2_48 悪役令嬢 力の片鱗
「という感じで、此方に来たわけなんですけど、丁度フェンガルの人とは入れ違いだったみたいで。」
レンツ様ははぁとため息をつかれます。
現在ライネイ様の邸宅にて昼食を取りながら方針相談中でございます。
メンバーはライネイ様とレム様、ウロウ様、そして此方2人でございます。
「例のクリスタルは我々は噂程度しか聞いていないからな。恐らくドップネス・ダーロット侯爵側だろう。エプラスの後ろに居るのも奴らですからな。」
確たる証拠は無いが、状況証拠は大量ということのようです。
「フェンガルの方々が次いらっしゃるのはいつ頃なのでしょう?」
「いつも此方に現れる前に連絡があります。城の庭に現れることが多いようです。そのため城の土塊を依り代としているためか最後に土塊の掃除をせねばならぬが悩みの種ではあるのですが‥‥。」
「フェンガル自体は肉体が通れる場所にないということなのでしょうか?」
「恐らくはそうなのでしょう。魔力が通る程度の隙間があると考えるのが妥当でしょう。」
ライネイは顎を撫でながら思案する。
「次回が何時になるかは分かりませんが、平均的には1月程度です。ただ、ドップネスの方にも別のフェンガルの方々が現れています。其方はもう少しすれば来ると言っていた気がします。」
「そちらの方を捕まえるのが早そうでございますわね。」
「下手を打てばフェンガルとの戦争になりますぞ?」
ライネイ様は此方を見てこられます。
「既に戦争は起きております。ゲーキの侯爵レベルが把握していないのであれば放置しておくのは得策ではないとは思いませんこと? まず間違いなく反逆者でございます。何故なら公的な話であれば秘匿する理由が御座いません。」
「なるほど。ウロウ。」
「はっ、面会室の予約は3日後、ドップネス名義で提出されております。」
ウロウは手元のメモを見ながらそう伝える。
「では3日後が勝負というところか。どうされるつもりですか?」
ライネイはじっと目を見てこられます。
「申し訳ないですが隷属の呪いで魂から縛ってしまいましょう。此方のフェンガルの方は分かりませんが、向こう側のフェンガルの方はほぼ黒でしょう。時間も御座いませんので疑わしきは罰させて頂きます。」
全員無言になられております。
「隷属の呪いは意識がある状態では魔力の差が大量に必要になりますが‥‥」
「フェンガル自体に殴りこむつもりだから、そこの段階で無理ならどちらにしろ無理だろうし、まあ、ヴィルさんだから。」
「勝算はあるのですな?」
ライネイ様の質問に頷いて返します。
「ゲーキでも一部の人間しか知らぬこと、ゲーキの王たる者は知っているのですか?」
「分からない。知っているという話を聞いていないというのが私の知るすべてだ。」
ライネイ様は首を振られます。
「国王様にお話を聞く必要がありますわね。」
「ヴィル殿!?」
レム様は驚かれております
「メトスレ様のように後手に回るわけには行きません。メトスレ様はフェンガルから直接何かを聞いていらっしゃいました。であればゲーキで情報が回っていないのは似たような状況だと判断する方が自然でございましょう?」
「国王自体がが此方も傀儡化してる‥‥?」
ウロウ様は眉間にしわを寄せておられます。
「他人に行ったことが自分に行われない保証などございませんからね。」
「それはそうですな。」
ライネイ様は目をつぶって考えていらっしゃいます。
「明日面会出来ないか聞いてみましょう。無理そうでしたら恐らくは。」
ライネイ様と目があいます。
私は小さくうなずいておきました。
「申し訳ないですがヴィルヘルミーナ様。此方に最高品質のオリハルコンが御座います。此方にフェンガルの方が腰を抜かすほどの魔力を込めることは可能ですか?」
「面会状代わりでございましょうか?」
「その通りです。本来魔力を弾くオリハルコンですが、理論上は含有力自体は何よりも高く、安定している、との研究が出ております。我々では及びもつかない圧を加えると変性が可能と、理論上は。」
ライネイ様は青く光る小さなインゴットを目の前に差し出されます。
「綺麗でございますわね。」
「国宝級の1つですな。価値はこの屋敷以上です。」
「「ええ!?」」
全員驚いていらっしゃいます。
「ふむ、皆さま魔力障壁を出すことは可能ですか?」
「失礼ながら私がヴィルヘルミーナ様を覆う形でもよろしいか?」
ライネイ様はそう仰います。
「お願いいたします。レンツ様もライネイ様のサポートを。レム様とウロウ様もお願いいたします。なるべく外部にはもれぬようには致しますが。」
「ではお願いする。」
ライネイ様が手を掲げると、青白い半球で包まれました。恐らく地下にも続いているのでしょう。
それにレンツ様が手を掲げると、やや青黒い色に変わりました。レム様とウロウ様も動揺にされております。
「では、一つ力比べといたしましょう。」
オリハルコンを握り込み、魔力を上げていきます。
最初は高い音から、ギィィと金属がこすれるような音に変わりだします。
まだ周囲のバリアは大丈夫そうでございますね。
オリハルコンも未だ魔力を弾いております。流石に最高級品というだけは御座います。スカイドラゴンを一掃する量の魔力そのものではまだということでございましょう。
だんだん楽しくなってまいりました。
「ではもう少し。」
深く息を吐いて、もう少し集中致します。
ギィィという音からさらに低いウウゥゥンという音に変わり、可聴域を超えたのか聞こえなくなりました。その代わり黒いもやのようなものが立ち上がってまいりました。
一定以上超えた魔力が受肉のするようなものでございます。
ただ魔獣と異なり、核たる意識が存在いたしませんので、生まれては消えていくだけの靄のようなものでございます。
そのもや、が触れていた部分からオリハルコンは黒く色を変え始めます。
それと同時に周囲のバリアも小さく鳴動し始めます。
魔力以外の波がそのまま揺らしているようでございます。
ライネイ様は唇を嚙みながらバリアを維持してくださっている様子。ですがあまり長くは持たなそうでございます。
ですが、既にオリハルコンの色は変わりきっております。
「あとは仕上げだけでございます。皆さま宜しいですか?」
ライネイ様とレンツ様と目を合わせると、お二人とも真剣な表情で頷いてくださいました。
「では最後でございます。」
今の魔力の3倍程度の圧を一気に加えますと、カッと黒く光り、バリアの一部を吹き飛ばしましたが、なんとか屋敷の天井に穴が開いただけで済みました。
インゴットの形をしていたオリハルコンは、黒い薔薇を模した形に変わりました。なかなか美しいですわね。
その日、ゲーキの空を割るような黒い光を皆が目撃し、世界の終わりだと騒ぎになるのはまた後日の話。