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2_53 悪役令嬢とゲーキの王

玉座の間の前には巨大な剣を構える巨人が二人。4mくらいはありそうである。

「客人を通す、面会予定は通っているか?」

ライネイの言葉に巨人は静かに頷き、大きな扉を開く。

「すごい強そう。」

レンツはしげしげと眺める。

「王を守る場所だからな。騎士団の中でも上位の者が守っている。」

「凄いねぇ。」

「よそ見をするな、王の前だぞ。」

レムは小声でレンツを小突く。

「ごめんごめん。」


豪奢な絨毯を歩くと、玉座にニコニコしている男が一人座っていた。

「ようこそ、神々の国から来られた方よ。」

「お初にお目にかかります、ヴィルヘルミーナ・ローゼンアイアンメイデンでございます。」

「うむ、ゲーキの王、ウィリアム・カンタベリーだ。ライネイ侯爵も元気そうで何よりだ。」

「はっ。不躾ながら人類領での不審な動きについてご相談できればと思い、ヴィルヘルミーナ様を伴ってまいりました。

「うむ、だが、不要だ。」

きっぱりと言うウィリアムに眉を顰める一行。

「不要とは‥‥?」

「いや、不要ではないな。うむ、ああ、これは困った。」

ギクシャクした動きをするウィリアム。

「ヴィルさん。」

「お任せくださいませ。隔絶。」

ヴィルが指を鳴らすと、謁見の間は半透明な球に囲まれた。

「これは‥‥!?」

「外部と光以外の全てを隔絶する空間でございます。ウィリアム様、ご気分はどうですか?」

パチパチと目をしばたたかせたウィリアムは、はぁーと大きなため息をつく。

「気分は最悪だ。」

「それは何より。」

「ヴィルさん!?」

「ああ、良い。初めて自覚する自由というものにおいて過去に対する感想だ。」

ウィリアムは首を指でつつくと、淡い光が漏れ出した。

「隷属の呪い‥‥!?」

レムはわなわなする。

「人類領に行って来た事がフェンガルに高く評価されたということだな。うれしくて涙も出ないぞ。」

ウィリアムは憎々しげに吐き捨てる。

「取りあえず上書き致しましょう。」

ヴィルが手をかざすと、ふわっと光が放たれ、色が黒色に変わる。

「ふむ、二重の隷属により、相反する答えに窮して誤作動を起こしていたようでございますわね。」

「その通りだ。知っての通りフェンガルの2種類から同時に呪われていた。」

「ベルクートアブルを神と抱き、世界を滅ぼそうとする急進派と、それに対する穏健派でございますか?」

ライネイは尋ねる。

「詳しいな。概ねそのような所だ。」

「何故世界を滅ぼそうとするのですか?」

レムは尋ねる。

なにせ人類領の世話を任されたのに結局は滅ぼすとか言われると正直仕事してきた意味が分からない。

「どこまで本当かは分からないが、増え続ける魔力による人類の脅威化を防ぐために根底から滅ぼそうというのが急進派の考え方だそうだ。ようは人魔大戦を二度と起こさないようにするためだな。」

「そんな‥‥!?」

「ああ、その通り。だが事は重大だ。弱い魔力を持つ者は影響が少ないが、強い魔力を持つ者にとっては笑いごとでは済まない。私は魔王だが、魔王ではないのだよ。それが一番の懸念事項だ。」

その発言にゲーキの面々は息をのむ。

「それはどういうことなのでしょうか?」

「この世界には魔王が存在する。勇者は人類側に発生しているのだろう? 魔王もまた存在する。ただ人類側のような乱造される勇者と異なり、魔王は魔王の魂を持つ。魔力に呼応して、強大な力を振るい、そして、耐え難い破壊衝動を持つ。」

「‥‥魔王ではないという話につながるのですね?」

「その通りだ。代々国王は魔王の力を持っていた。というより王族レベルの強大な魔力を持つ者に代々宿る力と考えても間違いではない。古い時代は分家から生まれたこともあったようだが、代々魔王の力を受け継いで行く結果王族以外では生まれなくなってきていた。先々代の時までは。」

「それが秘密事項の一つでございますわね?」

ヴィルの質問にライネイは静かに頷く。

「今まで平和だったのは、薄れる魔力により魔王自体の破壊衝動が抑えられていた事、また和平を選んだ当時の王がかなりの穏健派であったこと等が原因だ。だが、当時の王はかなりの心配性で、万が一でも人類に被害を出すことを危惧し、このように海の真ん中で過ごすように決めた。当時の王は歴代でも魔術に長けており、現在までその力でゲーキは存続している。」

「千年以上も持つ魔法って‥‥凄い‥‥。」

「それだけ思いが強かったのだろう。色々な噂があるが、結局何が原因かは今となっては分からず仕舞いだ。だが、それでもその願いをかなえるため我々は千年ものあいだこの島でひっそりと生きてきたのだ。時々は人類にテコ入れはしていたがな。」

「殺し合いをし続けていたとは思えないほどの違いですわね。」

「その通り。殺し合いも結局は魔王の力の一端だ。魔王の持つ破壊衝動は周りの魔力持ちにも伝播する。その結果が永遠と続く殺し合いだったわけだ。だが、魔力が薄れるにつれてその呪いからも解放されていた。」

「なるほど。つまりこの百年や二百年における魔力増加が原因の一つだったわけですわね。」

「その通り。増え続ける破壊衝動に自我が失われたのが先々代の魔王だった。そしてそれを打ち取ったのもその魔王の弟だった。そして自らを生きたまま封印するつもりだったはずが、一つだけ予定外のことが起こった。それがフェンガルだ。」

「今までの歴史にフェンガルもベルクートアブルも出てこない事にかかわりがあるのですか?」

「それもある。先ず魔王との戦いは熾烈を極めた。本来北にはもう少し土地があったのだが、魔力砲によって魔王とともに吹き飛んだ。そしてその余波でフェンガルのバリアに小さな穴が開いたらしい。」

「フェンガルはゲーキのように自ら封印されていたわけではないのですか?」

「いや、自ら封印されていたようだが、出ることは叶わなかったようだ。手を変え品を変え聞いてみたが詳しい話は分からずじまいだ。だが、フェンガルが地上から消えたのは万単位も昔の話のようだった。そして小さな穴が開き、それから此方とやり取りをし出したのだが、ある時から先ほどの急進派と穏健派に分かれたようだった。そして恐らくは魔王の力はいまフェンガルに有る。」

「急進派の思想と合致すること、ゲーキ最強の国王様に魔王の衝動が無いことから、ということでございましょうか。」

「その通りだ。」


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