4 悪役令嬢と中間管理職
お前ら、言ってることはわかるが言ってる意味が判らない。そんな気持ちになったことあるか?
ああ、俺はセントロメア国辺境監視局のひとり、ナーラック地区の局長ハノイだ。
由緒正しきというほどではないが、ご先祖さんが財宝を見つけてそれで男爵になった、いわゆる勲章貴族ってやつだ。
この世界でお貴族様と平民を分けるのは魔法が使えるか否かだ。使えなければ平民。だがその中でも功績によっては下位貴族として扱われることもある。
そして、曲がりなりにもその貴族である俺の役割は有り体に言うとただの中間管理職だ。
市内の大貴族さまと、辺境の平民の橋渡しである。胃の調子も最悪だ。
そして更に最悪なのが目の前にいる。
「どうもごきげんよう。私はいまいちですわ。寝具ほかにありませんの?」
「名前も記憶もありませんの。この服わるくないですわね。腰蓑の次くらいに着心地がよろしいわ。おいくらかしら?」
「こちらの通貨単位はなんですの? 現状持ち合わせはないのですが」
「あちらは立ち入り禁止でしたの。初耳ですわ。とはいえ概ねすべてが初耳なのですが。この国の名前はなんですの?」
多分神経の太さが街の大通りくらいあるダイナマイト美女が矢継ぎ早に質問してくる。囚人服がはち切れそうだ。ただ俺は母親が爆乳だったので胸のサイズに興味はない。
「元気そうで何よりだ。まず俺はハノイ。まあ村長みたいなもんだと思ってくれ。あとお前は囚人。何故かというと立ち入り禁止を破ったから。罰金刑だが金も家も無さそうなのでとりあえず牢屋に入れてる。国の名前はセントロメア。通貨の単位はセントだ。」
それを聞いた女は満面の笑みを浮かべる。
「話が早い方は大好きですわ。では質問2つよろしいかしら? 私の目標は2つ。1つはここから合法的に出て自由の身になること、短期的ですがもう1つは金策ですわね。現状私の持ち物は石器時代ですもので。」
質問よろしいですかと言いながらこちらの返事を待たない所はどこの大貴族だという感じだが、大貴族のそれもご令嬢が腰蓑つけて石の槍持ってるとはとてもではないが思えない。どこの原始時代の貴族だよ。
「1つ目と2つ目は繋がっている。後見人をみつけて保護の元に二等市民として仕事して罰金を払い、一等市民になってまとまった金を稼いで旅に出ればいい。後見人はギルドで募集している。何人か候補を持ってくることもできるぞ?」
「あなたは後見人になれませんの?」
俺かよ
「なれるがメリットが無い。」
「メリットがあればよろしいのね。ハノイ様、お貴族様とお見受けしますが間違いございませんか?」
「なぜそう思う?」
「当てずっぽうですわね。」
自信満々に笑う女にガックリする
「まあお若いわりにとても良く教育されているようにお見受けするのと、立場も高いことからでしょうか。」
「もう27だ。そんなに若くない。妻も娘もいるしな。」
「それも私としては願ったり叶ったりですわね。流石に愛人として生きていくのは個人的には好ましくないもので。」
「で、俺のメリットは?」
「私、自身に対する記憶はありませんが、貴族教育は記憶に残っております。娘様のデビュタント、介添人、お探しではございませんか?」