2_07 悪役令嬢(真)との楽しい?夜遊び
そんなこんなで月日は過ぎ、といっても1月ほどでございますが。
どうもこんばんは。ヴィルでございます。
現在、アステアラカの港宿で来週のデビュタントを前に忘れ物など無いか最終調整のさなかでございます。何かあれば船でダッシュで知らせるとのことでした。
ユーズゥ様にお願いすれば1日でございますよとお話いたしましたが、ハノイ様は血走った目でお断りされましたのでボツになってしまいました。
ハノイ様は、費用が気になって夜も眠れないと仰せでしたが、良いベッドだったのかとてもよくぐっすり眠れたとのことでした。
流石色々な事件が起こりましたが、普段通りされておられるだけとてもよい胆の座られ方をされております。
現在私はいま屋根の上でのんびり夜風にあたっております。
「懐かしいねー。もう100年くらいたった気がするよー。」
ハルカ様の声が聞こえます。
「初めて会話いたしましたのは此方でしたでしょうか。」
「そだねー。どういうキャラでいこうか頭回して下町キャラにしたんだけど、早々に崩壊したね。」
「懐かしい思い出ですわね。ムール貝おいしゅうございました。」
「うんうん。ところで何か秘密の話があるのでは?」
ハルカ様はじっと此方を見てまいります。
「いえ、とりたてて何も。」
「えぇ‥‥!?」
ガクッとハルカ様は崩れ落ちます。
「また何か大事件かとおもって無茶苦茶重装備で来たのに!?」
「そうそう毎度毎度事件が起こっては治安に重大な問題があるのでは?」
「ヴィルに正論を言われるとすごい納得がいかないわ。」
はぁーとため息をついて座られます。
「で、ヴィルは何をしているの?」
「最近やはり自覚したのですが。」
「なに?」
「わりと夜遊びが好きのようでございます。」
それを聞いてガクゥとハルカ様は再度崩れ落ちます。
「くだらねぇ‥‥。」
「何をおっしゃいますか。貴族の子女が夜中に出歩くなど、一大イベントではございませんか。」
「むしろ私とか仕事は夜間のほうが多いから何ともなんだよね。」
「ふむ、やはり先達にお願いするのが一番でしょうか。」
「まさか。」
「さて、ムール貝を食べに行きますわよ。」
「え、ちょ、首は掴まないで、ちょちょ!!! ああああ!」
なつかしの喧噪でございます。
酔っ払いと、なにやら口から汚物を吐きながら倒れている面々がおりますわね。
「もうヴィルさん、そんな酔っ払いほっときなよ。」
「左側臥位にしておきませんと誤嚥する可能性がありますのでそれくらいはよいでしょう。」
「もー、ばっちいから私がやるよ。ほいほい、お前らドブの水でも飲んで家帰れ。」
手際よくちぎっては投げをするハルカ様に おーと酔っ払いの歓声とおひねりが飛んでまいります。
「1~2杯分くらい儲かっちゃった。見習いメイドって給料安いんだよねぇ。」
「私が評するのもおこがましいですが、ナーラックはあまり金銭的に貪欲とは程通い領地でございますゆえ。」
「貧乏っていうんだよそういうのは。ソレイユ学園の学費捻出してたら2年でつぶれるね本来は。」
「そのようにお高いのですか。」
「毎年金貨500枚は要るよあそこは。」
「ふむ、なるほど。」
「よくわかってない顔してるね‥‥。ああ、ヴィルも御令嬢だから?」
「実家にいたころはお金というものを意識したことがございませんでして。」
「それ以上だった。」
ハルカ様は天を仰がれます。
湿気た石畳を歩くと記憶にある路地が見えてまいりました。
夜にしては暖かい、湿ったような、焦げた油と少しだけ下水の混じったような香りがいたします。
「港はアステアラカでも南だからね。この時期だと結構あったかいよ。」
「なるほど。雑多な感じがとても良いですわね。」
ちなみにハルカは雑踏を歩くにあたって不審者もそうだが、ナンパに最大限警戒していた。
実際酔っ払いが無数に誘蛾灯かよと言わんばかりに話しかけようとふらふらやってくるのだが、現在のショートカットヴィルを見た瞬間、メデューサにでも見られたのかと言わんばかりに全員例外なくフリーズする。
美しいデコルテが前だけでなく背中のまで見える少し露出度の高い服である。リア様が無邪気な顔で似合うと仰っていたが、似合うは似合うが、似合いすぎて大変なことになっている。
正直ナーラック領の面々は去勢でもしてるのかと言わんばかりにヴィルに普通に接しているが、あそこの男らの精神力はひょっとしてすごいのではなかろうかと最近思い出している。
実際は数か月もの鍛錬によりそれを克服した努力の人々の集まりなのであるが。
「どうかなされました?」
きょろきょろするハルカにお尋ねしてみます。
「いやなにも。あ、ほら見えてきたよ。」
ハルカ様の指の先には懐かしの貝のマークが見えます。
「ああ、覚えております。開いているようですわね。」
「ここらの店は店主が死なない限りは夜中は開きっぱなしだよ。おーい、オッサン、オッサン。おひさ!」
ハルカ様が声をだすと、巨躯の方がぬうっと顔を出されます。
「ああ? ‥‥ああ! お前ハルカじゃねえか。どうしたんだその髪の色!」
「ちょっと仕事でドジっちまってね。いまは転職してのんびりしてるんだ。」
「そうか。色々大変だったんだろうな。そっちのド美人は髪型がかわってもわかるぜ。前一緒だった子だな。ようこそ。前と同じでいいか?」
「覚えてらっしゃるのですか?」
「客商売だからな! バカ以外の顔は全部覚えているぜ。」
「おやっさんひでぇー。」「俺らの顔もおぼえてくれよぉー」「ひいきだひいき!」
「うるせえボケカスが。せめてAランクになってから文句言いやがれ。」
店内はわちゃわちゃと楽しそうでございます。
ハルカ様はその間に机のランプを付けて、その様子を笑顔で眺めておられます。
「そのような顔は初めて見たかもしれませんわ。」
「‥‥、そう?」
「ご安心を。今更無体なことは致しません。必要性も御座いませんし。」
「それもそれでショックー。」
あはは、とハルカ様は笑われます。
「どうかなされました?」
「‥‥いや、平和は良いなーと思って。」
「私も平和が好きですわ。」
「のわりにはユーズゥとやりあってたじゃん。」
「当時の記憶がふわふわしてはございますが、必要に迫られた場合はやむなしでございますわね。」
「ほい、酒だ。おじょうちゃんの分はおまけだ。ひいきにしてくれな。」
おやっさんと呼ばれたマスターは顔に似合わぬウインクをして去っていかれます。
「ヴィルはお酒飲めたっけ?」
「飲んだことはございませんわね。ですが、時系列がただしければそろそろ私も成人ですので、試してみようと思います。」
「空きっ腹はやめた方がいい気もするけど、まあ、何かあってもつれて‥‥いや、暴れたら止めれないな。とりあえずジュースも頼もうね、ね? ここのオレンジは旨いんだ。」
「ふむ、とても気になりますわね。」
「オッサン! オレンジジュースも頼む。」
そして目の前にソーセージとポテト、ムール貝にバゲット、オレンジジュースにお酒という完全に飲み屋セットがまいりました。
「んじゃまあ、これからのナーラック領のみなさまと、とにかく私の無事を祈願して乾杯!」
「乾杯!」
「いやお酒弱すぎでは?」
ハルカは目の前で座った目をしているヴィルをみてため息をつく。
「そういえば聖女様って大体お酒に弱いとか聞いたきがする。」
「弱くないわよ。何を言ってるのかしら? お酒に弱い人間がこんなにペラペラしゃべれるわけないでしょう? ほら、あかまきがみあおまきがみきまきがみ。」
「完全に酔っぱらってる。っていうかユーズゥとドツきあいしてた時の口調に近くない?」
「そうね。そんな気がしないこともないこともないわね。ソーセージおいしいわね。パゲットに挟んだらホットドック‥‥? ふむ、ケチャップ、マスタード。」
「おーい、ヴィル。」
「何かしら。ムール貝おいしいわよ。」
「知ってるよ。ソースは前リゾットにしたけど、普通にパンに吸わしてもおいしいよ。」
「なるほど。素晴らしい発明だわ。お父様に頼んでこの街を買ってもらおうかしら。」
「急に悪役令嬢みたいなことを言い出した。」
「やめてよ。本当に言われてたんだから。」
「ヴィルにそんなこと言うとか命知らずね。」
「公爵令嬢に表向きに言うわけないでしょ。反抗的な目をするだけで半殺しよ。」
「こっっっわ!!!」
「そういう社会なんだからしょうがないじゃない。流石に命までは取らないけれど、二度と反抗できないようにしないと、秩序が守れないじゃない。私は別に革命したいわけでも、現体制に不満があるわけでも無いんだから。」
「まあ、上位から数えた方が速い立場の人間は安定を望むよねぇ。」
「順位はわりと良く入れ替わるわよ。貢献度次第だし、王はその点かなり公平に見てるわ。」
「結構フレキシブルな貴族社会なんだね。珍しい。」
「派閥を作って内内でやりだしたら終わりじゃない? 王は最も強きものよ。絶対王者のよこにボス猿が徒党を組んだらどう思う?」
「まあ、うっとうしいわね。」
「そうね。全員半殺しになったわ。」
「半殺しが国教なの?」
「あながち間違ってもなさそうなのが怖いわね。お酒お替り。」
「大丈夫? 飲み過ぎて世界を滅ぼしたこととかないよね?」
「私はないわよ。おかわり。」
「限定用法やめて。」
「ただの冗談じゃない。そんなほいほい壊すほど世界があればだれも苦労しないわよ。」
「領土問題とかね。」
「そうね。お父様も領土問題で悩んでらっしゃったようだったわ。とはいえ支配地域の話だから直接は関係ないのだけれど。お酒お替り。」
「ペースはよない? おっさん、オレンジジュース大盛りで!」
「おさけ!!!」
「はーい、よしよし、いいこいいこ。いいこにしてたらあとであげますからねー。」
「ほんと? やった!」
ヴィルは満面の笑みを浮かべる。
心臓が半径300mで吹っ飛ぶほどの笑顔であった。
「おっとしっけい。」
ハルカは鼻の根元を押さえる。
一瞬で鼻血が出そうになった。拷問の訓練は受けているが、毎日この笑顔を向けてくれるなら多分王族の3~4ダースは暗殺する自信がある。
横目でみると、のぞき見してた客は全員笑顔で血の海だ。ピクリともしてないが呼吸してるのだろうか。してないならしてないで多分社会に問題はないだろう。
「やめへくれよな、事件がおこっはっておもわれるらろーがよ。」
おっさんは酒とジュースを渡してくれるが、よくみると鼻に綿を詰めている。
「オッサン、すげえな。」
ハルカはジト目で見る。
「これでも元Sランクだなめんなよ。へい神系ほう撃への耐性はある。」
ぐっと親指をあげるオッサン。
鼻に綿が詰まっているので全く格好がつかない。
「ってか、なんだ。オッサン、バーロット様の知り合いかよ。」
ラウンドの一人バーロット。前回破壊された城の立て直しにユーズゥ共に奔走していたらしい。
「秘密が多い方が人生の楽しみが多いだろ。何でも知りたがるのはガキだよガキ。」
「うぜぇー。飲み屋での説教ほどうっとうしいものはねぇー。」
ハルカは眉間にしわを寄せてあっかんべーをする。
と
「ハルカ。」
ヴィルのその一言。
その声を聞いた瞬間、すべての喧騒が静かになった気がした。
「あなたは何を知りたいの?」
お酒で上気した顔で見てくる。ただその目はいつものヴィルではない。
まぎれもない悪役令嬢。絶対強者の目。
「‥‥。あなたは何者?」
「ヴィルヘルミーナよ?」
「その肉体も?」
その質問をした瞬間、しまった、とハルカは思った。
ヴィルヘルミーナは笑った。
口の端のみを上げて。
誰かが言っていた、笑顔も十分に人を怯えさせることが出来る。
「今日のことは忘れなさい。リア様の護衛を今から探すのは面倒だもの。」




