2_46 悪役令嬢本拠地へ
ドマリクは走った。
必ず、あの超絶美人を待たせてはならぬと決意した。
ドマリクは御者のやり方が分からぬ。
ということで眠りこけている御者をたたき起こした。
「お前ら何寝てるんだ! 起きろ!!」
「ふえぇ!?」
馬車の上でぐったりしていた御者の男は揺さぶられて目を覚ました。
「うぐっ、急に起きたから胸が‥‥。」
「寝ぼけてるのか!?」
「いや、寝てたっていうか気絶した気が‥‥。」
「誤差だろ!」
「何をそんなにテンパってるんだ? ドマリク。空港なんぞ閑職だからのんびりしてりゃいいっていってて いてえ!」
「それどころじゃない! ヤバイ方が来てる! ウロウ様の屋敷までお送りするんだ!」
「え?」
「わからん! わからんがヤバイ! ウロウ様と比にならない魔力をお持ちだ!」
「ああ、ああー、あ‥‥の方?」
御者の男はゆっくり視線を後ろに向ける。
「ん? ヒイッ!?」
後ろを向いたドマリクの目の前に居たのはド美人。ヴィルヘルミーナであった。
「此方の方にお願いすればよろしいのでしょうか?」
「さようでございます! おい! リーレン!」
リーレンと言われた御者の男は完全にフリーズしていた。
「目を覚ませ!」
「はっ! 寿命が延びた!」
「まだ寝ぼけてるのか?」
「すみません口が勝手に‥‥、では全速力で向かいます! お乗りください!」
「はい、ヴィルさん。」
レンツはヴィルをエスコートする。
「ありがとうございます。」
そして皆が乗り込んだところで、何故か同乗していたドマリクは首をひねる。
「ん? 何だお前、いつの間に?」
レンツを見てドマリクは不思議そうな顔をする。
「いや、最初からいたんだけど。ヴィルさんで完全に見えてなかったよね。」
レンツは嫌そうな顔をする。
「では皆さまのご無事をお祈りしております。」
ミトが頭を下げた瞬間、馬車は嘶きとともに急発進する。
「まあ、ヴィルさんの存在感に比べたら霞みたいなもんだけどさぁ。」
レンツは口をとがらせる。
「いや、ああ、済まない。ところで皆さまええと、いつの間に此方へ?」
「丁度先ほどでございます。」
「先ほど‥‥、本日は到着予定の便はなかったような気がするのですが。」
「では手違いでしょう。」
ヴィルはにこりと笑う。
「手違‥‥。」
「でしょう?」
「勿論ですとも! 疲れがたまっていたのでしょうな!」
長いものには巻かれるドマリクであった。
「待て待て! お前ら領主館だぞ!? どんな速度出してるんだバカか!?」
あっという間に到着したリーツワーズ領主邸の門番に止められます。
「うるせえ! こちとら急ぎなんだよ!」
リーレンは怒鳴る。
「お前そんなキャラだったか!?」
「いいからウロウ様を出せ!」
「ドマリクまで!? お前らいかれてるのか?」
「い そ ぎ な の!」
「ウロウ様はおられん! フェンガルの方とお会いする名誉があり、ライネイ様のところにむかわ‥‥おい、おい! お前らどこに行く!?」
「ライネイ様のところに決まってるだろ!?」
「は!?」
ポカーンとしている門番をおいて、空港にUターンする馬車。
門番の二人は暫くあんぐり口を開けていたが、はっと目を覚ます。
「何かの非常事態だ! ウロウ様に連絡を!」
「これはどちらに向かっているのでしょうか?」
ぼんやりと話を聞いていたヴィルは首をひねる。
「空港でございます。此方からライネイ様治めるフロール領までは距離が御座います。速度重視のワイバーン便が御座いますので其方で向かうのが最短です。」
「色々御座いますのね。」
「とりあえず急ぐのがいいかな。」
「もちろんですとも!」
レンツのセリフにノリノリのドマリク。
実際レンツが考えていたのはあまり長くうろうろするとボロが出て不法入国がバレるだろうなという点であった。
「落ち着きましたら是非ライネイ様によろしくお伝えくださいませ!」
キラキラした目で此方を見るリーレンとドマリク。
正直ゲーキで何かを融通するほどの立場ではない。
「経緯説明でお名前を出さしてもらうかもしれませんがよろしいのですか?」
「「もちろんですとも! 光栄です!」」
侯爵と何らかの形で繋がれることは大きなことなのであろう。
公爵令嬢であるヴィルと、ド平民であるレンツにはいまいちピンとは来ない話ではあったが。
「いずれにしても急ぎましょう。丁度フェンガルの方が居るようです。」
「まあ丁度いいといえば良いかな。どうなるかはわからないけれど‥‥。」
空港に着き、ワイバーン乗り場へ向かう。
数人乗りの小さな籠をつけており、風龍と違い速度特化のような見た目をしている。
「此方は御者不要です。賢いやつなので行き先を言うと連れて行ってくれます。」
ワイバーンはこくこくと頷く。
「フェンガルを迎えるとなると何処になるのでしょう?」
「基本的には領主の館だと思います。」
「では其方で。」
「ウロウ・リーツワーズ侯爵本宅まで頼んだぞ。」
ワイバーンは頷く。
「ではご武運を!」
「この恩は忘れませんわ。ではレンツ様行きましょう。」
「よっし、いこう。」
二人が乗り込んだ瞬間、ワイバーンは一声鳴いてあっという間に点になった。
「「ふう‥‥。」」
それを見送ってため息をつく二人。
この一瞬で一回り老けた気がする。
「ちなみに何の用があったんだ?」
リーレンの疑問に
「知らん。」
バッサリ切るドマリク。
「え!? お前知らないであんな‥‥あんな!?」
リーレンはわなわなする。
「知らんが逆らえるか? あの魔力。」
目が覚めた瞬間に理解した。
逆らえる相手ではない。
「無理だな。取りあえず始末書先に書いておくか‥‥。」
「そうだな‥‥。」