2_57 悪役令嬢一味とオマケ フェンガルへ
そうこうしている間にドップネス領にフェンガルが現れる日となった。
「基本的に形代を用意して、召喚のための魔力を注ぎます。すると恐らく向こうの良いタイミングでそちらに乗り移る、といったシステムのようです。」
ライネイはそういう。
「魔力量もバカにはならんのですが、そういったシステムになっております。この100年くらいはそういう感じですね。此方に来るフェンガルも代替わりはしているので恐らく寿命は同程度なのではないかと思います。」
「なるほどー。」
「しかし何時頃になったら来られるのでしょうか。少々眠くなってまいりました。」
現在3人は隠蔽魔法でドップネスの屋敷の中にこっそりと侵入している。
流石に国王が出張ると内紛になるし、レム達では足手まといにしかならないからである。
暫くやることがなかったのでしりとりなどしつつのんびりと過ごしていると、突然形代が光を帯びだした。
慌てて従者がドップネスを呼びに走りに出る。
「ふむ、何となくあそこら辺から歪みを感じますわね。」
ヴィルは手をかざす。
「ヴィルヘルミーナ殿?」
「捕まえた。」
ヴィルがぐっと手を握ると半透明の何かが虚空から現れた。
『異常事態。前例のない状態。』
半透明の何かは空中でもどろうとウゴウゴする。
「どうするの?」
「取りあえず封じておきましょうか。」
『厳重に抗議。』
クリスタルのように透明な小さな個体に変わる。
「隷属も一応つけておきますわね。」
『上司の変更を受諾。』
「中々素直でかわいく見えてきたけど、何となくうすら寒いことをしている気が‥‥。」
と、ドヤドヤとドップネスが現れた。
「お待たせしま‥‥、ん? おい、まだではないか。形代のままだぞ?」
「え!? 先ほどの魔力はいつも通りのでございました! 皆様も感じられたですよね?」
使用人の主張に全員渋い顔をする。
「まあ、そんな気もしたが、実際まだのようだし、疲れてるんだろ?」
優しくポンと肩をたたかれる使用人。
「まあ、また来たら呼んでくれ。わしは寝不足なので仮眠をとってくる。」
ドップネスは手を上げて去っていった。
「なんか良い人っぽくない?」
レンツの発言に渋い顔をするライネイ。
「まあ、元々そんな深謀遠慮って感じではなかったが‥‥。」
『否。』
ライネイのフォローをぶった切るフェンガル?のクリスタル。
「悪い人なんでございますか?」
『我々は魔に属するもの。』
「魔王側だから良いやつじゃないよってこと?」
『その通り。』
「素直過ぎないかコレ。」
ライネイは白目になる。
「あなたたちは人類領に攻撃をしているのですが、その理由はなんですか?」
『主の望みのため。』
「理由は聞いてないのですか?」
『我等は判断する者ではないがゆえに。』
「いまいち会話のキャッチボールが出来ないねコレ。」
「私達がフェンガルに行くことはできますか?」
『‥‥汝の力が有れば可能。ただし失敗すれば世界の3割は消える。時空を歪ませるための魔力は膨大で繊細である。安定したルートを確保するのであれば献上されたクリスタルの1万倍が必要。』
「此方の接触したフェンガルは一兆倍と言っていたが、一万倍でよいのか?」
『一兆倍は不要。恐らく別のことに使うのではないか?』
「私なら出来るでしょうか?」
ヴィルはフェンガルクリスタルに尋ねる。
『力だけであれば恐らくは‥‥。何者?』
「ベルクートアブルのヴィルヘルミーナでございます。」
『堕ちた神か‥‥、なるほど。』
「堕ちた?」
『そう言われている。詳しくは知らぬ。』
「次から次へと思わせぶりな単語を増やしおって‥‥。」
ライネイはピキピキ青筋を立てる。
『所詮私は使い走りの慣れの果てだ。』
「まあ、上司に聞けばよろしいのでしょう。」
ヴィルは手を空に掲げる。
「3割吹っ飛ぶから注意してね。」
「失念しておりました。丁寧に行きましょう。」
目を閉じて空中に手を伸ばすヴィル。
「‥‥、見つけました。」
両手に魔力を漲らせて、ぐっと左右に開くと、目の前の空間が割れた
『おお‥‥、私の肉体が見える。』
そこには此方と大差のない屋敷の一室と、ぐったりしている若い男が居た。
「揺らいでおりますので固定してしまいましょう。」
ヴィルは割けめをぐっぐっと押さえる。
「それで固定されるの?」
「恐らくは。」
と、そこに
「バカみたいな魔力だと思ったら、ライネイ、貴様何をしている!?」
ドップネスが顔を真っ赤にして現れた。
「あれ、ヴィルさん。」
「世界割いたと同時にそれも裂けてしまっていたようでございます。」
「こうなってはやむなし。失礼。」
ライネイはヴィルとレンツを抱えて裂けめに逃げ込む。
「おい! なんでうちの屋敷の空間が裂けて、おい! ライネイ!!」
「なんかむっちゃ怒ってるよ?」
「さもありなん。」