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2_44 悪役令嬢フライハイ

「おおー! これが噂の風龍か!」

カルファレンはテンション天元突破。

「城の近くに確かに近寄ってはならぬ土地があったが、なるほど港だったのか。」

カルファレンは動かない風龍に気をよくしてぺたぺた触っている。

とはいえその全長は20m以上ある巨体ではあるが。

Sランク魔獣の風龍はどうしたもんかと眉間にしわを寄せ、御者に助けを求める視線を送るが、静かに首をふられるのをみて、がっくりしていた。

此処は城の近くにある山の中。

上から見ると山のド真ん中をくり抜いており、地下道で城とつながっている完全に隠れた港となっている。

テンションの上がるカルファレンをみてカルトルージュは顎を撫でながら考える。

「ふうむ、これだけの力があれば輸送革命になるか。いや、ただランニングコストの問題もあるか‥‥。農薬散布くらいであればもっと小ぶりでもよいからな。ふうむ、魔獣とは排除ばかりだったが、共存も考えてもいいのかもしれんな。」

「ルー兄。魔獣は強くなればなるほど知性を獲得するって言われるんだよ。だから魔獣の凶悪化とか最近いわれているけど、裏を返せば知性を獲得しているということだからね。旨い事やれば共存共栄できそうだね。」

現状の人類社会とはかなり吹っ飛んだ考え方をする二人を見て苦笑するカルネイル。

それを見て少しだけ涙ぐむ御者の男。

「思うところが?」

ヴィルが尋ねると御者の男は小さくうなずく。

「魔獣もゲーキで今のような関係になるまでは迫害される立場でしたから。新しい平和な関係は皆が望むところです。」

「魔族と人類も仲良くなれればよろしいのでしょうけれど。」

「魔獣以上に確執のある関係ですからなぁ。下手したら数千年どころか万単位で殺し合いをしてきましたから。千年前に戦争が終わったとはいえ、その時代を知るものもまだ残っております。」

「それはそうですわね。ハイ、終了、仲良く、と言われてできるようであれば世の中にいさかいなど存在いたしませんわね。」

「なのでゲーキは距離を取ることを選んだのだと思っております。」

御者の男は悲しそうに笑う。

「あなたもその時代をご存じの方なのですか?」

「申し遅れました。御者のミト・マーティンで御座います。魔剣が変じた魔物でございます。今であまり細かくは覚えておりませんが、3000歳は越えていたと思います。」

「ミト様は魔剣ということは平和な時代をどう思われます?」

「昔は戦うことが存在理由でございましたが、敗北いたしまして、それ以降は隠居のような生活をしております。命あっての物種でございますね。なにやらヴィルヘルミーナを見てますと当時の戦った相手を思い出します。圧倒的な強さでございました。」

「当時の勇者等でございますか?」

「さて、人類側での呼び名は存じませんが、確かに勇者と言って差支えのない強さの者、そして癒しの力を持つ者がおりましたな。もう何千年も前、若かりし日のの話で御座います。」

「ぬ、少し気になるな。始原の聖女が降り立ったエプラス自体、建国して2000年はたっていないはずだが‥‥。」

カルネイルは首をひねる。

「それ以前は聖女様はおられなかったということでしょうか? そういえばシーリカ様とメトスレ様も仰っておりましたね。となると信憑性は高いでしょうか。」

「老人のたわごとでございます。数百年ほど間違えていたかもしれませんね。」

老人とは言うが、見た目は普通の壮年の男ではある。

「盛大な誤差だなぁ。」

レンツはため息をつく。

「知性を得た魔獣は寿命も延びますが、そのため欲望も薄くなることがありますので、私のようにぼんやりしている者が多いのです。それが社会問題にはなってはいます。シーリカ様やユーズゥ様、ミタリナ様はわりと例外です。まあ皆さままだお若いですが。私のように余生を過ごすような感じの人が多いですね。御者とは言いますが、風龍自体もかなり知性はありますので、正直門番のようなポジションです。」

御者の方はそう言ってにこりと笑う。

確かに元魔剣と言われても信じられない程穏やかである。

「さて、積み込みも終わりましたね。では出発しましょうか。」

「パスポートが反応しないが大丈夫?」

ミタリナ様は心配されております。

「まあ、周囲の魔道障壁のところで止まることにはなるでしょうが、ついでにそれも不具合で壊れていることに期待しましょう。」

御者はそういう。

「うう、ヴィルヘルミーナ様、このような投げやりな方針で申し訳ございません。」

「世の中イレギュラーなことは多々あるものでございます。私も此方に来たときは全裸で草原降臨したような状況でございました。それと比較しますと何ということも御座いません。」

「ぜん‥‥!?」「ら‥‥!?」

聞き耳を立てていたカルファレンとカルトルージュは同時に鼻血を吹く。

「お前ら‥‥。」

妻帯者カルネイルは呆れた目で仕事と結婚とか言っていた弟二人を見る。

「一般的な感性があったようでお兄ちゃんは安心したぞ。」

皮肉満載のセリフに、眉間にしわを寄せる二人。

「なるべく気にしないように努めていたが不意打ちは無理だったな。学園の有象無象とは見た目の次元が異なる。」

カルファレンははぁとため息をつく。

カルトルージュもこくこくと頷いている。

「農地の人らは牧歌的でよいが、それとは違った美があるな。野原の白い花が我が領地だとしたら、水晶とダイヤでくみ上げられた見たことないサイズの花って感じか。自分で何を言っているのかはわからないが。」

「まあ、気持ちはわかる。」


「さて、ではカルネイル様此方はよろしくお願いいたします。向こうにつきましたらとりあえずレム様を探そうと思います。」

「到着した港はウロウ・リーツワーズ様の領地です。ウロウ様はレム様のご友人です。恐らくウロウ様に話を通すのが一番早いかと思います。」

ミタリナ様は手紙を渡してくださいます。

「此方リーツワーズ家所縁の者の手紙です。此方で話は少し通りやすくなるとは思います。」

「ミタリナ様、ご配慮ありがとうございます。アステアラカをお願いいたします。」

「お任せください!」

「では、皆さま、座席のバーを握ってください。握力に自信のない方はベルトも御座います。」

「一応念のためやっとこうかな。」

レンツ様はいそいそとベルトを装着されております。

念のため私もしておきましょうか。

「では、出発!」

その声とともに、風龍の体に括りつけられていた馬車の本体を前後に4倍くらいに大きくしたような乗り物が浮かび上がります。

風龍は魔力で空を飛ぶ羽のない龍でございます。そのためとても静かに空高くまで舞い上がりました。

「それでは暫くは空の景色をお楽しみください。」

御者のミト様はにこりと笑われ、一礼されます。


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