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29 悪役令嬢と船上

「ヴィルさん大丈夫? なんか顔がさらに白く見えるんだけれど。」

レンツ様がこちらを見て心配そうにされています。

「お昼を控えめにいたしましたので、初日のような粗相は致しませんよ。ご安心くださいませ。」

「あー、うんまあ、海のご飯美味しいもんね。」

此方の船には冷蔵庫のような魔導具があるとのことで、いわゆる航海病とは無縁の美味しいご飯が提供されておりました。

「罠ですわ‥‥。」

「まあ、最後の方はきれいに吐けてたよ‥‥。」

私とエシオン様は案の定船酔いになっておりましたが、他の方々は割と大丈夫のご様子。

「せっかくの美味しいご飯が勿体のうございます。」

「そっちなの? まあ、控えめにしたらマシらしいよ。」

「ですがアイオイ様の近くにいると抑えられますし晩はしっかり頂きましょう。きっと問題はございませんよ。」

「その飽くなき食欲はすごいね。」

現在甲板の日陰ですやすや寝ていらっしゃるアイオイ様の横でこそこそ話しております。

「今では根性でオンオフを切り替えれる自身がありますわ。」

「当分オフのままにしておいて。」


「ふあわあああ。ああいい天気。よく寝たぁ。」

アイオイ様はハンモックから飛び降りてぐるぐる体を回されます。

「わっ、もう夕方。寝過ごしたかな。」

「久しぶりのお休みみたいなものです。ゆっくりされるのがよいかと。」

「エシオン様、ありが‥‥いや顔色やば。」

「どうにも船酔いは‥‥。」

「癒やしのちからちょっと強めとくかなー。ほい。」

アイオイ様がぐっと力こぶを作った瞬間、船が清浄な気配で満たされます。

「ああ‥‥楽になりました。ありがとうございます。」

「いいよいいよー。減るもんじゃないから。いや減るか。まあ気にしないでおけおけ。」

「アイオイ様は船酔いは全くなさそうで羨ましいですわ。」

「ヴィル姉も調子悪そうだね。聖女は大体の害悪を弾き飛ばせるから船酔いも乗り物酔いもないし靴ずれもできなけりゃお酒も毒も大体は効かないんだよ。」

「ならば私は聖女ではなさそうですわね‥‥初日の晩ごはん‥‥。」

「ヴィルさんが見たことないくらい悲しそうな顔をしてる。」

「意図して聖女の力を出せるようになったら行ける気はするけれど‥‥謎が多いから下手なことはしないほうがよいかな!」

ぐぐっと力を込めようとしたところ慌てて止められました。

「船の上で前みたいになったら止めようがないしね。とりあえずは静かにしとくのがよいとおもうよ。」

「レンツ様のおっしゃるとおりでございますね確かに。短慮でございました。」

「ナーラックで満足に食えてないとかあるのか?」

エシオン様は疑問顔です。

「どうやら燃費が悪いらしくレンツ様の倍程度は頂いております。」

「聖女の力はわりとストレートにカロリー使うから確かに痩せやすいよ。」

「知らないうちに使ってたのかもね。普通聖女の力ってわかんないし。」

「成る程。」

「ただ、今はヴィル姉からは力がでてそうにはないので食べ過ぎたら普通に太るよたぶん。」

「肝に銘じておきますわ。」


と、その時銅鑼の音が鳴り響きます。

「なんでございましょうか?」

「これは‥‥、クラーケンだな。中型が一匹出たらしい。」

「クラーケンと申しますと、イカのような?」

「うむ。おそらく10メートル程度であろう。まあ大したことはない。さあ、非戦闘員は室内へ。」

エシオン様はエスコートしてくださいますが

「私も見ても宜しいでしょうか? クラーケンなるものを見たことがございませんでして。」

「私もないから一緒に行きましょ! エシオン様はレンツくんと二人で前の方をお願い。私はヴィル姉を守ってます!」

アイオイ様は立てかけてあった1m程度の鉄の棒を片手で持たれます。

「軟体動物は苦手なので宜しく!」

「了解した。危なくなったら知らせてくれ。レンツは左舷、加熱石に連絡を。」

「了解!」

レンツ様一つ頷くと風のように走って行かれます。

「加熱石とは何でございましょうか?」

「見たほうが早い。あれだ。」

クレーンに一抱えもあるような石が詰まったものが吊り下げられています。

「箱はある程度耐火のものでできている。それを外から魔法でガンガン加熱して、目標にぶちまけるのが加熱石だ。普通の炎は海中相手だと効果が薄いが、ほら、あれだとなかなかすごいぞ。」

箱の隙間から見える石は真っ赤に変わっております。

その時、下から巨大なイカのような触手が伸びてきました。

「今だ!」

水夫さんの号令とともに、風の魔法でしょうか、箱か浮き上がったとおもった次の瞬間、粉々に散り、赤く焼けた石がクラーケンに降り注ぎます。

ギュウウと何かが焼けた音や、ボーンと爆発するような音がいたします。

クラーケンは驚いたのか、そのまま海中に消えていきました。

「流石に倒すのはあれだけでは無理だが、追い払うのは十分だろう。コストも安いしなかなか便利だぞ。」

「成る程。少ない魔力を貯めているようなものですわね。」

「一応だがそこそこ腕の立つ魔術師の集まりだからな‥‥。」

「成る程‥‥はて、なにやら美味しそうな香りが‥‥。」

「ヴィル姉、これ多分焼けたクラーケンじゃない?」

「確かに。昨日頂いだイカ焼きに似ておりますね。」

「クラーケンって美味しいのかな?」

解毒の聖女様は食あたりと無縁とのことでなかなか食にアグレッシブで御座います。

「いやお主ら二人共だぞ。」

エシオン様は呆れ顔です。

「ヴィルさん。大丈夫だった?」

そこにレンツ様が帰ってこられました。

「近くで見たら凄かったよ。音もドーン!ってかんじでまだ耳がウワンウワンする。」

「此方は全く大丈夫でございました。そしてお願いなのですが、またクラーケンが出てきたら、余裕がありそうでしたら足の一本など切っていただけませんでしょうか。」

「レンツ君おねがい!」

「食べる気満々じゃん。」

はぁーとため息をつかれます。

「流石にそこまでの余裕はないかなー。万が一引きずり込まれたらおわりだし。」

「ぬぬう、仕方ない‥‥、ならば私が‥‥。」

「いやアイオイ殿、一番相性悪いでしょう。」

エシオン様が止めに入ります。

「出来るかわかりませんが、私もお手伝いいたしますわ。」

「そういやヴィルさんも魔法使えるもんね。見たことないけど。」

「攻撃魔法は座学で習った程度ですので、実際使ったことは御座いませんが。」

「駄目じゃん。」

と、そのときまた銅鑼が鳴ります。

「またクラーケン?」

アイオイ様は嬉しそうです。

レンツ様から冷ややかな視線を感じますわね。

「どうやら先のクラーケンを餌とおもったもっと大きいのが来ているらしい。」

「確かに美味しそうな香りでございました。」

「サイズはかなり大きいみたいだな。と、もう来たか。早いな‥‥!」

ふっと日が陰ったかと思うと、船の周りにちょっとしたビルのような柱が複数現れました。

「真下か! 船長!」

エシオン様が叫ぶと、遠くにいた船長が手を上げます。

「一斉攻撃!」

船の横から、大砲でしょうか、炎とともに何かが飛んでいき、クラーケンの足に当たります。

ただ、多少削れているようですがサイズ的にあまり効いてはない様子。

「道を開ける! その隙に離脱するぞ!」

船首に上ったエシオン様は剣を掲げます。

「十秒後に離脱だ!」

そして目をつぶり剣に力を込めると、剣がまばゆい光を放ちます。


「ヴィル姉、レンツ君、手すりにつかまっといたほうがいいよ!」

「あれはなんでございましょう?」

「私は脳筋アタックって呼んでる。」

「名前ひどすぎない?」


ひときわまばゆく輝いた瞬間、エシオン様は横薙ぎに剣をふるいます。

その先から光る刃が飛び出し、船の前にあったクラーケンの足を2本切り飛ばしました。その刃渡りは2~300mはありそうです。


「すっげぇ! あんなのSランクじゃん!」

「一撃の強さはそうなんだけど、あれやるとあとしばらくは動けなくなるんだよねー。ほら。」

ぐったりしたエシオン様は船長にがっしり掴まれております。


「「風よ!」」

その隙をついて、後方に待機していた魔術師達が風の魔法で船を一気に進めてクラーケンから逃げ出しました。


「なかなかスリリングですわね。」

離陸するのかと言わんばかりの急加速で、何人か滑って壁に体をぶつけておられましたが、運良く吹っ飛んだ人はおられない様子です。

「普通こんなに襲ってこないんだけど、やっぱり魔獣は増えてるのかな。」

「クラーケンの被害も増えてるの?」

「毒ないから私はあんまり関わってないんだけど、港に常駐するようになったらしいから増えてるのかもね。を?」

アイオイ様が後ろを見ると、なにやら船尾に巨大なクラーケンの足がくっついております。太さだけで大人の3倍くらいありそうです。

「やっば!」

アイオイ様が飛び出すと、手に持っていた棍棒を横薙ぎに振り抜きました。

木片とともに足は彼方へ飛んでいきましたが、千切れることなく繋がっております。

「距離が離れない! 他にもくっついてるかも!」

「うわっ!海の中!」

レンツ様が指をさすとそこには巨大なタコの目玉がこちらを見ていました。

「‥‥見様見真似だけど‥‥あとは頼みます!」

レンツ様の刀が光り輝きます

「せいっ!」

刀を振り抜くと、光り輝く刃が海を割り、クラーケンの片目を切り裂きました。

「レンツくんすごっ!!」

「一応Aランクですもんで‥‥。」

ただそのまま刀によりかかって尻もちをつかれます。

「クラーケンは?」

「怯んで後ろに下がってくれたね。このまま逃げてくれたら良いけど‥‥。」

と、漏らした瞬間、滝のような音がして、水面からクラーケンの巨大な頭が現れました。

「アイオイ殿!みな伏せろ!」

エシオン様が叫ぶと同時に、クラーケンの口?から百を超える水の固まりが飛んできました。

「神のご加護を!」

アイオイ様が叫ぶと、目の前に薄い壁が現れ、水を弾き飛ばしております。

「ぐうう! きっつう!!」

「魔術師団!今のうちに反撃を!」

その隙間から魔法を撃ち込んでおりますが、小山程度のクラーケンにはさほど効いていない様子。

「レンツ様。これは不味い感じでしょうか?」

「割とヤバメだね。あ、ヴィルさん、そんな前に出ると‥‥!」

「?」


水弾が直撃したヴィルはレンツの前で後ろの壁を突き破って吹っ飛んで行った。



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