土産ケチるとか最低じゃない?」

「確かにそうでございますわね。」


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