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15 悪役令嬢と帰宅の朝


チチュン ピチチチ‥‥

ファストロット家での目覚ましは鳥の声。とても優美でございますね。

どうも、ヴィルでございます。

シンプルな寝台から降りて、ぐっと背伸びをします。少し固めの寝具のほうが腰には良いと聞いたことがあります。

ファストロット家もわがナーラック家も寝具の質は似たり寄ったりです。

そのためかこちらに向かう最中の、なかなかハードな馬車移動でもわりかし無事でございました。

浄化の魔法をかけて、髪を縛り、窓を開き、風魔法で空気を入れ替えます。

「うむ。今日も平和でなによりですわ。」

窓の外にはシンプルながら機能性の高い庭や花壇が見えます。夏場早めのためかほぼ緑ですが、それもまた侘び寂びですわね。

ふと、目を下に向けると既に下で素振りをしているジル様と目があいます。隣にはハノイ様もおられますがこちらはまだ気づいておられない様子。

なかなか気配にさとい方のようです。

ジル様は不審そうにこちらを見て首をひねっておられましたが、飽きられたのか、また鍛錬に戻られました。

「さて、リア様のお世話に向かいましょう。」

顔をレンツ様のものに変えて、さあ今日も頑張りましょう。


「なあ、あの窓から見えたのって‥‥。」

「ジル。何も見てない。聞こえない。いいな?」

「いや、顔が‥‥。」

「顔が遠くて見えなかったな。」

「魔力の気配が‥‥。」

「寝ぼけてるんじゃないか? 顔を洗ってはどうだ?」

「お前‥‥。」

「‥‥胃薬ある?」


朝ごはんに向かう前にハノイ様に渋い顔を向けられました。

お説教の気配がいたします。ハノイ様は我が家の執事と同じかそれ以上にお小言が長い印象でございますので、ささっと話を変えてしまいましょう。

「ハノイ様はいつもあのように鍛錬されているのでしょうか?」

「毎日というわけではないけれどな。 俺みたいなルーツが平民な人間は魔力がないからどうやってもフィジカルを鍛えるしかないんだよ。貴族の義務っていうやつは魔力の有無での言い訳にはあまり向いてないんでね。」

「領民を守るために頑張ってらっしゃるわけですね。とても良い事だと思います。」

「やっぱりコメントがちょくちょく為政者側だよね。」

貴族は農家や畜産業に近いという考え方が帝国の考え方のスタンダードではありましたがこちらはどちらかと言うとよき隣人たれという形でしょうか。恐怖政治というものは基本的に長持ちはいたしません。例外としては圧倒的な力の差がある場合のみではございますが。

「そういえば、聖女様は何時頃ご到着されるご予定なのでございましょうか?」

「早馬から聞いた感じではもうそろそろ到着してもいいくらいかなとは聞いている。」

「心配でございますわね。」

「あら、朝から二人で何か悪巧み?」

テレジア様が扉から出てこられます。

「何、君をエスコートするまでのちょっとした相談だよ。」

「ぜひ私も聞きたいわ。」

テレジア様は少しすねられているご様子です。リア様といい、テレジア様といい、ナーラック領の方はかわいい方が多いですわね。

「早く聖女様が来られるといいですわね、という話をしておりました。」

それを聞いてテレジア様は少しだけしょんぼりした顔になられます。

「ナルクル様も昨日の夜からもうずっと寝たままのようですし。バイクくんもどうしても元気がないようで、リアも心配していたわ。」

ちなみにリア様は現在早起きしてバイク様や、ジル様のお子様達後発組とピクニックに出ておられます。

リア様自体はこちらにすぐ来られるとはいえ、その他のお子様達は入学するまではさほど遊べないために、幼児特有のアクセル全開な感じで遊んでいらっしゃいます。

私の実家の方では貴族は皆個々で勉強するものであって、あまりみんなで一同に会して遊ぶということはございませんでしたが、こちらの方はのんびりした風土なのかそれとも実はこっそり参勤交代のような考え方があるのかもいたしませんね。

「参勤交代って何?」

「昔の偉い人がそうやって半分人質みたいなのを取っていた制度のことですわ。」

「こっわ。いや普通に他の国は知らないけどこちらの領主というか領地自体は大体どこもそんなに変わらないので一気に勉強した方が理にかなっているだけの話だと思うけども。」

貴族教育とは中々膨大な量ですので、個々に教師を雇うといってもその教師自体が少ないから難しいとのことでした。

流石に王族や准王族の方は別途勉強されてはいるとのことでした。

「 さて難しい話はこれぐらいにしよう。朝食を待たせるわけにはいかないからね。」

ハノイ様は自然にテレジア様と手を重ねます。物語に出てくる王子様と王女様のようです。

「それでは私はレンツ様と朝食をいただいてまいります。」

「いや、今日はレンツもヴィルもこっちだ。」

「はて?」

「ジル様のお申し出なの。人も少なくなってきたから客人はみな一緒に食べないかですって。ヴィルもそれでいいでしょう?」

ニコニコされているテレジア様のせっかくのお誘いです。あと私も最近健啖家になってしまったのか、食が細かった前世がうそのようです。今の空腹具合だと、ひょっとしたら窓枠程度でしたら美味しく食べれるかもしれません。

「ヴィルも見た目は深窓の令嬢だが、今日は腹に魔獣でも飼ってるのかっていうくらいグウグウ鳴いてるな。」

ハノイ様がジト目で此方を見てきます。

「昨日結構食べてたってレンツから聞いたぞ?」

「空気があっているのか、此方に来てから食欲が留まることがございませんでして。」

「その割にはウエスト細いわねヴィルちゃん‥‥。」

テレジア様もどちらかといえば細い方ではございますが。私はもともと枯れ枝のような手足でございます。

「健康的なテレジア様のほうが個人的にはとても良いと思いますよ。」

笑顔でテレジア様の手を握る。

「栄養が足りないから変な話になるのです。さあ、ご飯を頂きましょう。」

「まとめてエスコートするのはやめて。」

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