閑話 アリスノート 20
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動かなくなった鍵を持ったまま困惑していると、兄上が、俺の肩をトンとたたいた。
「もうー、ルイス、そのまま開くわけないでしょ? 大事なルイスの服を保存してるんだから。ほらほら、兄様に任せて!」
やたらと嬉しそうに微笑む兄上。その顔に若干いらつく。
そう思ったら、
「なんか、いらっとする顔だな?」
と、まさに同じことをウルスがつぶやいた。
差し込んだままの鍵から手を放し、兄上に場所を変わった。
「じゃあ、ルイス。今から、兄様がこの鍵をあけますからねー!」
兄上がそう言った時、テーブルを整えていたモーラが声をあげた。
「王太子様、少々お待ちを!」
見ると、モーラが制服のポケットから小さなケースを出した。
そして、その中から、虹色にキラキラ光るものを取り出し、両耳に入れた。
あれは、もしかして耳栓…?
「王太子様からいただいた記念のお品である耳栓で、私は、何も聞こえなくなりました。これで、鍵の秘密を私は知ることはできませんので、どうぞ、心置きなく鍵をお開けください!」
モーラはそう言うと、くるりと壁のほうをむいて、俺たちに背をむけた。
つまり、聞こえない、見えないということなんだろうが、モーラ、そこまでする必要があるのか…?
「モーラなら鍵の秘密を知られてもいいのに」
と、兄上。
「いや、それより、なんで兄上はモーラに耳栓をあげたんだ?」
と俺が聞く。
「モーラはね、先月、この王宮へ勤めてちょうど40年たったんだよ! だから、なにか記念になるものをプレゼントしたいなあって思って、モーラに希望を聞いたの。そしたら、耳栓が欲しいって言ってね。てっきり、眠る時に使うのかと思ったら、まさか、こんな使い方をするため持ち歩いてたとは、さすが、モーラ。メイドの鏡だよね?」
満足そうにモーラの後ろ姿を見る兄上。
「いや、まあ、そうなんだろうけど…。なんだ、この違和感…? モーラの価値観が兄上に感化されすぎて驚くというか…。俺の服が入っているケースの鍵の開け方がそんな重要なことか? そもそも、俺の私物を保存していること自体がおかしいだろう…」
考えれば考えるほど、迷い込んでいく。
「なに言ってるの、ルイス! 貴重なお宝が入ってるケースだよ! 鍵の開け方は重要機密だから。モーラの認識はちっともおかしくないんだからね。あ、それと、あの耳栓も、魔石なんだ。といっても、マーブル国じゃなく、シュルツ国の魔石。シュルツ国は魔石を使った商品も色々売ってるでしょ? あれは、耳にいれた途端に、やわらかくなって、その人の耳の穴にあわせた形になるんだって。しかも音を完璧に遮断するから、耳栓として人気らしいよ」
「なら、俺にもくれ。フィリップがうるさい時に使うから」
と、ウルスが即座に言った。
「じゃあ、ウルスも40年つとめたらね」
「フィリップのそばで40年も働くって…。いや、もうすぐ10年くらいたつから、あと30年くらいか。それでも長いな…。長すぎる…。未来が想像できない…」
疲労感を漂わせたウルスが遠い目をした。
そんなウルスを放置して、兄上は俺にむかって微笑む。
「お待たせ、ルイス! ではでは、あらためて、今度こそ鍵をあけるよー!」
そう言うと、鍵をにぎった。
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