3_4 悪役令嬢とベルクートアブル そして暗躍する例のアレ
「用事は済んだようなので私は研究に戻りますね。」
瓦礫をかき分けて進む研究員。
「この状態でまだやるのか?」
ライネイの言葉に首をひねる男。
「100年もあれば原状復帰は出来るでしょう?」
「時間の感覚がずれ倒してるねコレ。」
レンツはため息をつく。
「所長所長!」
すると中から数人の研究員らしき人物がバタバタと現れた。
「どうした?」
「先ほどのなんかよくわからない攻撃でベルクートアブルのバリアに穴が開きました!」
「ほう? 理論値よりかなり低めの魔力だが?」
「恐らく生命体が鍵なのでは?」
「いや、総量よりもその質が大事なのでは。」
「一瞬の高さのほうが大事というわけか‥‥。」
その場でブツブツと議論をし出す面々。
「ん? ということはベルクートアブルの方々と連絡が取れたのか!?」
はっと顔を上げる最初のボサボサ男。
「いや、それがですね、どうも時間が異なっているようで。まあ見てください。」
「よしいくぞ!」
みんな揃ってバタバタと奥の方に走っていく。
「これってついて行っていいと思う?」
レンツの疑問にヴィルは首をすくめる。
「実家に帰るのに同意を得る必要は御座いませんでしょう。」
「国をまたぐ場合は要るだろ。」
ライネイは突っ込む。
「おおこれは‥‥。」
ライネイは瓦礫のなかでも無事な多数の機器をみて感嘆のため息をつく。
「あれほどの爆発でも概ね無事とは‥‥。」
「いや、機械もアレだけど、アレみてよ。」
レンツの指の先には空中に変なポーズで突き刺さっているマスクマン。
「マントだけ此方に飛び出てるけれど、見えない壁の向こう側は時間が止まっている‥‥?」
マスクマンの周りにはゆらぐ陽炎のようなものがあり、その向こうには見たことのない石畳の街並みがあった。
「失礼。」
ヴィルは近くに落ちていたスパナをひょいと投げる。
マスクマンの横を通り、陽炎の向こう側に行った瞬間、急速に失速してピタっと空中で止まった。
「入った瞬間停止するというよりは、かなり急速に向こうの時間に親和するといいますか、時間がエネルギーであるならば奪われていると考えた方が良いのでしょうか。」
ヴィルは顎に手を上げてふうむと悩む。
「これ私が入れば向こうで普通に動けると思いますか?」
「動けるだろうが、主観的な話だ。それが世界の終わりに一瞬だけなのかはわからんがな。」
フムフムと鼻息の荒い研究員は嬉しそうにする。
「やはり私の計算は正しい。あのクリスタルの一兆倍の魔力があればこの停滞場を中和できる。」
「バリアではなかったのですか?」
「バリアもあるぞ。フェンガル程度のものだがな。だがその向こう側の時間が停止している以上その頑強さは比ではない。」
「ちなみに周囲にバリアを張れば内部で動けたりするか?」
ライネイの疑問に頷く研究員。
「うむ。其方は簡単だからな。魔力の供給源がフェンガルではおぼつかない量なのでファンタジーあふれるものだが完成品はそこにある。」
研究員の指先には小さな指輪があった。
「あれに魔力を籠めれば周囲にバリアを張ることが出来る。ただ一瞬でも中断すると恐らく向こうの時間に飲み込まれる。」
「私だとどれくらい持つ?」
ライネイの質問に研究員はため息をつく。
「ゲーキの人間にしては多いだろうが、1分持てばよい方だろう。張りっぱなしのバリアではなく動きに合わせて2~3重に被せて張ったり消したりているからな。」
「なるほど、夢のある機械ですわね。」
「夢の機械だな。ある意味。」
「私だけでは恐らく使えるでしょうけれど、戦闘は不可能ですわね。向こう側に動くもの外るとは思えませんが‥‥。」
「あとは理論値の話なので向こうで本当に動くかはわからん。」
「これは最後に置いておきましょう。ですがまあ何かに使えるかもしれないので頂いても?」
「1年も使えば作れる程度だ。好きなだけ持って行ってもらって構わん。色んなパターンも作ったから100個はあるぞ。」
「さて、これでひと段落か? フェンガルも掌握し、ベルクートアブルへの足がかりもまずは1つといったところで、現状アクティブな問題は解決したか?」
「いえ、一つだけ懸念はあるのですが、あとはその方の正気がどれくらい残っているか次第ですわね。」
「というと?」
「ドップネスの方々があそこまで派手に動いていた理由でございます。対人類領へのガス抜きにしては度が過ぎております。自らの立場を危うくするほどに。」
「何か理由があると?」
「何もなく暴れるような無能が高位には居ないでしょう?」
「ふうむ。」
ライネイは記憶をたどる。
「昔は穏健派だったが、ある時を境に急進派になっていた気がしますな。ただ貴族というものは身内のマイナスを表には出しません。」
「逆に言うとそれが原因ということでは?」
「有るとすれば、でしょうか。とりあえず取り急ぎゲーキに戻り対策を練りましょう。フェンガルを抑えて話が終わるのであればよいですが、少し嫌な気がします。」
「ゲーキで派手に動くほどフェンガルに自由意志があるとは思えない、ということですか?」
「方針だけで丸投げ、からめ手を使うほどの自由意思もなし、技術はそのせいかかなり高めですが、さっくりいうとそれだけでございます。」
「ドップネスの思惑が別にあると?」
「ゲーキの方々は嘘をつくことが出来ないと聞いています。心の揺らぎが見えると。」
「うむ、ドップネスと対峙したが、全く感じはしなかったが‥‥。」
「力の差が強いとより分かりやすいとは聞いております。」
「そうですが。‥‥なるほど?」
「その通りです。私が今一番心配しているのは、王族すら欺くことが出来るほど強力な魔力を持っている可能性があるドップネスの思惑とその弱点でございます。」