18 悪役令嬢は暗礁に乗り上げる
どうもお久しぶりです。ヴィルことヴィルヘルミーナでございます。
このような出だしも久しぶりな気がしますわね。
現在の私は 方向を見失って、非常に困ってございます。
とりあえず一つの目標である自由の身になれたようでございます。
のは良いものなのですが、罪科とともに実家の国も消滅していたようでございます。
記憶のある限りベルクートアブル自体はそこまで他国と積極的な交流をしていなかった記憶がございますので、他国の教育自体わりとおざなりでございました。今となってはややそれも不自然な気は致しますが‥‥。
ということで、実際ここが同じ時間帯の世界で、皆様の地理の知識と測量技術が壊滅しているだけなのか、そもそも異世界なのか、異世界かつ時間すらずれているのか。そこからでございますね。
ただ私、この国の名前を聞いたことがございますので、全く別の異世界ということはないのでしょう。平行世界なるものなのかもいたしません。以前読んだ小説にそのようなものがございました。
いずれにしても、私の存じ上げる国は全て今現在存在してはいるのですが、私の実家の国のみが存在していないという不思議極まる状況になっております。地図でもそこは海とのことでした。
「実は人魚だったりする?」
ハノイ様は至極真面目な顔で正気を失われているようです。
「流石に人類だと思いますわ。」
「だよねー。」
ということで現在非常にやさぐれておるわけでございますので、買い食いの量が増えるのもやぶさかではないかなとは思っております。
「ヴィルちゃんの栄養は一体どこへ‥‥。」
テレジア様は私の二の腕をもんでこられます。
「やはり運動なのでしょうか? 実際運動で消費するカロリーは微々たるものでございますが、人生とは積み重ねと存じます。」
「最近リア様と一緒に野山よく行ってるもんね。」
レンツ様もそういって首をすくめます。
「おはないっぱい!」
リア様はにこにこです。視力が10ほど上がった気がします。
一時ふさぎ込んだりびっくりしたりとメンタルジェットコースターでございましたが、リア様なりに色々納得されたようです。
ちなみにのんびりピクニックの実情が何かといいますと、どうやら昨日の余波でここナーラック領でも魔獣被害が激減していると聞いております。
そのため今のうちにという事で、森林事業を始めたり、花畑を見つけて遊んだりと平和な生活を行っております。後者は完全に趣味でございますね。
「でも実際、ヴィルちゃん、今後どうしましょうね。一生居てもらっても私は全然問題ないし、むしろ大歓迎よ。」
テレジア様が抱きついてこられます。
どうも、色々ぶっちゃけたあとから気を使ってくださっているようです。
「ただ、私を害した犯人がどうしてここに捨てたのか等謎はまだ残っております。」
私は腕の中のテレジア様をよしよししながら悩みます。
そうなのです。ヴィルヘルミーナとしての方針は完全に暗礁に乗り上げているのですが、この肉体についてはまた別の問題が残っております。明らかに悪意を持った何かが存在しているはずです。
ちなみに流石に神様?っぽいのに会ったとか、転生した等は流石に申せませんでした。どうやらここら辺は創造神をかなり敬っているようで、下手したら異端審問にかけられる可能性があります。実際そういう法があるのかは存じませんが、聖女様の聖句に真正面からケチを付けるのはあまり得策とは言えないと思っております。言っても詮無きことですし‥‥。
「そうなんだよな。わざわざ立ち入り禁止の区域というのがな‥‥。」
ハノイ様も疑問顔です。
「山賊ですら立ち寄らない場所と言われているんだがなぁ。」
「山賊がおられるのですか?」
「理論上はな。実際俺の代になってからは見てはない。昔はいたらしい。」
「平和でございますね。」
やはりナーラック領はとても平和でございます。
戦争の気配も一切いたしません。
そういえば、
「‥‥そもそもなのですが、あのあたりはなぜ立ち入り禁止なのでしょうか?」
特に何の変哲もない平原だった記憶があります。
特に貴重な何かがあるわけでも、危険な生物がうろついている感じもございませんでした。
「ホラー気味た話にはなるが、大丈夫か?」
ハノイ様は急に真面目な顔になります。
「大好物です。」
「だ‥‥?、ああ、えっと、そもそも、うちの先祖が何をしてたかというと、ここら辺にあった祠の管理人だったそうなんだ。」
「祠、でございますか。」
「もう相当前の話なので、資料があんまり残ってないんだが、どうやら呪われた祠だったようだ。入ったものは二度と出てこれない、そんな感じの。で、それがある日突然吹っ飛んだそうだ。」
「突然な話ですわね。」
「ヴィルちゃんが見つかったあの平原ね。古い資料をみるかぎり山脈があったはずなの。」
テレジア様が真顔でそうつぶやきます。
「地形が変わるレベルで何かえらいことがあったらしい。そしてそのあと何十年も近寄ったものは、二度と帰ってこなかった。最近はそうでもないみたいなんだが、ただ時々何かに当てられた人間が魔物になる事がある。らしい。爺さん世代の話だな。本当かどうかはわからんが。」
それから導き出される答えといえば‥‥
「‥‥という事は、私も魔物でしょうか?」
確かに、神様?も「人間?」みたいな濁したことをおっしゃっていた記憶が思い出されます。
「いや、魔物になると言葉を失い、見た目も変わり果ていたらしい。噂によると王都の研究室にその被害者がまだ保管されているらしいが‥‥、見た感じヴィルは普通の人間だしなぁ。果たして‥‥。」
「謎が深まるばかりですわね。」
「謎の中心地なんだけどねヴィルさんが正直。」
レンツ様の意見には同意ですわね。
「なので正直、あの奥に何があるとか誰もわからんはずなんだ。だが犯罪者まで見ているわけでもないし、いちいちチェックしているわけでもない。この国の人間でわざわざ立ち入るアホもいないはずなんだが‥‥。」
ハノイ様は複雑そうな顔をする。
「こういったことがあるなら、たまには見回りをしてもよいかもしれんと、一応報告は上げておくか。」
「被害者が出ると問題ですので、死刑囚を放つ等をして確かめるのが良いのかもしれませんわね。」
「人権さんお休み中?」
ところで聖女様と第三王子様ですが、とりあえず私があまり乗り気でない事と、頭が完全にすっ飛んでいるのか、なんだか訳の分からないところからやってきた伝説の存在なのかなんなのか判断しかねるという事で、一度会議にかけてからまた来るとのことでした。
「ヴィルはやっぱりおひめさまだったんだねー。」
今私は、リア様の髪の毛を結っております。
夕方にデューダーローズの方々が来られるとのことでした。どうやら何をどうしてもお礼がしたいとのことです。
正直私自体は何もしてはいないのですが。
ちなみに当時の記憶はばっちり残っておりますので、聖女様にタックルからの頭突きをされた記憶しか御座いません。
「御姫様になり損ねた感じのばあやですわ。貴族がお姫様ですと、リア様もお姫様ですわね。これはこれは姫、とても美しく出来上がりましたわ。」
サイドのみねじって、後ろでとめるタイプです
「すてき! きれい! ヴィルもきれいね!」
「姫もおきれいですよ。」
さて、本当にこれからどういたしましょう。