40 悪役令嬢の方針相談とひさひざのナーラック領
「くー、まだ頭がぐわんぐわんするぜ。こりゃあ手も足も出ねぇな。」
バーロット様は眉間を揉みながらそうつぶやかれます。
「国際問題一歩手前どころか二歩先位の蛮行をして何を言ってるんですか貴方は。他の面々はまだ寝込んだままですよ。」
マルチア様は笑顔ですがなかなか凄みのある笑顔でございます。
「何分魔力を使うことが苦手でして、申し訳ございません。」
思った以上にびっくりされてしまったようです。
「いえ、ヴィルヘルミーナ様には落ち度はございません。お気になさらず。」
マルチア様は笑顔でそう仰ります。
「差し支えなければお教えいただきたいのですが、ヴィルヘルミーナ様の故郷の方々は皆様このように魔力が強いのでしょうか?」
「どうでしょうか。実は私、お恥ずかしい話ではございますが、以前は魔力の放出に問題がございまして、全く魔力を使うことが出来なかったのです。ただ、魔力自体は他の方よりはかなり多めだったようでございます。此方に知らないうちに来て以来放出も出来るようになりはいたしましたが、習ったことがございませんので見様見真似で御座います。」
「ふむ、皆がこれほどの魔力を持っているなら一つの村で世界を滅ぼせそうだなと思いました。」
わははとバーロット様は笑われます。
「はぁー、笑い事ではないのですがねぇ。」
マルチア様は嫌そうな顔をされます。
「マルチア殿、バーロット殿。今の強さは実際どの程度なのだ?」
いち早く目が覚めた若い方が訪ねてこられます。カルネイル公爵様でしたか。
「あまり御本人を前に細かい話は失礼に当たるかとは思いますが、恐らくSランクは間違いないかと。」
「その若さでその境地。さぞや苦労なされたか‥‥。」
なにやら同情の目で見られております。
そこそこスパルタで鍛えられていた記憶はございますが。
「進んで行う正当なる苦労とは財産だと思っておりますわ。」
「うむ。間違いない。このカルネイル・アステアラカの名に於いてお主の力になることを誓おう。」
キラキラ笑顔で胸をたたかれます。
「はて、アステアラカ?」
「申し遅れた。公爵ではあるが第一王子でもある。」
「なるほど。」
通りでお若い割には気配が他の方々と負けておりませんでした。
「さて、無理やりでは有りますが親睦も深まったところで、御本尊の方に向かいますか?」
マルチア様はそわそわされております。
「それはありがたい話ですわね。しかし何を尋ねるべきでしょうか? なかなか端的に尋ねるのは難しゅうございます。」
「どの程度の意思疎通が可能なのでしょうか?」
「なかなかノイズまみれでして。暴風雨の中のような感じでございましょうか。また向こうと此方の時間の流れは異なるようで御座います。」
「ふうむ。失礼承知で単語で聞くのが良いでしょうな。キーパーソンの名前、注意事項、余裕がありましたらアステアラカの今後の方針など聞いていただければ。」
「方針でございますか。」
「直接創造神様に目をかけていただいている託宣の巫女様との今後の関わり方等でしょうか。」
「なるほど。」
まあ持ちつ持たれつというところでしょうか。
マルチア様と目が合うと、ニコリと笑って頷かれました。
「なんか怖い会話を聞いている気がする。」
レンツ様はそう呟かれます。
「胃が痛いので聞かなかったふりをしておけ。」
エシオン様も相変わらず渋面でございます。
「ヴィルヘルミーナ様は何か今ご要望等ございますか?」
融通をお互いにということでしょうか?
「可能でしたらば、私はナーラック領預かりで御座いまして、多大なる恩がございます。」
「ふむ。代わりに返済を?」
「いえ。命の代わりは御座いませんでしょう。リア様という天使を束ねて宝石に受肉したら出来上がったのではないかと言わんばかりの可愛らしい娘様がおられます。もうすぐ学園に入学されるのですが、魔力を持たぬことで心無い輩の魔の手があるのではないかと気が気では御座いません。そんなことになれば私どうするかわかりません。ですので、もしご配慮いただけるならば、私の分までお願いしても宜しいでしょうか?」
「ほ‥‥うむ。赤の大司祭の名に於いて何不自由ない学園生活を保証しよう。」
「期待しておりますね。」
お互いに笑顔でうなずき合います。
レンツ様がなにやらうねうねされているようですがどうされたのでしょう。
後日のナーラック領
「ハノイ様ー。なにやら豪華な封筒が届いてますよー。」
庭師が手紙を持って執務室にやってきた。
「ん? なにか嫌な予感がするな‥‥ヴィルつながりか? 今はリアの入学先選定で忙しいのだが‥‥。」
学園は多数あり、小領地むけのショボ目のところから、大領地むけ、中級国の公爵レベル向けから、大国のトップが集う最高峰の学園まである。
お世辞にも金が余ってるとは言えないナーラックだが、なるべく良い学園に入れて箔をつけてあげたい親心だ。ただ魔力がないので高位貴族が多いと虐められるかもしれない。そんなことになったら戦争だ。
「旦那様ー?」
「はっ! いやすまんすまん。誰からの手紙だ?」
「ヴィルさんと、あと知らない神官様みたいですねー。マルチアって書いてますよ。」
「マルチア‥‥うーん。セントロメアにそんな神官様はいたか?」
「わしらにはとんとわかりませんで。マルチア・エインズワースってかいとりますね。」
「エインズワース‥‥ん? エインズワース? ハハハまさかな。ハハハ。手紙を!!」
ひったくるようにして手紙を見る。
学園の授業でみたことのある、アステアラカ王家の封蝋が押してある手紙を見て意識が遠のきそうになる。
アステアラカの王族とセントロメアのナーラック領主など、ドラゴンとヤモリ程の違いがある。
封蝋を雑に開けたいちゃもんで牢屋にぶち込まれても文句が言えないくらいの差だ。
震える手で封を開けて中を読む。
長々と貴族らしい言葉で書いてある。約すと。
訳『ヴィルヘルミーナ様たっての願いでリア・ナーラックをアステアラカ最高峰の学園への特待テストを受ける資格を送ります。下駄は履かせれないけど他の王族と同じ扱いをして合格した場合は費用は全部こっち持ちです。第一王子とラウンドの名に於いて一切の不便はかけません。仲の良いお友達が居ればみなその扱いをいたします。ちなみに拒否権はありません。かしこ。』
「何がどうしてこうなった。」
途中で呼び出したテレジア共々頭を抱える。
「これマルチア・エインズワース様って赤の大司祭様では。」
「何故だ。いや、アステアラカに行ったのは知っているが何故うちにこれが。なんでだよおおおお!」
「追伸のところにレンツくんからの書き込みあるわよ。」
「ぬ?」
追伸「多分ヴィルさんは旅先からのお土産程度の感覚で無茶振りをしていると思います。私の手には余りましたので何卒ご了承くださいませ。遠方より応援しております。レンツ。」
「ぐぬぬぬぬ、気楽にいいおって!!」
「まあまあ、でも悪い話ではないのでしょう?」
「まあいやそうだな‥‥。受験資格ですら普通は小国なら王族でも無いレベルの学園に受けれるだけでも、まあ、記念にはなるのかどうなのか‥‥。いやどうなんだ‥‥?」
「あなた。すごく言い出しにくいのだけれど。」
「なんだ?」
「リアの学力ってどんなものが知ってる?」
「ヴィルが同年代より頭一つ出来るくらいまで教えたとか言っていたが。」
「あの子、多分、そこらの学園卒業レベル近くまで出来てるわよ。」
「へぇっ?」
「あれって、ヴィルちゃん基準の同年代なんじゃない‥‥?」
「え? え?」
「多分普通に受かるわよ。」
「えええええ!?」
その後、鬼の後ろ盾を得た魔力ゼロの天使(レベル99)と、大国の貴族が集まる学園生活で色々なハチャメチャが起こったが、それはまた別のお話。




