2_51 悪役令嬢達と背景への考察
「やはり良いベッドで寝ると朝はすっきりですね。どうも心がささくれ立っていたのが今は穏やかな気持ちでございます。」
「本当に?」
じーっとレンツ様は此方を見てこられます。
「‥‥実際はやや昔のテンションが近い気が致します。大気中の魔力が増えるとそうなるのかも致しません。どうもそわそわするといいますか。」
「確かに、ナーラックとか、アステアラカよりゲーキのほうが濃度が高い気がするね。昔って悪役令嬢とか言われてたんだっけ?」
「さようでございますね。あの頃は平和に生きて行こうとは思っていたのですが、羽虫が次から次へと湧きまして‥‥。」
「ああー‥‥、ヴィルさんなんだかんだで最終的にめんどくさがり屋だもんね。」
「簡単に解決できる手段があると使ってしまうのは人の性と申しますか。あとは身内と他人の境界がかなり明瞭な気がしております。」
「そうだねえ。まあとりあえず出来る限り穏便目指そう。向こうの出方も全くわからないことだし。」
「そうでございますね。潜んで襲い掛かって隷属の呪いを当てるという、ちょっとしたテロ行為な気が致しますが。」
「まあ、違法入国してる時点で今更というか。」
「確かに。」
時はさかのぼって前日深夜。
レムとウロウ、そしてライネイは3人で作戦会議をしていた。
「いやはや、まさか力技でゲーキにたどり着くとは‥‥。いや、聞いていた話だとそれくらいは余裕でする力はあるのは分かっていたが‥‥。」
ライネイはワインを口にしながら難しい顔をする。
レムとウロウはチーズを嚙みながら渋い顔のまま言葉を出せないでいる。
色々と事件が起きたせいで最近ライネイと良く一緒に行動しているが、そもそも立場が天と地である。
「ベルクートアブルか‥‥。フェンガルですら手が届かないのに、その上か‥‥。」
「ライネイ様はベルクートアブルについてご存じなのですか?」
「お前らと同じで名前程度しか知らんな。ただ、昔フェンガルの奴が、憧憬? のようなものがあるとか言っていたような‥‥。であれば奴らが自身を亜神というのであれば、ベルクートアブルはまさしく神の国なのであろう。集めた情報によると、操られたスカイドラゴンの群れはヴィルヘルミーナ様が手を握った瞬間、空間ごと押しつぶされたらしいぞ。まさに神の力ではないか?」
「ヴィルヘルミーナ様ならそれくらいやってのけても不思議ではないです。それよりも、操ったものは‥‥?」
ライネイは無茶苦茶だと一笑に付そうか悩むほどの情報だと思っていたが、レムにとってはそうでないと知り少し考えを改めた。
「エプラスに居るようだが詳しくはわからん。ドップネスには苦情を送っているが知らぬ存ぜぬとのらりくらりだ。証拠が無いからな。ただ人類側の話とはいえかなりの大事だ。貴重な魔道連絡網も一部破壊されているようだしな。」
「なんと‥‥。」
「一番気持ちが悪いのが目的が分からないことだ。人類側をかき回して何がある?」
「あのクリスタル関連でしょうか? フェンガルもかなり重視しているみたいですし。」
「戦争を起こす理由にはならんな。戦争を起こす理由が無さすぎるんだ。」
ライネイは眉間を親指で押さえながらため息をつく。
「‥‥戦争を起こすのが目的なのでしょうか?」
「ヴィルヘルミーナ殿が仰っていた急進派か?」
「それ以外には私には思いつきません。人類自体を滅ぼすつもりなら問題ないでしょう。滅ぼす目的があまりはっきりしませんが、クリスタルの魔力を貯める力、そして一兆倍という無茶苦茶な数字、否定は出来ない話かと。」
「だが急進派と穏健派が居るのだろう? 向こう側が急進派なのであれば、此方のフェンガルはクリスタルを何に使う目的なのだ?」
「仮定の話ですが、向こう側だけではなんともしがたい問題があり、それに対して使用する予定なのだとすれば、強大な魔力で出来る何かしら、ってことだと思いますが、長々言いましたが何にもわかりませんよね‥‥。」
「まあ、現在不確定要素が多すぎて推定も困難だな。取りあえずは国王の返事待ちだ。」
「隷属の呪いが王にかかっている可能性についてはどう思われます?」
「あり得る話だろう。我らが既にやっているのだ。フェンガルがやっていない可能性は無いだろう。ただ我々は完全なる平和という目的があるが、フェンガルがゲーキを管理する目的が分からない。」
「不可侵の存在、と、されておりますが‥‥。」
ウロウは言外に、危害を加えることについての逡巡を示す。
「我々がどうこうするものでもない。自然災害に小さき生命体ができること等多くはなかろう。ましてや神々の話だ。分不相応というものだ。なまじ魔力が強いからこそフェンガルの人や、ヴィルヘルミーナ様への恐怖というものの解像度が高くなるのだよ。」
「神々の国へ行けると思いますか?」
レムはそう尋ねる。
「有るのであれば行けるのはそうであろう。今すぐ行けるかはわからんがな。存在しているのであれば手段は存在していよう。我々がその手段を選べるかどうかは置いておいて。」
「今のところ知覚は出来てるのですか?」
ライネイは指を上に向ける。
「空に有る。」
「え!? 場所がもうわかってるんですか!?」
「有るが、行けない。空間がゆがんでたどりつけないのだ。上空にかなり広い範囲で歪みが存在していた。そこが可能性が高い、とは言われている。知覚は出来んがな。ただ空間がそこだけ切り取られているらしい。光の進み方が異なっていたとのことだ。」
「空間に作用する術式ですか‥‥、聞いたことは‥‥。」
「あるぞ。」
「え!?」
ライネイの言葉に驚く二人。
「魔法研究局曰く、ヴィルヘルミーナ様がスカイドラゴンを屠ったのは空間魔法の可能性が高いそうだ。ただ状況証拠でしかはないが。」
「ヴィルヘルミーナ様であればフェンガルにたどり着く事が可能‥‥と?」
「そうだ。ただ悪戯に不法侵入すると怒りを買う可能性しかない。まずは国王との話し合い、そしてドップネス側のフェンガルとの折衝だ。それが難しいのであればフェンガルとの戦争も考えなければならない時期が来ているかもしれない。」