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17 悪役令嬢は〇〇様?

「何この無茶苦茶な気配は!?」

エシオンは、今までアイオイがここまで狼狽した姿を見たことが無かった。

それ故、驚くと同時になんだか良く分からない感情が芽生える。これは初恋‥‥?

「アイオイ殿、鈍い私にもわかります。これは大聖堂のような気配でしょうか?」

頭を振って、冷静に戻ろうとするエシオン。

実際世界中に元来微量に存在する悪意というか、そのような属性の魔力が一掃され、凄まじい清浄空間になっている。神々しすぎて涙が出そうだ。

しかしそれだけでもない‥‥。

「聖女の気配だけじゃない、神々しいけれども、禍々しいような‥‥、畏れ‥‥? いずれにしても‥‥あの子ね!」

「アイオイ殿!?」

ローブを翻して、ダッシュするアイオイを追いかける。

思った以上に聖女様の足は速かった。

「待ってください!!」

本当に速かった。



「ヴィルさん! ヴィルさん、ハウス!ハウス!!。」

ハノイは混乱するレンツを見て若干落ち着いた。レンツの中ではヴィルは多分ペット扱いなんだろう。わからんでもないが、思春期の少年がそれでいいのかと冷静になる。

「よし、取りあえず身の安全が保てないものは屋敷の中に戻れ。俺とジルに武器を。」

「正気か!? お前のメイドだろう!?」

ジルは悲鳴を上げる。

「人外魔境を相手にするんだから万が一だ。」

ヴィルは若干正気を失っているように見える。あとなんか気配がやばい。聖なる力は分からないが魔力ならわかる。昔一度だけみたドラゴン以上だ。

ヴィルは良い人間なのは分かっているが、現状もそうとは限らない。

それが証拠にゆらゆらと揺れて、揺れ・・浮いてる!!

「弓も用意しとくか。」

ジルも冷静になった。飛行の魔法は現状報告がない。無駄が多すぎるからだ。つまり目の前は人外魔境。

領主二人は最悪のケースを覚悟する。

と、その瞬間、人類最強もかくやと言わんばかりのタックルがヴィルに刺さる。タックルの主は誰であろうアイオイであった。

ヴィルは気にせずふよふよしている。

「あなた! その力ちょっと借りるわよ!!」

アイオイは頭突きかと思うレベルでヴィルの額に自分の額を付ける。そして集中する。

「ちょっと力が抜けるかもしれないけれど、我慢し‥‥すっごい美人何この子!? くっそ美人!!」

集中は若干解けたが、それでもなおその力はもはや制御不能レベル異次元レベルであった。

「ああもういいわ、力任せは苦手なんだけど‥‥。天上におわす万能たるああ!!!??」

聖句を唱えた瞬間、目の前があまりの光で真っ白に塗りつぶされる。

その光は暖かく、心に染み入るが、何となくちょっと座りの悪い気もする感じの、不穏でもある微妙な光だった。

「ぬうう、後味の悪い力だけれど止む無し‥‥、万能たる創造神よ! その御力の片鱗を御見せ下さい!」

そう唱えた瞬間、ナルクルに取りついていた影は、一瞬で吹き飛ばされた。何か悲鳴を上げていたようにも見える。

その光はナルクルを通り過ぎ、屋敷を貫通し、領内を染め上げ、

その日、ファストロッド邸周囲100km程度に居た魔獣は、塵と化した。



「つまり、大団円という事でございますわね。」

遅めの昼食を皆でいただきながら私はそうつぶやきます。

「何をどうしたらそんな平和な結果になるの?」

ハノイ様はジト目で此方を見てきます。

「先ほどは失礼いたしました。このようなところに大聖女様がおわすとは‥‥。恐らくこれは私を試されていた、という事でございますね?」

キラキラした目でアイオイ聖女様が此方を見ております。

「私、大聖女様なるものが一体どういった方なのかとんと存じ上げませんのですが。」

本当に知らないのでそういわざるを得ません。

「いずれにしても、ナルクル様は健康になられたという事でよろしいのでしょうか?」

他者の健康状態を測る知識は私には御座いませんのでそう尋ねます。

「ああ、先ほど同行してくれていた主治医にも見てもらった。何の問題もないそうだ。いや、とのことです。この度は‥‥。」

ナルクル様ははっ、と途中で気づいたように言葉を変えられます。

「いえ、私はしがないばあやでございますゆえ、そのようなお言葉遣いは不要に存じます。」

「どんだけばあやネタ好きなの?」

レンツ様があきれた顔で此方を見てきます。レンツ様は平常運転ですわね。実家のような安心感という物でございましょうか。

「ヴィル様は‥‥聖女では無いのですか?」

アイオイ様はこの世の終わりのような顔をしておられます。

「聖女様には初めてお会いいたしましたし、私実は魔法も使えるのです。」

と言って、右手に小さな炎をともします。

「このように。」

「しれっと高等技術出すの辞めて? あえて言ってなかったけど普通無詠唱ってあり得ないからね。」

ハノイ様に言われるまで気づきませんでした。

しかし実家の皆は詠唱をしていなかった気がいたします。

「郷にいては郷に従えといったものでしょうか。」

「多分違うと思うよ。」

レンツ様も同様の意見の様子です。

「すまない、今だけは護衛ではなく王族としての意見を述べてもよいだろうか?」

エシオン様が一歩前に出られます。

先ほどの炎をみて、アイオイ聖女様は完全にフリーズされておられました。

「先ほどの力は聖女の力、と断定はできないと私は思う。ここで聞いた言葉は他言無用だが、実は王族も聖女の力を多少持っている。それ故、どのような力なのかはある程度理解できる。だが、先ほどの力はどんな聖女とも異なる力だ。純粋に神々しいだけでなく、何とも奇妙な感覚になる。それはみな、これを見ればわかるだろう。」

といって目の前の料理に目を向けます。

そうなのです、実はあの後皆、尋常でなくおなかが空いたのです。

「あの力を浴びると癒される代わりに空腹になるのか、それとも別の何かを持っていかれているのか、いずれにしても野放しにしてもよい力ではない。」

「個人的にはヴィルさんの健啖家な性格が伝播しただけなきもしないでもないけれど‥‥。」

レンツ様はぼそっとつぶやきます。

静かにハノイ様とジル様は考えて、そうかも、みたいな顔をされております。

私が言うのもアレですが、皆様割と神経図太いですわね。


「いずれにしても、その力は唯一無二だ。空腹という副作用のみと仮定するならば恐らく歴史に残る強さになるであろう。ヴィル、一度王都で大聖女の鑑定を受けてもらいたい。」

「そののちはどうなるのでしょうか?」

「力を認められれば、おそらく大聖女と認定されるであろう。」

うんうん!とアイオイ様は興奮しながら頷いていらっしゃいます。

先ほどまでの聖女のような雰囲気はどこへやら、リア様に近い雰囲気をかもしだされておられます。確かに見た目も結構お若い様子。

ちなみに現状複雑な話になりそうなので、リア様等お子様組は別室待機です。


「私は、ハノイ様に返しきれない御恩が御座います。また、私も現在皆さまの温情でこのような生活をしておりますが、元はこの国のものでもなく命を狙われたこともある身で御座います。」

ナーラックの皆様はすこしだけピクリと動かれましたが、平生をよそおってくださっています。その気遣いが面はゆいですわね。

「命‥‥、その言葉遣いからは異国の貴族か? 元聖女という訳でもないようだ。ならば命を狙われたのはその力ゆえか?」

「正直なところを申しますと、襲われた日の記憶が実は全くございません。ゆえに何が原因かは判然といたしませんが、時期としては第一王子と婚約が発表された後でしたのでそれが有力かと存じます。」

「大貴族じゃん。」

ハノイ様は頭を抱えます。

「というか聞いてもよかったのか?」

ハノイ様は王子の言葉をさえぎって聞いてきます。不敬に当たる発言ですが、私のいやなことは喋らなくてもいいという意思表示でしょうか。本当にお人よしでございます。

「お気遣い痛み入ります。皆様に優しくされ、私も色々と心の整理がつきました。」

なるべく考えないようにしておりましたが、私はおそらく悲しかったのでしょう。

その悲しみがどこから来るのかはわかりませんでしたが、失った記憶にかかわるものなのかもしれません。


私はナプキンで口を拭い、すっと立ち、皆様を見まわします。

心配そうなナーラックの人たちに笑顔を向けます。

「改めて自己紹介をさせていただきます。私、ローゼンアイアンメイデン家長女、ヴィルヘルミーナ・ローゼンアイアンメイデンで御座います。ベルクートアブル大帝国、公爵が一人ヴァンドゥーク・ローゼンアイアンメイデンの子で御座います。」

そういい、静かに頭を下げます。

みなは一言も発さず、発言をどうにか理解しようとしているご様子です。

「あー、ヴィルヘルミーナ嬢?」

「なんでしょうかエシオン様。」

「ベルクートアブル大帝国?」

「さようでございます。」

「そのような国は‥‥、存在しないぞ?」

「はて?」


さて、神様?のようなものへの文句が一つ増えました。

場所どころか時間か空間も離れているようでございます。

大聖堂を燃やし尽くしましょうか。


「大聖堂へ向かう理由が一つできました。」

「とりあえず落ち着こうね。ほら、美味しいよこのパン。ほらいい匂い。」

「ハノイ様。私そこまで‥‥ふむ。どうやら落ち着きました。」

取りあえずこの気持ちはバターロールとともに飲み込むことにいたしましょう。とてもいいバターでございます。

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