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(本編完結、番外編を更新しています)無表情の美形王子に婚約解消され、自由の身になりました! なのに、なんで、近づいてくるんですか?  作者: 水無月 あん
番外編

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閑話 アリスノート 29

この回で「閑話 アリスノート」終了です。いつもよりは文字数多めですが、よろしくお願いします!

「いや、ルイスのせいじゃない。全て、フィリップのせいだから」

と、ウルス。


ウルスの言葉に、兄上が、フンと子どものようにむくれる。

そして、いまだ抱きしめている俺の子どもの頃の服。


その服を見て、そう言えば…と、ウルスが言っていたことを思い出した。


「ウルス…。モニュメントやら魔石やらで忘れていたが、俺の服を手に入れた時のことを、嫌な記憶と言ってたよな。苦手な甘みで脳に刺激を与えようとするくらい…。一応、聞くが、もしかして、服も、ぬいぐるみと同様の苦労があったということなのか…?」


ウルスは、兄上が抱えている服をちらりと見ると、ため息をついて言った。


「その通りだ。ぬいぐるみの時よりも大変だった…。初公務でルイスが着た服は、サイズがもう小さくなっていたらしく、公務の後、すぐに、王妃様がメイドにあげた。で、フィリップの指示で、俺は、メイドのところに取り戻しにいった。が、メイドの子どもにサイズがあわなかったらしく、これまた、別の人の手に渡っていた…。で、その先を訪ねていくと、今度は破れたとかで、修繕にだしていた。で、その店に行くと、何故か臨時休業。ほんとタイミングが悪くて、なかなか取り戻せなくてな…。その間、フィリップに、まだかまだかと急かされ、ついには、ぼくが行くとか面倒なことを言いだした…。結局、取り戻すまでに1か月もかかった…」


「1か月もか…? そんな無駄な苦労をさせて、申し訳なかったな…」

つい、また謝ってしまう。


すると、兄上が猛然と反論してきた。

「それは苦労じゃないよ。お宝を取り戻す使命だよ! ウルスはその使命を果たしたんだから、誇りに思うべきだよね」


使命…。兄上、ますます、おかしなことを言いだしたな…。

が、ここで反論すると、また、面倒なことになりそうだ。


当のウルスは、兄上の言葉を無の表情で聞き流している。

俺も何も言うまい…。


色々聞いたが、結論として、兄上が保管しているものは、アリスの手に渡らないよう全力で阻止する。それだけだ。


「じゃあ、存分にルイスと話したことだし、仕事に戻るぞ」

と、ウルスが兄上の手をひっぱる。


そうしてくれ。俺もアリスノートを読み返したいしな。

と、デスクのほうへ戻ろうとすると、兄上が言った。


「あ、そうだ、ルイス! この『気高き青、ルイスケース』、ルイスにもプレゼントするからね」


「いや、いらない」

即答する俺。なんで、そんな変な名前のケースを使わないといけないんだ…。


「え、でも、アリス嬢のお宝を飾るのに、ちょうどいいんじゃない? だって、ルイスの瞳でくるむように、アリス嬢のものを飾るんだよ!」


「なんだ、その表現。気持ち悪いな…」

ウルスが顔をしかめる。


が、兄上の言葉が俺の心にささった。


「…いいな、それ」

思わずつぶやく俺。


「げっ、ルイス…。ほんと、アリス嬢がかかわると、いきなりフィリップ化するな…」

そう言って、ウルスが引いた目で俺を見る。


だが、待てよ。何を飾ればいいんだ?

あ、アリスノート! 

いや、あれは俺が書いたものだ。アリスは触れるどころか、存在さえ知らない。


「アリスにまつわるお宝がない…」


「え? 何かもらったことないの? お誕生日プレゼントとか?」

と、兄上が言った。


「毎年、誕生日に花をもらってる」


「あ、じゃあ、カードがあるよね? 大事に置いてるんでしょ?」


「ああ、もちろんだ。だが、アリスの字じゃない…。毎年、花屋から届くから、印刷されたカードが添えられている。アリスは触れてない…」


場がやけにシーンとする。が、すぐに兄上が明るい声で言った。


「あ、でもでも、ぼくだって、ルイスルームのお宝は、ルイスから、直接もらったものはないんだよ? ぼくが、こっそり集めたものばかりなんだ。ルイスも、アリス嬢とお茶会をしてるんだから、その時、飲んだカップとか、使ったスプーンとか集めてないの?」


「おい、フィリップ、それはアウトだ! 普通に提案するなよ。気持ち悪すぎるだろ。ルイス、まさか、そんなことしてないよな?!」

ウルスがおびえるように俺を見た。


俺はウルスに向かってうなずいた。


「安心してくれ、ウルス。俺もそれだけはしていない。アリスに知れたら、絶対に気持ち悪がられて泣かれる。そうなったら、婚約を破棄されるしな。欲しいのはやまやまだが、そんな危ない橋は渡らない」


「欲しいのはやまやまとか、若干、怖いが…、まあ、やってなくて良かった。フィリップよりはまともだった…」

そう言って、ウルスがほっとしたように息をはいた。


「だが、一度だけ、アリスがお茶会でハンカチを忘れたことがあった。その時は、ものすごく迷った。これは、そーっと俺が捕獲してもいいんじゃないかってな。結局、俺は、理性を全身からかき集めて、踏みとどまった。そして、泣く泣く、モーラに手渡した。アリスの忘れ物だから、届けて欲しいと言ってな…」


「えー、もらっとけばいいのに! でも、やっぱり、ルイスは真面目でえらいね!」


「いや、それが普通だ。…ということで、いいかげんに帰るぞ! フィリップ」

そう言って、兄上をひきずるようにひっぱっていくウルス。


「しょうがないなあ。じゃあ、ルイス。またくるからねー!」

ひらひらと手をふって、部屋から出ようとしたとき、「あっ、モーラを忘れてた!」と兄上が声をあげた。


え、モーラ? あ、そういえば…。


耳栓をしたまま背をむけて、壁に同化するように気配を消しているモーラ。

すっかり忘れていた…。


兄上が、背をむけたままのモーラの肩を、あわててたたく。

振りむいたモーラが、状況を確認したようで、耳栓を外した。


「ごめんね、モーラ! 忘れてたー!」

と、兄上が明るく謝る。


モーラはにこやかに言った。

「とんでもございません。王太子様にいただいた耳栓が心地よすぎて、瞑想しておりました。なので、お気遣いなく」


耳栓が心地いいとは…? しかも、この状況で瞑想…?

なんか、すごいな、モーラ…。


モーラの言葉に、兄上が微笑んだ。そして、抱きしめていた俺の服をモーラに託す。


「じゃあ、良かった! あ、モーラ。ぼくはこれから仕事に戻るから、ルイスのこのお宝服とルイスケースを、ルイスルームに戻しといてね。あ、そうだ。運ぶのは、また、ルドに手伝ってもらって」

と意味ありげな笑みを浮かべる兄上。


「了解しました、王太子様。ルドに手伝ってもらっている間、王太子様の良さを力説しておきます!」

モーラが使命感に燃えた顔で答える。


俺は開いたままのケースの中に、一つに戻った魔石をいれて、扉をしめた。

その様子を見ていたモーラが、ぽつりとつぶやいた。


「あ、そういえば、ルドは魔石が好きだったわ…」


部屋からでていこうとしていた兄上の足がぴたりと止まる。

振り返って、モーラを見た。


「ねえ、ルドって魔石が好きなの? モーラ」


「あ、はいっ! なんだか、もらった魔石をとても大事にしているみたいなんです。その魔石がきっかけで、魔石を色々とりよせたり、研究したり、魔石自体にも興味をもっているようです」


「へえ、そうなんだ…。なるほど、魔石ね。そっか、魔石をえさにして、おびきよせたらいいんだ…。フフフ」

兄上が、獲物を前にしたような目で、満面の笑みを浮かべた。


そして、上機嫌で帰っていった兄上。


その後、モーラに連れられて、ルドがケースを取りに来た。

モーラによって、すでにケースには布がかけられ、ルドが来た時には中身が見えない状態に戻っていた。


赤い髪をふわふわさせて運んで行くルド。


その運んでいるケースの中に、ルドをおびきよせる為のえさが入っているかと思うと、なんともいえない気持ちになる。


もう、ルドが、狙いをつけられた小動物にしかみえない。

保護してやりたいが…、俺には無理だ。


俺の執務室をでていくルドの後ろ姿に幸運を祈りつつ、俺はアリスノートを読み直しはじめた。



アリスノート編、大変長くなってしまいましたが、これにて終了です。

読みづらいところも多かったと思いますが、読んでくださった方、本当にありがとうございました!

ブックマーク、評価、いいねを励みにさせていただきました。ありがとうございました!


また、今回登場しましたルドについて、短編のスピンオフを書き始めました。

「いつのまにか、懐かれました。懐かれた以上は、私が守ります。」というタイトルです。

王妃、王太子がちょろっとでてきます。もしよろしかったら、そちらものぞいていただければありがたいです。よろしくお願いします!


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