20 悪役令嬢 旅は道連れ世は情け
「ということでよろしくヴィルさん。」
レンツ様が握手してこられます。
「どういうわけでございましょうか??」
「レンツもこっちに来て鍛えられているし、見分を広めるのと、あとはヴィルの護衛、ついでに言うと冒険者ランクを上げておくと後々本人・・じゃなくて我がナーラック領の箔にもなる。」
と言って、レンツ様の頭をがしがしなでるハノイ様。
「本音と建前が駄々洩れでございますよ。」
「元平民の一族に腹芸を期待されてもなぁ。」
「私が知る中でもとても良い貴族だと思いますけれども。」
「ヴィルにそういわれるとなんだか面はゆい感じになるな。」
ははは、とハノイ様が笑われます。
「一番の理由はヴィルさんなんだよ。この前のえげつない光で、実は俺の怪我も良くなってさ。」
と言ってレンツ様はひょいひょいと動いて見られます。
若干残像が残っています。以前は高く見てもCマイナス程度でしたが、今ならBマイナス程度はあるように見えます。悪くない動きをされておられます。
「レンツ様は次はBランクでしょうか?」
「え? いや、次はAだけど。」
ガーン、とショックを受けたような顔をされておられます。
「ああ、ひょっとして皆魔力持ちだから全員強いのか‥‥??」
ハノイ様がおそるおそる聞いてこられます。
「それも一因だとは思いますわね。」
「そういえば聞いてなかったが、ヴィル自体は戦えるのか?」
「わたくし一応Sランクを頂いております。とはいえ攻撃はからきしでは御座いますか。」
「ふうむ‥‥。」
ハノイは悩んでいた。
此方のSランクといえばドラゴンを単騎で屠れる人外魔境のスキルを持つ伝説レベルの傭兵に付与される最高ランクだ。
向こうのランク付けが全く同じなのかは謎ではあるが、S以上は大貴特有のお飾りランクの可能性もないはないが。
ただ、前回見せた魔力は十分人外魔境ではあった。
攻撃がからきしという割には無詠唱で炎を操れるようにも見える。
見た目は細いので、フィジカルがダメということか。
とはいえヴィルの事だからそのまま信じると痛い目を合いそうな気はするが‥‥。
「お館様?」
レンツ様は悩めるハノイ様に声をかけられます。
「まあ、考えてもしようがない。どっちにしろもともとこれはレンツが言い出したことだ。」
「レンツ様が?」
「恩を返したいんだと。」
「ヴィルさんのおかげで、俺は前と同じ生活に戻れたんだ。副作用として妙にご飯が美味しく感じるくらいだし。前より健康になった気がする。このままだと借りを作ったままになっちゃう。」
「私こそ、此方に来てレンツ様には恩が積もったままでございます。」
「俺もだよ。」
というと、お互いに笑ってしまいます。
「仲良し同士、大聖堂までエスコートさせてくれ。殿方にはどうするべきだったっけ?」
「ふう、恥をかかせるわけにはいかない、ですわね。」
なかなかレンツ様は頑固のようです。
「色々落ち着いた暁には、地獄の果てに追って行っても恩を返させていただきますわ。」
「こわ!」
「じゃあヴィルはいっちゃうの?」
しょんぼりした顔でリア様がそうおっしゃられます。
「え、いや、ぐぐ、いき、いや、いか‥‥ぐぐぐ。」
「落ち着けヴィル。見たことのない顔になってるぞ。」
ハノイ様はリア様を抱き上げます。
「ヴィルの実家が見つかるかもしれないんだ。それにヴィルのお父様やお母様も心配しているかもしれないだろう? リアも家族、例えばレンツが居なくなったら心配だろう?」
「しんぱい。」
遠くでレンツ様がもじもじしている気配がいたします。
「だから笑顔で送ってあげよう。なに、そんなに長くもない。それに実家についたら空を飛んで帰ってきてくれるさ。」
「もちろんでございます。航空師団引き連れて此方に向かうことをお約束いたしますわ。」
「侵略みたいに見えるから小規模でおねがい。」
「ヴィルちゃんがいなくなるとさみしくなるわ‥‥。でもレンツがついているなら安心ね。レンツ、ヴィルちゃんが美人だからって‥‥。いや、レンツなら問題ないわね。」
「テレジア様。そこまで安心されるとそれはそれでどうかと思いますが‥‥。」
レンツ様も複雑なお年頃です。
「昔の仲間も誘って行くのでしょう?」
「そうですね。流石に二人はどうかと思うので、アリサとソーマを誘おうかと。二人は結婚しているし、先立つものも必要でしょうし、丁度良いかと。」
「そうね。あの二人なら大丈夫でしょう。多少は色を付けるから丁寧にお願いしておいてね。」
テレジア様はそういって小袋をレンツ様に渡します。
「とりあえずはお小遣いよ。あの二人にもよろしくね。」
「助かります。ヴィルさん、一緒に挨拶に行ってもらっても大丈夫? 慎重な人間でさ。」
「私の身を守ってくださる方なのでしょう? もちろんでございます。」
馬車で向かうのはちょっと下町のようなところでしょうか。
私も此方に長くなっておりますので、発展している場所と、ちょっとお安いところの区別はつくようになってまいりました。
「アリサが魔法戦士、ソーマは盾戦士なんだ。魔法戦士っていうのは魔法も使える戦士で、盾戦士は守りの魔法が得意な戦士なんだ。」
「なるほど。面白い分類でございますね。」
「ヴィルさんのところはどんな感じだった?」
「得意魔法というよりは、近距離、遠距離、そして総合力でざっくり分けられていた気がいたしますね。あとはそこから細分化されておりましたが、魔法云々というよりは本人の資質によるものでしょうか。実際私も細かく何をしているかは存じないのですが。戦争能力は有してはおりますが、私の存じ上げる限り戦争はもはや歴史上の存在という感じですわね。魔獣被害というのも御座いません。」
「戦争が無いのは同じだけれど、魔獣被害が無いってのがスゴイね。どうしてるんだろう。」
「交配の結果なのかもわかりませんが、全ての土地が管理されており、そこに生息する生物は全て国の管理下にあります。恐らく危害を加えるような動物はすべて排除されているのでは?」
「ただ、魔獣は魔素から生まれるから、どれだけ気を付けていても生まれるはずなんだよね‥‥。魔素自体もコントロールできる技術があるのかな?」
「その可能性はありますわね。あとは魔獣自体も何かしら活動の方向性があるかもいたしません。」
「うーん、ヴィルさんって、案外未来から来たとかあるのかも?」
「未来‥‥ですか‥‥。」
あの神?が誤って過去に、それか過去のような平衡世界に送り込んでしまった可能性は‥‥、まあ、ありうる話ですわね。なんか焦っておられましたし。
「まあ、大聖堂に到着いたしましたら神様にお伺いでも立ててみましょうか。」
「そんな敬虔な人だっけ?」
「さほどでございますわね。」
下町のちょっと奥側に向かいますと、シンプルながら頑丈そうな一軒家がございました。
玄関先を掃除している男性が、ふっと此方を見られますと、急に満面の笑みになりました。
「おお! 久しぶりだなレンツ! おお!! 一目でわかったぞ! 体の重心が戻ってるじゃないか! また冒険者に戻るのか!?」
レンツ様より頭一つ大きい男性がレンツ様を持ち上げます。
リア様を持ち上げるような感じで、ひょいと持ち上げているのは中々シュールな絵でございます。
「久しぶりソーマ。アリサは居る?」
「おお、今ちょっと魔獣狩りに出てるが、多分もうすぐ戻るぞ。」
「ちょっと二人に仕事を頼みたくてさ。もちろん俺も行くよ。」
「おお! 久しぶりの仕事だな!! もちろんだ! よし! 復活の祝いだ! 上等なワインをあけるぞ!」
レンツ様をおろして、家の奥に向かおうとされます。
「ちょっと何玄関先で騒いでるのよ。」
「久しぶりアリサ。」
血抜きの終わった牙の生えたウサギを手に持っている女性があきれた顔をされています。
「とりあえず、再開を喜ぶ前にこのアルティメットゴージャスダイナマイトボディのド美人さんが何者か教えてくれない?」
「ああ、こちらヴィルさん。元多分大貴族の方だけど、とっても気さく‥‥奇策? まあ、とりあえず不敬云々言ってくるような昔話に出てきそうな悪徳貴族じゃないよ。端的に言うとリア様のお友達。」
「リア様のお友達なら私もお友達ね。初めまして、私はアリサ。よろしくね。」
と言って笑顔で手を差し出してこられます。
「ご丁寧にありがとうございます。私ヴィルヘルミーナ・ローゼンアイアンメイデンと申します。今回は私のおねがいを聞いて頂けないかと思い此方に参らせていただきました。」
「むっちゃいい人じゃない。レンツの春?」
「ではないね。」
レンツ様は首をすくめます。
「でしょうね。OK、二人ともお昼食べた? 一緒に食べていく?」
「よろしいのでしょうか?」
「いいよいいよ、今回多めにとれたからさ。腐るくらいならおなか一杯食べてもらった方が良いよ。」
「とはいえ本当に全部食べ切るとは、お嬢様もそうだけど、レンツ、貴方もなんか食べる量増えてない?」
「実は体が治ってから食べる量増えたんだよね。」
「大変美味しゅうございました。アリサ様。私の事はヴィルとお呼びくださいませ。」
「元気なのは良いことだ!」
アリサ様は皆を見回して、首をすくめられます。
「まあ、そうね、元気なのは良いことだね。」
「洗い物してくる! 客人はアリサと相談しててくれ」
そういうと、ささっと食器を持って奥のほうに行かれました。
「相変わらずフットワーク軽いなソーマ。」
「それが良いところ。さて、難しい話は今のうちに済ましちゃおうか。端的に言うとどういう話?」
「実は‥‥。」
レンツ様が今までの経過を簡単に纏められます。
凄まじい語彙力ですわね。脱帽でございます。
「ほぉー。あの禁域がそんな感じだったとはね。まあ、明らかな確定的ではない物事が多いけれど、取りあえず一番確率の高いことをしようという事ね。」
「その通りでございます。つきましてはお忙しいところ恐縮ですがぜひ同行頂ければと思い此方に参りました。」
「まあ丁度直近でなんかやることもないから良いよ。何か今聞いておくことある?」
「そうですわね。ところで大聖堂がグランヴィディアなる国にあるのは先ほど聞いたのですが、そもそもの地理関係はどのようなものなのでしょう?」
「隣の国だよ。だからこの前の聖女様もわりと早く来られたでしょ?」
「なるほど。」
数か月くらいを覚悟しておりましたが、割とすぐ行けそうですわ。
「とはいえ、ここからだと結構かかるけどね。ここら辺がセントロメアの南で、大聖堂はグランヴィディアの北だからね。」
アリサ様は地図を出して見せてくださいます。
「まあそんな難所もないし、あいまに街もいくつもあるから大丈夫だとおもう。ただ、最近魔物被害の報告が増えている地区がいくつかあるから、野宿はなるべくしない方向にはなるね。」
「今の季節楽しそうではありますのに残念ですわね。」
「まあ、命のほうが大事だからね。他に護衛等は?」
「いや、この4人で行こうかと思ってる。」
「少数ね。なら馬車は1台で十分かしら。寝台用に2台にする?」
アリサ様は此方を気遣ってくださるようです。
「お金がもったいのうございますので、アリサ様がおいやでなければその分はリア様のお土産代にいたしましょう。」
「OK それで行きましょう。何時行く?」
「此方はいつでも。」
「なら3日後にしましょう。必要なものはレンツに聞くといいよ。」
「頼りにしておりますわ。」
「じゃあこの後買い出ししてから戻るか。」




