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16 悪役令嬢と聖女様

「よく来てくれたナーラックの皆様。昨日はよく眠れたかね?」

「ジル様。もちろんでございます。使用人にも気を配っていただいて感謝しております。」

ハノイ様はそういって、綺麗な例をされます。

「‥‥フフッ。さて、堅苦しい挨拶はこれまでだ。ハノイ、皆、朝ご飯を頂こう。今日はコカトリスの卵だぞ。珍しく取れたんだ。」

「おお、王都でもなかなか手に入らないというアレか。」

「うむ。まあ、それだけ魔獣の生息範囲が広がっているという意味でもあるが、まあ今日のところは難しく考えず味わってくれ。」


朝ごはんは、オムレツにクロワッサン、ベリーのジャムにベーコンという比較的スタンダードなものです。

「ふうむ、此方のミルクはとても美味しいですね。」

「ヴィルさんもそう思う? 何だろう、牧草が違うのかな?」

「コカトリスの卵にもとても合いますね。私も口にするのは久しぶりですわ。」

前世の頃よりやや新鮮な感じがします。流石に街中で取れたてを食べるのは不可能でございました。これも良い事ですね。

「やっぱりお金持ちだよねヴィルさん。」

「基準によるとは思いますが、ここ最近以外でお金に苦労した覚えが無いので恐らくそうだと思いますわね。」

ふうむと考える。

「ヴィルさんが金欠なのは多分買い食いのせいだと思うけど‥‥。」

「どうも此方に来てから妙におなかが空くんですよね。」

正確には此方に来てというよりは、此方の体になってではあるのですが。

見た目は全く同じなので何ともわかりませんが。

「他の国は知らないけど、ご飯美味しいもんなぁ。」

レンツ様はしみじみと言われます。

いろいろ苦労した経歴もあって、感慨もひとしおのようです。

「ヴィルさんは何のご飯が一番好きなの?」

「最近で言うと、何が苦手だったか全く思い出せないレベルでなんでも美味しくいただいております。以前は肉類等は苦手だった記憶はありますわね。」

正直植物性なもの以外はどうも性に合わなかった思い出があります。

「まあ、少なくとも現在に関しては、このミルクは一番好きですわね。でも実際ちょっとそろそろ方針を考えてはいるところです。」

「一等市民の話?」

「ああ、ヴィルはもう一等市民になるぞ?」

「はて?」

さらっとハノイ様に言われ、驚いてしまいました。

「まだお金はさっぱり溜まってはいないのですけれども‥‥。」

「実は王都に罪人を使用人として雇うのはやめとけと言われてな‥‥。本決まりじゃないからぬか喜びさせるのもどうかと思っていたのだが、王都のほうで働き方を鑑みた結果、そのうち恩赦の通知が来る、らしい。」

「良いのでしょうか?」

「実際被害者がいるわけでないというのが1つ、あとはテレジアが気に入っているのがもう1つだ。あまり立場を乱用するのもアレだが、テレジアは元刑務局局長なんだ。」

「うふふ。そうなの。ヴィルちゃんいい子だし、何か事情があったのでしょう? ああ、いいの、言いたくないことは言わなくても。」

「過分なご配慮痛み入ります。」

これが人のやさしさというものでしょうか。

「テレジア様はじめ、皆様の大恩、私一生忘れませんわ。」

「まあ、リアも家族みたいに思っているからな‥‥。相談したいことがあれば気にせず言いなさい。」

ハノイ様はそういって笑ってくださいます。

「という事だ。ハノイの家族は俺の家族も同然だ。このジル・ファストロッドにも頼るが良い。」

「皆様有難うございます。ヴィル・ロゼリアであるわが身は皆様とともに。そして私の問題が解決した暁には、皆様に恩をお返しすることをお約束いたします。」

「見返りが欲しいわけじゃないから、それだけは忘れるなよ。」

ハノイ様は悪ぶった顔でそうおっしゃられます。

「もちろんでございます。」

その時、外からガヤガヤと人の声が聞こえてまいりました。

「旦那様。聖女様がお着きになられました。護衛として第三王子、エシオン・ドラッド・セントロメア様も来られております。

「王子までか! ならば聖女様は‥‥。」

「はい。浄化の二文字をお持ちの、アイオイ様でございます。」

「なんと!」


何やら盛り上がっているようでございます。モグモグと静かにベーコンを租借しつつ観察いたします。

「ヴィルさんはマイペースだね。」

「食べれるときに食べておく、此方に来てから学んだことでございます。」

「淑女っていうか冒険者の心得だよねそれ。」

「イレギュラーに対応するのはどこでも大事ですわ。常在戦場の心得ですわね。私の知るお茶会とはそういったものでございました。」

「魔界かなんかから来たの?」


丁度、少し前に目を覚ましたナルクル様を連れ、聖女様を迎えるために玄関に向かいました。ナルクル様は車いすに乗っていらっしゃいます。クッションが多めで、椅子というよりは車ソファーといった方が近いような大きさでございます。

リア様等お子様組はまだピクニックでございます。

正確には、治療の過程を見せたくない様子でございます。万が一失敗した場合に目の前で泣かれる等すると不敬に当たるからとのことでした。


「遠路よりご足労頂き、また、ご拝謁できること感謝の極みでございます。私はこのファストロット領領主、ジル、と申します。」

と言って、ジル様は聖女様の前でひざを折り、手を伸ばします。

その上に手をのせ、聖女様は笑顔を浮かべます。

「アイオイで御座います。お出迎え感謝いたします。」

此方の挨拶はこのような感じなのですね。

第三王子は空気ですがよろしいのでしょうか。

この場合、護衛という立場であるならばそれが恐らく正しいのでしょう。話を聞く限り普通の聖女でも准王族、上級聖女となればほぼ王族のようなものなのでしょう。であればそこまで不敬という訳でもないのでしょうか。私には此方の上下関係は分かりませんので静かにしております。

「貴族たる見本も大事ですが、具合の悪いものを前に時間がとられるのもまた本意ではございません。早速ですが治療に当たらせていただけますでしょうか?」

アイオイ様はそういって笑顔を浮かべられます。

「挨拶出来ぬ事、ご容赦くださいませ。私がナルクル・デューダーローズでございます。この度は聖女様のお手を煩わせて申し訳ござ‥‥」

「いえ、そのようなことは御座いません。領民を守るために戦ったあなたに何の落ち度があるでしょうか。」

笑顔でナルクル様の手をとられます。

「それでは少し楽にされていてください。マンティコアの毒ですわね?」

「その通りでございます。有難うございます。」

ナルクル様は涙目で頭を下げられます。


「私聖女様を初めて見ました。」

ヒソヒソ声でレンツ様に話しかけます。

「唇動かさずに良く喋れるねヴィルさん。器用過ぎない?」

「空気を読んでみました。」

「その万能さをもうちょっと別のところにも使えたらいいんだけれど‥‥。」

「癒しの業とは、魔力ではないのですね。私、アイオイ様から魔力を一切感じません。」

「鶏と卵の話にはなるけど、魔力持ちと聖女は両立することは無いんだよね。何でか分からないんだけれど。」

「魔力が無いがゆえにピュアな魔素を使っているというわけでもないようです。でも何かしらキラキラした物が見えますわ。」

「え、マジ? 何も見えない。」

「本当か? 俺にも見えないぞ。」

ジル様が割り込んでこられます。

「私目は良い方のようです。今、アイオイ様の額からでてきたキラキラが手を通って、ナルクル様のほうに向かっておりますね‥‥。ただナルクル様のほうがそれを弾き返す力が今のところは強いようです。」

「高魔力持ちは癒しが効きにくい事があるはあるんだ。魔法攻撃が通じないようなものか?」

ジルは首をひねる。

「それとはやや異なるようですが‥‥。そもそも近づけないようにも見えます。」


「アイオイ殿、力を使いすぎでは‥‥。」

「あと少しで、小休止いたします。天上におわす万能たる創造神よ‥‥!」

アイオイは気合を入れて毒を叩こうとするが、恐らくずっと戦っていたためのナルクル様の防衛本能と、毒自体の回避能力で叩ききれていない。

毒が意識を持つことはよくある。古くは呪いと言われていたが、現在は魔物の分体のようなものだと分かっている。なので魔物討伐と癒しの技は表裏一体だ。

「有難うございます。何やら体が軽くなったようでございます。」

ナルクルは笑顔でそう伝える。

これ以上無理をしないようにという気づかいだ。

「‥‥、未熟なわが身を恥じます。」

「僭越ながら、人の身で何を成すか、それが大事だと私は思っております。」

それは残りの余命の事も含めてであると、アイオイは分かってしまった。

「‥‥私の技は絡め手でございます。力推しのほうが良いかもしれません。急ぎ王都に文を。」

「了解いたしました。」

エシオンは深々と礼をし、部下に指示をだす。



「ダメだったか‥‥。」

ジル様は無表情を保っておりますが、目にうっすら涙を浮かべていらっしゃいます。

もともと表情が豊かな方ですので、無表情のほうが目立つのですけれども。

「ジル、早馬を出して間に合うか?」

ハノイ様も、似たような顔をして尋ねられます。

「偶然王都に大聖女様がおられたとして、ギリギリのところか。ただ、大聖女様はみな激戦区に赴かれているとの文もあった。本人を連れていければよいが‥‥。」

激戦区まで弱っているナルクルを連れて行くのは現実的ではない。

それまでに恐らくは‥‥。


「あ、お父様。と‥‥聖女様!。」

その時、バイク様の声がいたしました。

予定より此方が時間がかかったため、ブッキングしてしまったようです。

「バイク。控えなさい。此方は聖女アイオイ様、そして護衛のエシオン王子様だ。」

「初めましてバイク様。アイオイでございます。」

少しだけ緊張した声でアイオイ様は答えられます。

「私は護衛だ。礼は無用。」

エシオン王子はそう言って一歩下がりますが、子供の間を目が行ったり来たりしております。子供が好きのようですね。いや、向こうで寝ているネコにも目が行っているので可愛いもの好きなのでしょうか。

「お父様。これでもう大丈夫なんですね!」

バイク様は笑顔でナルクル様の手をとります。

「ああ、楽になったよ。」

ただ、その笑顔を見た瞬間。バイク様の笑顔が凍り付きました。

「だから、笑っておくれ。」

「‥‥はい‥‥。」

バイク様は泣き笑いのような顔をされます。

それを見て、リア様も状況を悟ったのか、此方を一瞬見て来られました。

ハノイ様と目が合った瞬間、全てを悟ったのでしょう。リア様の目から大粒の涙がこぼれました。


「私が癒しをかけ続ければ‥‥。」

アイオイは小声でエシオン王子に話しかける。

「それが不可能なことはアイオイ殿がよくご存じかと。」

癒しの業は体力を持っていかれる。使いすぎると寿命を削ることになる。そして解毒の業を必要としているのは他にも山ほど居る。

「今は貴方のそのデリカシーの無い言葉がありがたいわ。」

「デリ!?」

「頭を冷やしてくれてありがとう。」

平民の頃の言葉遣いに戻ってしまっているが、エシオンもあえて何も言わない。

というより前の言葉が気になって何も言えない。


「ふむ、これはとてもよくありませんわね。」

「ヴィルさんどうしたの?」

「私、今まで感じたことのない感情を覚えていて、とても、とても戸惑っております。」

「うん、顔も戻ってるし、なんか謎の気配も感じるしちょっと落ち着こうか。」

レンツは焦る

「胸の真ん中がすごく、なにやらつっかえた感じがいたします。」

「ハノイのメイド、落ち着くんんだ。それはきっと朝ごはんの食べ過ぎだ。」

ジルも焦る

「目の前がすごく明るくなってまいりました。」

「一般的には興奮すると瞳孔が開くからね。でも多分それ違う、なんかキラキラしてるよ。なんで?」

ハノイも焦る

「この世の中にこのようなことがあってよろしいのでしょうか?」

「‥‥私も今同じことを考えているわ。」

テレジアも焦る


なるほど

「これが怒りというやつなのですね」

前世では一度も覚えたことのない感覚です。


人が増えるたびに 0 あらすじに追記しております(作者は鳥頭

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