3_2 悪役令嬢達と正義のミカタ
「此方が研究所、でございましょうか?」
無数の煙突から煙が立ち上る怪しいビルの前で首をひねるヴィル。
「ゲーキの建物とは勝手が異なりすぎますので何とも、とりあえず警備員は居るようなので、それに聞いてみますか。」
ライネイは入口付近で立っている男に近づいていく。
「もし、ここは研究所で有っているか?」
「違います!」
ライネイに目を合わせずきっぱりと言い切る男。
「‥‥違うそうだよ。」
レンツは首をすくめる。
「研究所が何処にあるか知っているか?」
「知りません!」
「‥‥レンツ様。」
「‥‥あー、えっと、君は何者?」
「警備員です!」
「ちなみにここは何て言う場所?」
「王立第一研究所です!」
「研究所ではないか!!」
「違います! 王立第一研究所です!」
「何となくルールが分かってきました。」
ヴィルはふうとため息をつく。
「此方の研究内容についてあなたは知識を持っていますか?」
「何やら障壁に係るものを研究しているとだけ知っております!」
「中に入ることは可能ですか?」
「関係者以外は不可能です!」
「関係者の定義は?」
「‥‥。」
急に首をひねる男。
「厳密なる定義は御座いません。」
「そんなことあるか?」
「古いままアップデートされていないのでまともな関係者が居なくなっているのかもしれませんが‥‥。さて。」
ヴィルは思案する。
「では私が定義いたします。現行の定義に加え、我々3人です。」
「‥‥ふむ、承知いたしました。ではどうぞ。」
男が手を振るうと、何もなかった壁に扉が浮かび上がる。
「そんなのでいいのか?」
「バックドアみたいなものでございましょう。‥‥はて。」
ヴィルはライネイとレンツを付き飛ばす。
「な!?」
その瞬間、爆音とともに今までいた場所に大きなクレーターが出来た。
パラパラ舞い散る石や土煙の中から現れたのは、真っ黒のマスクにマントの変質者。
「何者だ?」
レンツは剣を構える。
見た目はアホだが、その有する魔力は莫大である。
「ハハァ! 我こそは正義の味方、マスク・デュ・ミニユイ! そしてお前らは不法侵入者、即ち悪!」
ビシィ!と指をさして高笑いを上げる。
「フェンガルの正義は我が守る! この千年悪が居なかったのでヒマだったが、貴様らが現れた! よくぞ初撃を躱した! 貴様ら下級戦闘員ではないな!?」
「我々は悪なのでしょうか?」
ヴィルはライネイに尋ねる。
「まあやっていることは不法入国からの洗脳みたいなものだから悪と言えばかなり悪ですな。」
ううむと唸るライネイ。
「ということで、悪!即!拳!」
音を超えた速度でライネイに殴りかかるマスクマン。
「ぬっ!」
ライネイは拳にまとわせたバリアでそれを弾くが、衝撃波で合間の地面が一直線に吹き飛ぶ。
「ほう! 我が正義の中パンチを受け止めるとは、貴様、上級戦闘員か!」
「話にならん。上級も下級もあるか! ウィンドネイル!」
ライネイから巨大な風の爪が巻き起こり、マスクマンに襲い掛かる。
「正義のパリィ!」
謎の肘うちみたいなものでかき消した。
「はぁ? 物理的ではなくて、魔術的に打ち消しているな‥‥わけのわからん技を‥‥。ストーンカノン!」
巨大な岩が打ち出されるが
「正義のパリィ!」
謎の肘うちで消滅する。
「なぜ消える!?」
「魔術的な中和作用があるようですわね。」
「悪の力は正義のパリィで消滅する! 当然の話だ。食らえ! 正義の1ゲージ必殺技!」
マスクマンは、軽くジャンプすると、空中から謎の光線を放つ。
「斬悪ビーム!」
「一々名前がダサい。」
レンツは光線に以前スカイドラゴンを屠った斬撃の小さいVerを当てて反らす。
光線はビルを幾つか巻き込んであらぬ方向で爆発を起こした。
「ぬうっ! 貴様も上級戦闘員か。これは我もほんkg!」
マスクマンが喋っている最中にヴィルが背後から忍び寄り、後頭部に魔力を込めた拳をめり込ませる。
ドゴォとえげつない音を立ててマスクマンは向かいのビルにめり込んだ。
「まともに相手をするだけ無駄な気が致します。」
ガラガラと崩れるビルを見てため息をつくヴィル。
「そりゃそうだけども。」
「身もふたもない話‥‥いや、あれでまだ生きているだと‥‥。」
ライネイの視線の先には、崩れ落ちたビルの瓦礫の下から這い出てくるマスクマン。
「なるほどなるほど。貴様らが上級戦闘員で、お前がボスだったか! この千年で戦ったどの悪よりも強い力を持っているな貴様! なるほど! 貴様が黒幕か! ハアッ!」
マスクマンが気合を入れると謎の爆発が起き、ビルが更地になる。
「ならば私も本気を出さねばならぬ! 正義の力、今ここに! マスク・デュ・ミニユイ改め、真・マスク・デュ・ソレイユ!」
黒いマスクを剥ぐと、下からは真っ赤なマスクが現れた。
「なんか魔力増えてない?」
「ノリで増えるタイプか。面倒くさい。」
「食らえ! ソレイユの嘆き!」
何もない空間に鉄山靠を叩きこむ。
「レンツ! 守れ!」
ライネイの叫びを聞いて、目の前にバリアを展開するが、バリアごと吹き飛ばされる二人。
「ぐおっ!」
それを空中でキャッチするヴィル。
「骨まで響いたコレ‥‥!」
レンツは鼻血を出しながらむせる。
「空間自体で攻撃をするとは。」
「ヴィルさんがスカイドラゴンにやったようなやつ?」
「似たようなものですわね。もう少しお手軽のようですが。」
「ぬぬう! 悪のボス! 貴様にはまだ届かぬか! 何という力! それでこそ我が生涯のライバル!」
「いつの間に?」
「今でしょう。」