2_52 悪役令嬢 登城なう
「国王陛下から面会の許可をもぎ取ってきた。かなり重要な案件であることと、フェンガルに準ずるものが現れたためその紹介としています。」
「準ずる‥‥。」
レムは渋い顔をする。
準じているのは実際問題フェンガルではなかろうかという疑問であった。
「まあ、いきなり1から100まで言ったところで私の頭がいかれたと思われて終わりだろう。 本当ではないが嘘ではない ギリギリのラインといったところであろう。 ヴィルヘルミーナ様には失礼な扱いにはなってしまうがご容赦いただけませんか?」
「私は物事が進むのであれば多少の問題は気に致しません。」
「これが強者の余裕か‥‥。」
ウロウは渋い顔をする。
「今回は例外的な話なので、普通にわしらにやると不敬罪で首が飛ぶからお前らはやめとけ。」
レムとウロウはライネイの言葉に静かに頷く。
「レンツ殿も同行される形でよいか?」
「一応ヴィルさんの傭兵として来てはいるのでそれでおねがいします。守る相手のほうが強いのがアレですががんばります。」
「うむ、では王城に参りましょう。ウィリアム・カンタベリー陛下がお待ちです。」
バイコーンが引く馬車に乗って王城に向かうさなか、街並みを見る一行。
「魔獣がそこかしらに居ること以外はアステアラカとそこまで差は無いのですね。」
「あとは魔道連絡網のような高容量の魔力を使うものの差位でしょうか。増え続ける魔力に応じてそういうものが発達してきましたが、逆に言いますと低魔力で不便なものはアステアラカに払下げしているようなものです。」
「なるほど。技術供与がローコストで出来て、Win-Winということですわね。」
理由不明の技術供与の裏側は色々ゲスい話だったようである。
「土地は限られていますのでゴミ問題もありますし、リサイクルにも手間がかかりますので使えるところが使うのが良いとの話にはなりました。」
「ふむ、上下関係はあるにしろ、搾取というような関係ではないのですね。」
「親子が近いとは思います。人類が過度な魔力を持つと魔族に変わることも御座いますので、幼生体という学者もいますね。」
「うーん、じゃあなんで昔そんな戦争してたんだろう?」
「‥‥、表向きは色々申す人間が居ますが、裏の事情に関しては守秘義務があり、私には答えることは不可能です。知る人間に聞くのが良いかと。」
ライネイは静かに首を振る。
ライネイで無理ということは、国王に聞いてみてはと言っているのか。
「おおー、凄い。むっちゃくちゃでっかい‥‥!」
キラキラ光る白亜の巨城を前にレンツは感動していた。
最近色々見過ぎで感性が摩耗してる気がしていたが、やっぱりすごいものはすごいなと再確認である。
「ゲーキの技術の粋を集めた城だ。害意のあるものは入れなくなっている。」
「え、じゃあ大丈夫??」
「私達は別に害をもたらそうというつもりはございません。結果的に害になる可能性は否定は出来ませんが‥‥、あらゆる物事はそういったものでございましょう。」
「ものすごい詭弁じゃない?」
「グレーゾーンといったものでございます。」
ヴィルは入口のキラキラしているところに手を入れたり出したりする。
「ね? 大丈夫でしょう?」
「弾かれはしてないけれど、なんか奥の方でピカピカしてない?」
「ううむ、未登録の高魔力を持つ者が来ると反応するのかもしれやぬな。このシステム自体かなり昔の物なので私も詳しくはないのだ。」
ライネイは首をひねる。
「敵意があるものが来ると排除されるとは聞いてはいるが、そもそもそんな者など‥‥この暫くは現れてはおらん。」
ヴィルがちらっとライネイを見る。
ライネイは ふぅ、とため息をつく。
「話はまとめた方がよいでしょう。では参りましょう。」
ライネイに続いてぞろぞろと入場する不審な一行。
侯爵を先頭に、男爵、子爵と、素性不明の2名という小編成である。
門をくぐると、巨大な庭が左右に広がっている。噴水があり、生垣がありというオーソドックスだがとてもよく整備された庭園である。
ピクシーのような小さな妖精や、髭もじゃのドワーフのような多種多様な生物が手入れをしている。
「長閑ですわね。」
「先代の国王の時代からは融和政策といいますか、積極的に色んな種を取り入れようという方針になっています。」
「それ以前はそうでもなかったのですか?」
「まあ‥‥。」
「それもまた秘密の一つ、ということですわね。」
「その通りです。現在がゲーキにとっては一番平和な時期なのではないでしょうか。」
「千年の間独自路線をと聞いておりましたので平和な時期が続いていたのだと思っておりました。」
「概ねはその通りです。しかし業というものは逃れようのないものです。」
「それが人類と魔族の違いですか?」
「そうです。」
ライネイは渋い顔をする。
「魔力が強いということは、魔に魅かれやすいということです。差し出口だとは思いますが、重々ご用心を。」
ライネイはヴィルを見る。
「心にとどめておきますわ。レンツ様は今のところ大丈夫ですか?」
「増えていく魔力が楽しくて、力を振るうことにためらいが無くなってる気がするね確かに。気を引き締めないと。」
レンツはパンパンと顔をたたく。
「力とは振るうために存在するという考え方もあります。他人が出来ぬ事をなすために振るう力に喜びを覚えるのは生きていく上では健全です。自身の力を自身が認めないまま成長すると何処かで認知のゆがみが出ることが多いです。」
ライネイはそう言う。
「持てる者は持たざる者へのリップサービスとして卑下することは全く誤っているとは言いませんが、事実に目を伏せることは誰の成長にもつながりはしません。」
「どちらかといえば為政者側の立場の人間が無理に庇護される側に寄り添っても無理が出るという話でございましょうか。」
「ありていに言うとそういうことですな。お互いの立場を正しく認識することが一番です。」
「良いお言葉ですわね。私のお父様にも聞かせたいところでございます。」
「ヴィルヘルミーナ様がご実家に戻られた際は一度ご挨拶に参ってもよろしいでしょうか?」
「よくよく言いつけておけば問題ないと思いますわ。」
「言いつけないと問題が出るの?」
レンツはジト目でヴィルを見る。
「9割がた命がない可能性が。」
「‥‥ベルクートアブルに観光に行くときは屋敷以外でご飯でも食べようね。」
「言いつけておけばレンツ様でしたら大丈夫だとは思いますが‥‥。」
等たわいのない話をしていると、玉座の間に到着した。