45 悪役令嬢?はピンチ気味
ズズゥン!と大きな音を立てて、宮殿が揺れる。
「何だ?」
レムは凄まじい魔力の高まりを感じてその方向を見る。
「地下牢か。ユーズゥが詐欺聖女を食らうとか言っていたな。」
レムは基本的に面倒くさがり屋だ。
どれだけ面倒くさがりかというと、後々残しておくと明らかに面倒になる事はさっさと済ます感じの面倒くさがり屋であった。
「しゃあねえ。確認しに行くか。」
腹の底まで響く音で意識が浮上する。
「ぐ‥‥。」
赤の大司祭マルチアは、目を覚ました瞬間あまりの激痛に気絶しそうになる。
「目が覚められたか‥‥?」
そこには手足に枷をはめられているカルネイルが見えた。
よく見ると、王宮の一室だが、窓が無い。
「骨の大半はやられているだろう。死にかけていたから私が無理やり癒しをかけた。」
「ほう。第一王子が聖女様とは。これはびっくりですな。」
「軽口が叩けるなら良い。本来は出ない癒しの力をひねり出したせいで数日気絶していたようだ。おかげでこのざまだ。」
「癒しを。‥‥ぬ、癒しを‥‥。」
マルチアは自らに癒しをかけようとしたが、全く気配が無い。
「使えないのか?」
「麻痺しているようです。力自体は感じるのですが。」
「ならばお主は今日から勇者に鞍替えか?」
「軽口が叩けるならよろしいでしょう。私にも枷がつけられているようです。」
手を見せると複雑な文様の枷がついていた。
「一体何事ですかこれは。」
「ハルカだ。あの者は何者だ? Sランクどころではないぞ。」
「分かっているでしょう。ラウンドを裏切れるのはそれ以上の立場の人間の指示だけですよ。」
「父上か‥‥。確かにこの頃様子はおかしかったが。」
「二重スパイか。やられましたな。」
「ならば最近のハルカの情報は概ねあてにならぬという事か。」
「そうですな。最近かどうかは分かりませんが。」
「ん?」
バーロットは、北の魔獣退治を終えてギルドに帰ってくると、遠くの王宮から魔力の気配を感じた。
「どうしました?ギルドマスター。」
「いや、王宮でえげつない魔力を感じたんだが‥‥。」
次の瞬間、ズズゥンと低い音が響く。
「何か演習でもされているのでしょうか?」
「いや、わりとガチの殺気だな。冒険者ギルドに応援を要請してくれ。ちょっと見てくるわ。」
「ギルマス!? まだ報告書が!?」
「優先順位が低すぎらぁ! 何かあったら大事だぞ。急げ!」
「はっ!」
職員は方々に走り出す。
「さて、ちょっとガチか?」
「ぐえ!」「ぐっ!」「うっ!」
土の上に放り出された、エシオン・アイオイ・レンツはカエルが押しつぶされたような声を上げる。
「緊急事態のため失礼。」
ふわっと飛び降りてきたのはヴィル。
アイオイは顔を上げると、クレーターのように吹っ飛んでいた地下牢部分らしき建造物を見て青ざめる。
あの瞬間にヴィルは3人ともの首根っこをひっつかんで、外に放り投げた。
無茶苦茶である。
「逃げるチャンス!?」
アイオイは左右を見るが、半死人2人と、片足半ばがまだ皮膚すら覆ってない感じで切り飛ばされている自分。
どう考えても逃げられない。
「手を。」
ヴィルがアイオイに向かって歩いてくる。
「手?」
すると、ヴィルは片手で、その枷を握りつぶした。
「これで力は?」
「‥‥使える!、でも力が足りない‥‥!」
「ふむ、私も今力の大半が封じられています。正直あなた達の相手は‥‥している時間はなさそうですね。」
ヴィルはクレーターのほうを見ると、巨大な竜が炎を巻き上げて飛び上がってきた。
赤い鱗、赤い瞳、赤い牙を持つ伝説の存在、火竜だ
『貴様の心臓は良い土産になる。』
炎を口から漏らしながら睥睨する。
「聖女の力は封印されたまま。恐らくハルカの技か。小賢しい‥‥。」
ヴィルは少しだけ眉間にシワを寄せる。
「ヴィルさん‥‥??」
アイオイは困惑する。
これはヴィルなのか?
会話は成立するが、今までの知っているヴィルとは振る舞いが違いすぎる。
これは本物だ。
本物の上位貴族だ。
「‥‥。魔力を渡す。どうにかして見せなさい。」
ヴィルは首の後ろに魔力の刃を作ると、その長い髪の毛をバッサリ切った。
「ヴィルさん!?」
「十分すぎる魔力を込めておいた。それを使ってどうにかしなさい。」
ヴィルはアイオイに髪の毛を渡すと、火竜ことユーズゥに向かった。
「飼い主は何をしているのかしら。責任問題ね。」
『愚かな人間風情が、その余裕、何時まで持つか!』
炎をまき散らし、落下のエネルギー事その右の爪に魔力を込めてヴィルに振るう。
「ぐっ!?」
片手で止めようとしたが、耐えきれず吹っ飛ばされ、向かいの壁にめり込む。
ガラガラと瓦礫を手で避けて上半身を起こすが、目の焦点が合っていない。
『これで生きているとはな!』
アイオイはエシオン、レンツ、そして自分を頂点とした三角形の中心にヴィルの髪を置き、祈る。
「魔力を聖女の力に変換なんて無茶苦茶だけどやるしかない‥‥!」
自らの聖女の力を薄め、髪の毛から立ち上がる尋常ではない魔力を練り込み、嵩増しのようにした力を傷口に慎重に注ごうとするが、その力はじょうろで水を注ぐのに対し、巨大な滝のような勢いで、とてもではないが制御不可能であった。
普通の聖女であれば。
アイオイは先ず自らの体に魔力を取り込み、自分を媒介として力を行使した。その瞬間、聖女の力の核であった何かは完全に破壊され、そして神の悪戯か、全く別の存在に変わった。
「一瞬で目を覚ましてヴィルさんを助けるわよ!!。」
アイオイの目は赤く光り出し、両の米神から角が生える。
「癒しよ!!。」
その瞬間、全ての魔力は三人に均等に渡る。
エシオンとレンツはあまりの衝撃に飛び起きて、自らの無事な体を見て息をのむ。
エシオンからは、赤黒い右手が生えており、レンツは首から体にかけて黒いトライバルタトゥーのような模様が浮かび上がっていた。
「ごめん。人間やめちゃったかも。」
アイオイはぽろぽろと涙を流す。
エシオンはそれを見て、そっと近くに寄り、跪く。
「私は貴方の剣であり盾です。見た目が変わったからと言って何の問題がありましょうか。」
エシオンはアイオイの涙をそっと拭う。
「エシオン様‥‥。」
「アイオイ殿‥‥。」
「とりあえず結婚式には呼んでよね。」
「「なっ!?」」
レンツはニッと笑って手をひらひらさせる。
「さて、溜まり倒して返せないレベルの恩を多少は返せるかな。」
レンツは右手を振るうと、そこに魔力で生まれた淡く光る剣が生まれた。
「借金で借金を返すのはどうかと思うがな。」
エシオンは苦笑して立ち上がる。アイオイに手を差し伸べて。
「アイオイ殿。」
「ありがとう。」
アイオイは自らの両足で立ち上がる。
「なるほど、これがヴィルさんの世界の一部なのかな。」
魔力の流れが見える。
そしてあの竜の強さも。
『先ほどまでの威勢はどうした?』
「煩い羽虫ですわね。」
ハルカに何かされていたのか、力が全くでない。
せいぜい鉄格子を素手で千切れる程度だ。
枷を無理やり破壊したせいか魔力も微妙だ。
「寝言は私に傷の一つも付けてから言うべきでは。」
『無駄に頑丈な。燃やし尽くしてくれるわ。』
ドン!と魔力の圧をかけた炎が降り注ぐ。
この程度ではやけどの一つも追わないが、酸素が無いのは困る。
圧力で身動きも取れない。
人生で初めて、いや、記憶が無いから2度目か。ハルカを入れると3度目か。
目の前が次第に暗くなる。




