46 悪役令嬢(真)と愉快な仲間たち
「邪悪な炎より守り給え!」
男の声とともに炎が霧散して、呼吸が楽になる。
『ぐうっ!? 何だ!?』
ユーズゥの羽の一部は切り裂かれて、飛びづらそうにしている。
「ごめん、遅くなったね!」
そこに居たのはアリサとソーマだった。
「何故ここに?」
「ハノイ様から頼まれててね。リア様にも心配だからついていてほしいってさ。」
アリサはニッと笑う。
ソーマも盾を構え、油断なくユーズゥを見ながら大きくうなずく。
「仲間だからな!来てよかった。」
「そんな‥‥。」
必要はない、いつもならそう言っていただろう。
いつもとは何時だったか。
何かを言おうとしたが、口が動かない。
眠っている聖女なら、その答えはわかるのだろうか。
『鬱陶しい奴らめ。』
ユーズゥが吠えると、足を引きずったタローズと騎士団が現れた。
『滅ぼせ。』
そう言うと、みるみる姿が変わり、二足歩行の狼のような姿になる。足の怪我も治っているようだ。
「うへぇ。ウェアウルフ? 王宮で魔物とかなんの冗談なんだろね。」
アリサは軽口を叩く。
「守りは任せろ!見えざる力よ、堅牢なる鎧へ!」
ソーマが叫ぶとアリサたちの体を薄い光が包む。
「おっけー。ヴィルさん、あの空のやばいのはちょっと惹きつけてもらってもいい?」
「もとより。」
「じゃあ地べたの雑魚は私がやるね。」
それを聞いてタローズは青筋を立てる。
「人間風情が雑魚だと!? 引き裂いてくれる!!」
「かかってきな犬っころ!」
『ふざけた人間どもめ。』
ユーズゥは炎を吐こうと息を吸い
飛んできた瓦礫が直撃したため、口内で暴発する。
『グハッ! 貴様!』
「この私を無視するなど、此れだから下賤の輩は‥‥。」
「なんかヴィル、キャラ変わってない?」
「気の所為かと。」
「そうか!」
その間、アリサは右手に雷、左手に水をまとわせ、両手剣でウェアウルフを切り倒していく。
「ハッハアー! 弱い犬っころ! 斬られたくなきゃお座りでもしてなァ!」
「おたくの奥様も大概キャラ壊れてない?」
ソーマは大きくうなずく。
「戦闘狂だからな!だからSランクにはなれなかった!面接で落とされた!」
「成る程。」
『無視をするな!』
ユーズゥは一際大きな炎を吐いてくるが、ソーマの盾に当たると霧散する。
『何だその力は!』
「盾だ!」
『見ればわかる!!!』
怒りのせいか赤い炎がやや青く見える。
ユーズゥは高速でソーマに向かい、アッパーを繰り出す。
「うおっ!?」
盾で防いだか、そのまま高くに飛ばされる。
『そのまま消えろ!』
「うわああ!」
ユーズゥの羽ばたきで点になるまで高く飛ばされていくソーマ
「うちの旦那に何してくれてんのよ!」
アリサの剣がユーズゥの首にめり込むが、鱗に軽くヒビが入った程度で止められる。
『手駒を潰してくれたな。』
地面には倒れ伏すウェアウルフ達。死んではいなさそうだが放っといたらたぶん死ぬ。
『死ね!』
アリサを噛み砕こうとする
が、ゴーン!とまた頭に瓦礫があたり、それも叶わない。
「2度も公爵家長女である私を無視したわね。万死でも足りないわ。」
『イカれクソ女め‥‥! どこの田舎の公爵か知らんが巫山戯るのもいい加減にグウっ!』
話が長かったので3発目をお見舞いした。
不幸なことに周りには投げやすい瓦礫が山ほどある。
「鱗が硬いなら中身をミンチにして差し上げるわ。魚の餌に丁度いいでしょう。臭そうだけど魚ならお腹も壊さなさそうだし。」
『贄は撤回する。バラバラにして肥溜めに撒いてくれるわ!』
と、炎を吹こうとした瞬間。
「どっせい!」
落ちてきたソーマが、ユーズゥの頭に蹴りを入れた。
『ぐおっ!?』
「無事だったの?」
「盾を使ってバランスを取った!」
此れでBランクなのは何故だろうと思ったが、ひょっとしたら筆記試験とかあるのかもしれないと思って言うのをやめた。
ナーラックで学んだ空気を読むという能力である。
『緊張感のかけらもないゴミクズどもが‥‥!』
「小説に出てくる噛ませ犬みたいなセリフね。犬というより騒がしいトカゲだけど。」
『貴様!』
完全に青色に変じたユーズゥは、瞬き一つの時間でアリサを腕で薙ぎ払い、ソーマを尻尾で吹き飛ばし、こちらに青い炎を吹きかけてきた。
「!」「ぐっ!」
『遊ぶのは終わりだ。下らん技だがな。』
纏わりつく炎は動きを封じる。
地味だが確実な手だ。鬱陶しい。
と、
「聖なる守りよ!」
その声とともに炎がかき消える。
「ギリギリセーフ?」
そこには角をはやしたアイオイが居た。
「2人は?」
「あっち。」
レンツはアリサを、エシオンはソーマを受け止めていた。
全員人間離れした見た目になっている。
「その姿は?」
「いや、ヴィルさんの魔力でこんなこんな感じになったんですけど!」
「聞いたことのない話ね。」
「でしょうね!でも感謝してるわよ!」
安心したり怒ったりと忙しい聖女だ。
『だから何度も無視するなと‥‥!』
ユーズゥが口を開いた瞬間、レンツとエシオンから光の刃が走り、翼を切り飛ばした。
『ぐおっ!?』
地面に墜落したユーズゥは理解できていないのか周りを見る。
「八つ当たりだけどね。」
レンツは光の剣を投げつけ、尻尾を地面に縫い付けた
「色々聞きたいことがある。」
エシオンが剣を振るうと、ユーズゥの手足から力が抜けた。腱だけ切り飛ばしたようだ。
『このっ!‥‥!?』
上顎から下顎までレンツの剣がささり、口を開かないようにする。
「ふむ。ワニは開く力が弱かった気がするわね。」
「ヴィルさん。ワニの一種なのこれ?」
レンツは呆れ顔だ。
「というより、ヴィルさんなの?」
じっとこちらを見て尋ねる。
「そうね。ちょっと聖女の力が封印されているせいで昔の感覚になっているけれど。いや、そうなのかしら? 自分でもわからないわね。」
と、
「オイオイ、何がどうなってるんだよコレ。」
指でウェアウルフを摘んで、べーと舌を出す若い男がいた。
「貴方がレム?」
「そうだ。お前が噂の偽聖女か? 聖女の力が全く感じられんな。」
「おたくの子飼いにやられたのよ。」
「ああ。そんなのも居たな。」
レムは興味なさそうにする。
「うちの執事なんだ。返してくれないか?」
レムは唸る火竜をみてそう言う。
「死体で良ければ。」
にっこり笑ってそう返す。
『!!』
声のトーンから本気なのがわかったのだろう。
「そいつは困るなぁ。」
「あなたの死体でもいいのよ?」
「それはもっと困るな。」
レムは右手に黒い炎を纏う。
「お前らの死体で諦めてくれ。」
右手を振るってくるが、前に飛び出したレンツが魔力の剣で受け止める。
「ううむ、面倒事は嫌いなんだがなぁ。」
「協力するなら命は助けるが?」
エシオンはレムの首に剣を当てる
「勝手に助命を決定しないでもらえるかしら?」
「いやヴィル殿、お主の探す相手を殺してどうする。」
「いまのヴィルさんは血の気多めだね‥‥。」
レンツはドン引きである。
「あら、言ってなかったかしら? 私は昔、悪役令嬢って陰口を叩かれていたのよ。」
Q 第一話で粛々と生活していたというのは何だったの?
A 自ら喧嘩を売らないことをそう評していただけで、売られた喧嘩は1万倍で返していました。厳密には粛(清)々(清)って感じ。




