10 悪役令嬢メイクアップ
「どうかなどうかな? かわいい??」
くるくると目の前で天使が舞い降りております。ここはヴァルハラでしょうか。私はいつのまに心臓が止まったのでしょう。
「私の卑小な語彙力では可愛い以外の表現が全く思いつきませんわ。あえて言うならそう美の神ミューズも裸足逃げ去る如くと言わんばかりかと」
「ヴィルもかわいいよ!」
「尊い。」
「コントはもう終わった? こっちも支払い終わったよ。」
最近レンツ様の扱いが雑な気がしております。
お久しぶりでございます。宝石姫が2次元から3次元に顕現した瞬間を目の当たりにして涙が止まらない元公爵令嬢ヴィルでございます。
とはいえ1日2日でドレスができるわけでもなく現在は仮縫いの状態でございます。
それでもなお、この小さく可愛らしい何かよくわからない物体はとても可愛らしくてとても可愛らしい感じでございます。
「おーいヴィルさん落ち着いた?そろそろ正気に戻ってくれる?」
「大変申し訳ございませんでしたおそらくこれは何かしら魅了の魔物が近くにいるではないかと愚考しております。」
「まだだめみたいだね。あ、アイアン様、とても良い出来でお嬢様もこのように非常に満足されている様子です。」
呼ばれたアイアンさんは静かにお嬢様を見て何かしら考えていらっしゃるようです。
「いえ、私こそ気づかされることが多数ありましてとてもこの度は勉強になりました。つきましては今後私のことをアイアンではなくリューズとお呼び頂ければと思います。」
旦那様に以前聞いたところではアイアン様は非常にプライドが高くそのアイアンという名前に誇りを持ちというふうにお伺いはしていたのですが、今は何やら憑き物が取れたようにスッキリとした顔をされております。
プライドが高いと言うよりはもはや普通に丁寧な方にしか見えませんわね。
「そしていろいろな気づきのお礼と言ってはなんなのですが、ヴィル様に私からもドレスを一着仕立てさせていただけませんでしょうか。もちろんお代は結構です。」
はて、なにか致しましたでしょうか。
「ええと、正直私、服というものは腰蓑しかもち合わせがないので服をいただければ非常にありがたい話ではあるのですが、そのような高価なものを頂いてしまうとなにやら心苦しいというか座りのの悪い気持ちでいっぱいでございます。」
前世では献上品を持ってくるような商人などは多数いたのですが概ねよからぬ下心満載だった思い出がございます。現常の立場からするとかなりの高額と推察されますのであまり借りを作るのは得策ではないきがしますわ。
「こ‥‥‥こし‥‥???」
リューズ様があんぐり口を開けておられます。お嬢様の美しい姿で驚かされたのでこちらも驚かし返して引き分けといったところでしょうか。
ふっふっふと笑っていると横からツッコミが入ります。
「‥‥原始時代からやってきたって本当だったんだね。」
レンツ様が温かい目でこちらを見てきます。
「あながち否定もしきれないというところが難しいところではございますが。」
あの世はとてもシンプルである意味原始的と言えるでしょうか。
ふうとため息をつく。
しかしこちらをじっと見つめてくるリューズ様を無碍にするのもあまり良くないでしょう。
「‥‥ですが、殿方のお気持ちを無碍にするのもはばかられますわね。この度は私に貸一つということでお願いしてもよろしいかしら?」
「貸しなんてとんでもございません!」
面倒くさい男ですわね
「では今後ともよろしくという程度にしておきましょう。なにかご用事などありましたらハノイ様にお伺いすることにはなりますがお力になると約束させていただきます。」
無理やりまとめて大団円にしましょう。
美しい礼をする詐欺師を胡散臭い目で見るレンツ少年であった。
「まあまあなんという事でしょう! マネキン以外では不可能だと思っていたドレスがそのまま入ります!」
「こ‥‥これは表に出していいのか‥‥? 国が傾くのでは‥‥?」
針子の女性がわなわなしながらヒソヒソ相談しているようです。私の体型はあまり一般的ではないようです。とはいえオーダーメイド以外の服を着たことがないのでよくわからないのですが。
「進捗はどう‥‥‥」「アイアン様!だめです!今入ると目が潰れます!」「あと鼻血が止まらないのでもう少し早く綿を下さい!」「どういう状況なの?(レンツ君)」「おひめさまあああ!!(リア様)」
阿鼻叫喚ですわね。前世のお針子も数年かけて慣れたと聞いております。
「と、ということで完成いたしましたら届けさせていただきまふ。」
それでもダメージのあったらしきリューズ様は両の鼻に綿をツッコミながら丁寧に礼をされます。
「なんでドレス作るのにこんな大騒ぎになってるんだろう。」
担架で運ばれていくお針子さんを眺めながらつぶやくレンツ少年。
「のどかな村で、私ここも気に入りました。」
「のどかってなんだっけ」
「ねえねえ!つぎどこいく?」
リア様はまだ元気そうですが、ここで油断すると急にぐっすりお休みになられます。ペース配分などないのが子供の美徳ですわね。
「もうそろそろ日の入りでしょう。宿に向かいつつ面白そうなものがあればよる形にいたしましょうか。」
「さんせい! かいぐいってやつ??」
「衛生観念が問題なさそうでしたらそれもありかもしれませんわね。お父様にはないしょですよ?」
口にゆびをあてる
「うん!しいー、ね!」
「なるほど。のどかってこういう事か。」
レンツ少年はしみじみされておられます。苦労の多い分老成されているのでしょうか。