14 悪役令嬢は保護者ヅラをする
「はじめまして。リア・ナーラックでございます。ごきげんうるわしゅう。」
「カレンなおじょうさま。こちらこそはじめまして。わたしはヤーズ・マロカシュともうすものです。」
「みなさま、おげんきそうでなによりです。わたくしは‥‥」
何でしょう。とてもそわそわいたしますね。
お久しぶりでございます。ヴィルでございます。
現在私は立食パーティというテイの発表会を見ております。テレジア奥様と手を握りながらリア様の勇姿を網膜に焼き付けんと全力投球です。
「君ら目怖いよ」
ハノイ様はドン引きの様子ですが今回に限り無視させていただきます。
正直はじめましてでもなんでもない皆様ですが、そういう設定になっております。後ろではマナーの教師が点数をつけて後ほどフィードバックしてくださるそうです。
「リア様は素晴らしいですわね。指の先まで気を使っているのがわかりますわ。奥様のような見本があればこその勇姿ですわね。」
「ヴィルさんも立ち振舞いはなんの問題もないでしょう。さぞや良い教師がおられたのね。」
「うーん、どうでしょうか。」
「‥‥。」
テレジアは薄々ヴィルが昔のことを話したがらないことに気がついていた。重罪を犯した訳では無いではあろうが、おそらく何か大変なことがあったのだろうと。そうでなければ半裸で夜徘徊するわけがないと。
繊細な話の可能性があるので突っ込んで聞くことをためらわれていた。飄々としている感じからは多分違う気はするのだが‥‥。
実際身元調査は行っていたのだが、ヴィルという貴族は調べる限り存在しなかった。
落とし子なのか、跡目争いなのか。少なくともこんなど派手妙齢美人が居れば大騒ぎになっているはずである。他国の者なのかもしれないが‥‥。
何れにしても悪い人には見えないので様子見である。
飄々としているように見えて、きっと色々傷ついてきたんだろうと思うテレジアであった。
まあ、少なくとも、リアルに物理的に傷はついて今に至るヴィルではあるのであながち間違いではないところであった。
そんなこんなで、とても微笑ましいプリデビュタントは無事終わったのであった。
「がんばった!」
「素晴らしかったわ! 我がナーラック家の誇りよ!」
テレジア様はリア様を抱き上げてすりすりします。
とても混ざりたいですが強靭な精神力で我慢します。
「すごい挙動不審だけど大丈夫? なんかカクカクしてない?」
レンツ様が呆れたように聞いてこられます。
「勿論でございます。現在の顔は幻ですゆえ、すりすりいたしますと見た目としてめり込んでしまう可能性がございますゆえ。」
「それはやめといたほうがいいね。」
非常に残念でございます。
「あとは明日、朝食をいただいて帰宅という感じですわね?」
「そうだね。馬車の順番とかもあるから、一番近いうちが最後かな。」
レンツ様曰く、遠くの方は一週間ほどはかかるそうです。
幸いナーラックの屋敷とここは割と近場ですので行き来しやすいとのこと。
そのため御領主様同士も悪友ではございませんが、そのような気のおけない仲とのことです。
確かに貴族よりはかなり話しやすい方でしたね。
「ちょうど明日聖女様も来られるみたいだから会えるかも。」
「私、初めてお会いしますわ。」
ナルクル・テューダーローズ様が昨夕からまた眠りの症状が出ており、丁度王都とテューダーローズの通り道に此方のファストロット邸がありましたのでここで落ち合うこととなったようです。
他の魔獣被害が最近一段落したとのことで、かなり上級よりの中級聖女様をお送りいただけたとのことです。
なかなかフットワークが軽いですが、小国故なのでしょうか。一般的には矜持や予備力の観点から地方は最低限の扱いをされることが多いのですが、この国は私の知るものとは異なっているようでございます。
「一応聖女様は貴族ではないが、准王族扱いになるので、くれぐれも、くれぐれも、お前だ、くれぐれも変なことをするなよ?」
ハノイ様は鬼気迫る顔ですわね。
「そのつもりでございますが、僭越ながらそれはフラグという物ではございませんか?」
「そんな気がしてきた」