2_03 悪役令嬢への扱いに困る面々
ゲーキというのは国でもあり連合国の総称でもある。
人類から距離を置いた純魔族達が平和に暮らすための箱庭である。
魔族は寿命が長い。それゆえ生殖能力は人類にはるかに劣る。
小競り合いで失う命は、言葉を選ばずに言うのであれば、人類よりも貴重なものである。
よって、魔族は平和を選んだ。
特に領土に不満もないというのが前提ではあったが。
とはいえ、人類と完全に隔絶するわけにもいかないので、幾つかの領地は人類領との連絡口となっている。
そのうちの一つ、リーツワーズ領領主、ウロウ・リーツワーズ子爵家にて。
「久しぶりだなぁレム。野垂れ死ななくて良かったな。」
夕食の場にいるのは、髭の大男、領主ウロウ。そしてその向かいに座っているのは幾分やつれたレム・ドンシャンクであった。
ワインを掲げて、ニヤリと笑う
「ああ、ホントだぜ。」
レムもワインを挙げて、鼻からため息をつく。
「異例でこんなに早く帰ってこれたんだ。よっぽど上手くやったかやらかしたかどっちかだろ?」
「あー、うん、そうだな。どっちもだな。」
「例のアレか?」
「アレだ。」
ウロウは透明な箱をテーブルの上に置く。
よく見ると透明な箱の中に小さな透明な箱と4重ほどになっており、中心には例の呪われた黒真珠が鎮座していた。
「魔装具店のほれ、あれ、店主のラーガットが居るだろ? あいつコレ見た瞬間泡吹いて倒れたんだぞ。」
「ヴィルヘルミーナ様は魔力を込めたとだけしか仰っていなかったが、実際どうなんだ?」
「ヴィルヘルミーナ様‥‥ねえ。間違いじゃねえ。魔力がこもってる。それはもう無茶苦茶にな。多分近場で爆発したらフェンガルの方々も無事じゃ済まないレベルだってよ。元々白真珠って本当なのか?」
「ああ、妹の結婚祝いにいつか渡せるように持ってたんだが‥‥。結構良い値段するやつではあるんだが。」
「どんなもんなんだってラーガットに聞いてみたがわからん、って言ってたぞ。ざっくりで言うなら、このワイングラスの中に無理やり屋敷突っ込んだくらいの無茶苦茶だって言ってたな。」
「まあそうだろうな。余波だけで気絶するかと思ったぜ。」
レムはワインを一気に飲む。
思い出しただけで胃に穴が開きそうだ。
「おかげさまで強力な魔封じを4重にすることになったんだよ。中央に送るにも危険物すぎるってダメ出しが出たんでな。」
「まあそりゃそうだろうな。」
「まあ、これはもう向こうに放り投げる案件だ。俺らみたいな奴らはもう考えなくていいだろ。それともまだお前は向こう側なのか?」
ウロウはじっとレムを見る。
「辞めてくれよ。もう王女様とは何でもないんだ。お互い元の立場に戻っただけだよ。終わった話だ。」
レムは首をすくめる。
「それに俺はもうこういう状態だからな。結婚なんて考えれる立場じゃねえ。」
レムは首を指で叩く。
淡く隷属の呪いが浮かび上がる。
「普通の隷属の呪いならそうだけれどな。強者のものなら逆にハクになるじゃねえか。」
「ウロウ。強者どころか神々以上だぞ。もうある意味俺の立場は出家した後の神官みたいなもんなんだよ。」
「反骨精神で生きてきたお前が出家とは。明日は雨だな。」
「根が真面目なんだよ。」
「ああ、知ってるよ。今でもお前と絡んでるのは分かってるやつらだ。」
「ありがたい話だねぇ。泣けてくらぁ。」
「まあ、それはそれとして向こうでの仕事は終わったのか?」
「ああ。まあ、元の形とは異なるがな。国王はやる気なくしてるから第一王子が実権を握ってるような状態だ。手下も何人かおいて、全員にBランク程度の魔物をつけてる。まあ、あっちのレベルだとちょうどいいだろ。とはいえ一撃で吹っ飛ばされたんだけどな‥‥。」
「ああー、普通はリンク切れるところが、間に合わない勢いでやられたってアレか。」
「一応安全管理組合のほうに報告書出しておいた。新しい契約では万一のためのリンク切断はもっと安全係数高めにしておいてある。」
「まあ、そうそうないだろうけれどな。」
「油断が一番の事故のもとなんだぜ。」
レムは真面目にそう言う。
「相変わらず喋り方と中身が一致しないなお前。だから冤罪吹っ掛けられて追放されるんだよ。」
「口下手なのはわかってんだよ。」
「で、結局あっちの、アステアラカだったか? はどうするんだ?」
「どうもこうもねえよ。引き続きそのままだ。魔獣被害が増えている分あいつらに攪乱してもらって、あとは現地の奴らに頑張ってもらうしかないだろ。」
「そうだな。俺らは別に上司でもなけりゃ良き隣人でもないからな。」
ウロウはため息をつく。
「取りあえずレム、お前これからどうするんだ?」
「ひと段落したから次の指示でも仰ぐさ。それまでは静かに謹慎でもしてら。あ、ちょいまち、連絡だ。」
レムは胸元から少し大きめの水晶を取り出す。
すると半透明なカルネイルの姿が現れた。
「おう王子様。どうした?」
「急にすまないレム殿。1つややこしい案件がでてきたんだが。今時間大丈夫か?」
「ああー、なんだ?」
「父上が本格的に退位をするとのことだ。まあ、やむを得ないところはあったが、どうも其方とのつながりだけではないような雰囲気でな。」
「というと?」
「どうやら父上は他の三大大国の国王同士とつながりがあったようだ。表向きは不干渉ではあるのだが。そこから何かを聞いた様子でな。それでコレだ。」
「はっきりしねえな。本人に聞けばいいだろ。」
「それがな、書置きを残して消えたんだよ。」
「ジジイの家出かよ‥‥。隷属の呪いがあるからざっくりした場所はわかるだろうが‥‥、ああ、だからこちらに連絡か。」
「うむ。この程度の些事にヴィルヘルミーナ様にご連絡を差し上げることについて、其方の意見を聞きたい。」
「いやお前、国王かつお前自分の父親が失踪して些事って‥‥。」
「だが、ゲーキからしたら些事であろう?」
カルネイルは真面目な顔でレムを見る。
「言葉を選ばないならまあ、そうだな。」
「だろう?」
向かいのウロウはドン引きしている。
「ん?他にいるのか?」
「ああ、こっちの地方領主だ。ウロウ。」
「お初にお目にかかる。ウロウ・リーツワーズだ。其方の国のワインはこちらでも人気だからな。其の儘研鑽していっていただけるとありがたい。」
「ありがたい話だ。こちらはカルネイル・アステアラカ。多分そのうち国王になる。そうすれば恐らく直接話すことも多いだろう。」
「ああ、そうだな。ただ個人間で連絡取れるようにするとは、お前らもなかなか仲良くなったものだ。」
「必要に駆られているだけだけどな。」
レムは首をすくめる。
「こちらはそちらと違って魔獣被害もある。対人間として国を治める仕事も、周囲の国との折衝もなんでもある。のんびり手紙のやり取りをしているほどヒマでもないのだ。」
「過労で倒れるなよ。」
「其方の戦力で魔獣被害はかなり抑えられている。ありがたい話だ。おかげで多少睡眠時間も増えた。」
「前ほど精度の高い連携は難しいが、まあ、今の段階ならまだいけるだろ。」
「ああ。ただ次第に向こうも強くなってきているようだからまた別の方法も考えねばならんがな。」
「まあ、それはおいおい考えよう。で、本題だが、ヴィルヘルミーナ様にお願いするかどうかだが、正直気は進まない。全く進まない。ただ死ぬほど下から出て、ご本人にお前が直接頼むのは、まあ、ありだな。神頼みってやつだよ結局。」
「やはりそうか。其方の特殊な作法などないのであれば、一度こちらから連絡を取ってみるとしよう。」
「おう、また何かわかったら連絡してくれ。」
「ああ、ありがとう。」
すぅっと、カルネイルの姿が消える。
「あー、めんどくさそうな気配がするぜ。」
「仲良くやってるようで何よりだ。まあ、この真珠の件が進めばまた色々決めることもあるだろう。」
「ああ。フェンガルの方に連絡がつければ良いんだが。」
「気長に連絡を待つしかなかろう。」




