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3_13 悪役令嬢と悪役教皇、悪役王子と平民(レンツ

ヴィルはとりとめのない話をしていた。

家族の話、元婚約者の話、人類領の話、ゲーキの話、フェンガルの話、レンツやナーラックの皆の話。

少女は動かないが、時折自分の腕を握りしめる力が変わっているため恐らく耳には入っているのだろうとヴィルは判断した。

「リアっていう子がかわいくてね、どうもリア様って言う方がなじむようになってしまったのだけれど。」

ヴィルは首をすくめる。

「何時まで無駄な問いかけをするつもりだ?」

闇の中に声がした。

黒い涙を流す少女はピクリとも動かない。

「この体に私と本体以外の意識が?」

少女の向こう側に、黒い塊があった。人のようにも見えるが、何だかよくわからない。

「無粋な。無駄かどうかを決めるのは痴れ者の役目ではないわ。名を名乗りなさい。」

ヴィルの米神に青筋が浮く。

この黒いよくわからないものは侮って来ている。

「人に物を尋ねるときは自分からと言われなかったか?」

クックックと笑う黒い影。

「貴方のような下賤な民に聞かせる名は無いわ。」

「流石悪役令嬢だなヴィルヘルミーナ。」

「あなたから見て私が悪であることに意義を見出すほど卑下していないわ。精神体の寄生虫が。いや、この魔力、見覚えが。スカイドラゴンから感じた物と酷似しているわね。エプラスの手の者ね。」

「流石だな。我が名はムゲラル・アルマス・エプラス8世。ドップネスの手先よ。」

「手先、ねぇ‥‥。その手先が何故ここに?」

「力を手に入れるタイミングがあれば使うだろう? それが老い先短いジジイならなおさらだ。」

「空言を。あのスカイドラゴンを操るために何を捧げた? 自らの命に価値を見出す人間の行動ではないだろう。大した魔力もない人間風情が。」

ヴィルは凍てつく視線でムゲラルを射貫く。

「怖い怖い、流石堕ちたとはいえ神々に準ずる存在か。」

「何をどこまで知っている?」

「色々だ。だからこそ此処にこうして居るわけだがな。」

「なるほど。不思議だと思っていたのです。ゲーキに技術協力を願われる人類などあり得ない。魔力の少ない人間が出来ることなど限られている。特にドップネスは高魔力の何かをしようとしていたでしょう。そして人間風情が大量の魔獣を操る術を会得しているなど、貴方は何者?」

「さあて、こすっからい策がたまたま上手くいった哀れな老人よ。」

「なるほど。ドップネスは死んだのね。」

「流石だな。次々と我々の策をつぶしてくれたのは腕力だけではないか。」

「一足飛びで私に関わることを許すほどあの男が愚鈍とは思えなかったからよ。どうせ隷属の呪いが掛かっていたのでしょう?」

「そう。そして自由となった。私はドップネスの隷属の呪いを食らっていたが、敵対しない範囲で色々と動いていたんだよ。」

「まあ、為政者の首を抑えている者がいるとしたら、それを排除しようと思うのは正常な考えでしょうけれど。」

「その通りだ。そしてそれはゲーキ、今となってはフェンガルやベルクートアブルも当てはまる。奴隷の奴隷の奴隷など、我々の自由意志は無に等しい。それが生きていると言えるのかね?」

「さあて、家畜こそが主との考え方もありますが?」

「飼い主の傲慢だな。」

「否定はしませんが。で、あなたはこの体を乗っ取ろうとして、失敗したから出てきたのでしょう。」

「その通り。下手に動くと異物扱いで排除されてしまう。つまり主を滅ぼさねばならんということだ。」

ムゲラルの輝くと、30歳前後の男に変わる。

「魔力と意思の力がこの世界での正義だ。本体は今や死にかけているが、密かに保管していたクリスタル全てと接続している。魔力だけでは負けんぞ。」

ムゲラルの体から凄まじい魔力が吹き荒れ、黒い世界を白く塗り潰していく。

「この娘をどうするつもり?」

「可愛そうだが眠らせてやれ。それだけ苦しんだろう。」

ムゲラルは一瞬だけ眉を顰める。

「気持ちは分かるけれど、それは断るわ。」

ヴィルは手を振るうと、侵食してきた白い空間がぐっと押し返される。

「化け物か‥‥。」

「希望も、絶望も、そして自己の命も、我々他人が決めることではないわ。」

ヴィルから黒い魔力が噴き出す。

「私は何も諦めない。そういうのは趣味じゃないのよ。ハッピーエンドになってから決めてもらうわ。」

「それも傲慢では?」

「だから何? 私は悪役令嬢って言われてきたのよ。誉め言葉でしかないわ。」

ヴィルの右こぶしとムゲラルの右こぶしがお互いの顔面に突き刺さり、お互いを吹っ飛ばす。

反動を全力の魔力で緩和しているが、お互いにかなりの距離を吹っ飛んでいる。

結局のところ、一定以上の魔力を持つ者であれば、減衰率を考えると放出するよりは身の内で魔力を発動する方が強いためインファイトになってしまう。

「殴りかかる令嬢がいるか!」

「此処に居るわ。ひれ付して命乞いをするならギリギリ生かしてあげても良いわよ。」

「愚かな。命を惜しむとでも思っているのか!?」

「惜しむほどの価値のない命ということね。安心して成仏させてあげるわ!」


「うーむ、お主の言うヴィルヘルミーナ様と、我の思い出にあるヴィルヘルミーナ様が違いすぎる。」

ヴァルヴィオは眉間にしわを寄せて悩む。

「知識自体は齟齬は無い?」

「無い。ご本人しか知らない事であるので本人ではあるのではあろうが‥‥。ヴィルヘルミーナ様はもう少し苛烈な方だ。ご本人はそうは思っていないようではあるが。波風を立てないように生きるための手段として海を干上がらせるような考え方をされる方だぞ。」

「まあ、時々突飛もないことはするけれども‥‥。ああ、でも一回聖女の力が封印されていたときになんかそんな感じになってた気が‥‥。」

「聖女? なんだそれは?」


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