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44 悪役令嬢?と悪役執事

目を覚ますと、周りは薄暗い。

石壁がある。湿気た空気、黴た香りがする。

粗末な藁のベッドから上半身を起こして周りを見回す。

鉄格子が見える。

手には鉄の枷がはまっている。

聖女の力は今は全く感じない。魔力もこの枷が封じているようだ。

「ヴィルさん! 無事!?」

アイオイが此方を見て叫ぶ。

真っ青な顔はしているが命に別状はないようだ。

ただ足は片方失われている。

そばにはぐったりとする男の姿が二人。

「エシオン様とレンツ君も応急処置はしたけど、私の力も封じられた。聖女の力を消す技術みたい。」

なるほど。道理で聖女の力を感じない。ただ完全に失われているというよりは、一次的に麻痺させているような感覚である。

「私には何が何だか‥‥。ハルカは何か言ってた‥‥??」

「どうやら、自らの意志ではないようなことは。」

「何か弱みでも握られている‥‥? あれだけ動ける人間に弱み‥‥。」

「‥‥考えても無駄だ。どうにか外に連絡するすべを探さねば‥‥。」

エシオンは真っ青な顔をしながらなんとか上半身を起こす。

「血が足りないの。横になってないと。」

「いや、なんとか大丈夫だ‥‥。」

左手で顔を覆う。

息は荒いが、すぐに失神するレベルではない様子。

「恐らくマルチア様は何も知らされてはいないだろう。だが、直ぐに此方に来ないという事は、不味い状況になっている可能性がある。」

「あれから何日?」

「ああ、アイオイ様、確か3日でしたか?」

「そうね。私たちが運ばれてきて3日。ヴィルさんは少し遅れて来てる。恐らくその特別製の枷のため。」

どうやら手に嵌められているのはかなり特殊なものの様子。

「恐らく神魔戦争時代のものよ。むちゃくちゃ強力な魔封じの力がある。用途は不明だけど、罪を犯した王族向けではないか、とは言われていたわ。」

「相当危険視されているな‥‥。しかし目的が分からない。」

「強い聖女の力は国にとっても必要なはずなのに‥‥。」

その時、ギィ、と扉が開く音がした。

そして石畳を靴が叩く音がし、3人の男が現れた。

「ふうむ、元気そうでないか。貴様の子飼いも大したことないな。」

顎をさすりながら睥睨するのはレムの執事ユーズゥ

「元気そうに見えますかねえ。神経使う作業はあまりしたくないんですが。」

首をすくめるのは、国王側近のタローズ

「どうでもいい。さっさと済ましてくれ。」

いやそうな顔をするのは

「国王!?」

アイオイは悲鳴を上げる。

「何だ、余の顔を知っていたか。ああ、見覚えがあるな。中級聖女が居たとか言っていたな。」

「なぜこんなことを! 我々は国に背くことなど致しておりません!」

「下らん。人を刺したことのない毒蜂が居たら潰すだけの事だ。周りの羽虫が巻き込まれることまで付き合ってられぬ。あの元勇者は引き離そうとしていなかったか? あいつは未熟だからな。」

「‥‥!」

確かに私だけを連れて行こうとしていた節はあった。

「まあ、どうでもいいことではないですか。」

ユーズゥは国王の肩に手を乗せる。

「不敬、とは言わぬのだな。」

エシオンは苦々しい顔で睨む。

「王子になって、そしてアイオイ様について世界を回って気が付いたことがある。大国は何かを隠している。それもかなり大事なことを、だ。自らの子にも言えぬような事のようだな。」

「王子? ああ、田舎の。お主の遺品は送り届けておこう。安心したまえ。」

落ちくぼんだ王の目には全く光は宿っていない。

「正気を失っているのか?」

「私は正気だとも。ただ己の正気は誰にも保証は出来ないがね。父上が亡くなり、私はこうなったのだよ。」

カルシタン王は自嘲気味に笑う。

「まあ、細かい精神科学はあの世でゆっくりやってくださいな。」

タローズは首をすくめる。

「国王、このヴィルは私がもらうぞ。」

ユーズゥはにやりと笑う。

「自分の年を考えてはいかがですかねえ。」

タローズが軽口をたたいた瞬間、ユーズゥの右手がタローズを釣り上げる。

「ぐげっ!!」

長い爪がミシミシと首に食い込んで行く。凄まじい殺気のこもった魔力に、アイオイは気絶しそうになる。

「長年蛮族と連れ添って頭まで下卑たか? タローズ。ん?」

「が‥が‥!。」

「御飯事の立場で調子に乗ってしまったのか? タローズ。」

「も‥‥もうしわけ‥‥ございま‥‥が‥‥!」

ユーズゥは右手を振るうと、石で出来た床にタローズがめり込む。

「私が良いというまで貴様はそこで伏しておれ。」

「はっ‥‥。」

タローズは床の水たまりを気にせず土下座を取る。

「ふむ、お騒がせしたな。なあに、お主の見た目云々の話ではない。」

ユーズゥはにやりと笑う。その口からは異常に発達した犬歯が見える。

「高い魔力を持つ贄は貴重でな。我が国でも准貴族程度の魔力はありそうではないか。」

「贄!? ヴィルさんをどうするつもり‥‥?」

「お主に発言の許可は出してはおらんぞ?」

「ぐ‥‥。」「ぬ!」

ユーズゥが睨むと、アイオイやエシオンは鼻からゆるゆると血を流して倒れた。ただ気絶はしていない。充血した目でユーズゥを睨む。

「脆い。脆すぎる。」

はぁ、とため息をユーズゥはつく。

「他の人間にやるなよ。死ぬぞ。」

カルシタン王はそう漏らす。

「手加減位分かっておる。」

「ところでレムという者は?」

話が進まないので聞いてみる。

「豪胆な女子だな。我が主の名を軽々しく呼ぶのは辞めてもらおうか。」

ユーズゥが睨んで来る。

殺気のこもった魔力。

「主‥‥。なるほど。ならばその者が鍵‥‥。」

「いずれにしても、その聖女の力は危険だ。我が贄となれ。」

ユーズゥは手を振るうと、魔力の風が周りを囲む。

「その血肉は主のために。」

「ヴィル‥‥さん! 逃げて‥‥!」

「何を勘違いしているの?」

聖女の力は現在麻痺している。

だが魔力は残っている。

このような脆弱な枷一つでどうにかなると本気で思っているのだろうか?

少し力を籠めると、枷は硬質な音を立てて砕け散った。

「何だと!?」

ユーズゥは目を開く。

「邪魔。」

私は右手を振るうと、周りの風ごと、鉄格子、その向こうの3人を吹き飛ばした。

轟音を立てて、向かいの無人の牢獄に突き刺さる。

カルシタン王はとっさに飛び出したタローズが守っていたため、何とか無事の様子。

タローズ自体は左足に鉄格子の破片が刺さって半分千切れそうになっている。

ユーズゥは燕尾服自体はボロボロだが、中身は無事のようだ。

「貴様‥‥! 何者だ‥‥。」

「ハルカからの報告を聞いてないの? ヴィルヘルミーナ・ローゼンアイアンメイデン。ローゼンアイアンメイデン公爵の娘よ。」

「知らぬ!」

ユーズゥは大きく息を吸い。

「燃え尽きよ!」

吐き出した炎で、地下牢は一瞬で地獄と化した。


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