閑話 アリスノート 16
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布切れを取り除くと現れたのは、縦に長い、透明すぎるほど透明なガラスケース。
そして、中には小さなサイズのジャケットが、立体的に飾られていた。
濃い青色に銀色のボタン。
袖口に銀色のラインが入っただけのシンプルなジャケット。
ああ、この服か…。記憶がよみがえる。
「というか、あの当時、俺が着ていた服ってこんな感じばっかりだったろ?」
と、俺は兄上に言った。
兄上は、眉間にしわを寄せ、うなずいた。
「ほんと、母上のセンスには困ったもんだよね? だって、辺境騎士団の騎士服が最強っていう考えだから、辺境騎士団の騎士服を真似て作らせた、この面白味もないジャケットばかり、ルイスに着せてたもんね?! 俺がどれだけ、もっと素敵な服を着せてよって言っても、まーったく聞かない。服じゃなく、問題は中身だ!とか言っちゃって。そりゃ、ルイスだったら、地味な服を着ても驚くほど愛らしくて、天使だったよ? でもね、もっと素敵な服を着せたら、どれだけ似合うことか! あー、ルイスの貴重な子ども時代に、色々着せたかったのに、あの脳筋母上め…」
一気にしゃべりまくる兄上。
が、俺は服には興味がない。小さい頃も、用意された服をただ着ていた。よって、この服を見ても、なんの感慨もない。そして、これをお宝として飾っておく兄上の気が知れない。
変すぎるだろ…?
まあ、服はどうでもいい。そんなことよりも、俺が驚いているのは、服を照らす謎の光のほうだ。
初めて見たので、うまく表現できないが、ケース内に飾っているジャケットを取り囲むようなブルーの光。
これが、ブルーのライトで照らしているだけなら、なんら驚きはしない。
「兄上? この光は一体なんだ?! 普通のライトではないようだが…?」
俺は聞いた。
すると、兄上が輝くような笑顔を見せた。
「すごいでしょ、これ?! この光で、お宝がライトアップされて、更に美しさが引き立つんだよね! ルイス、このブルーの光、なんだかわかる?」
もちろん、ライトじゃない。そもそも、光の質が全然違う…。
俺はガラスケースにぎりぎりまで顔を近づいて、じっくりと光を観察する。
「無数の小さな光の粒が、服を取り囲むように集まり、ふわふわと浮いている。人工物ではないな…。どうも個々が発光しているように見える。微妙に光の強さも違うし…。もしかして、発光する小さな虫みたいなものか? 服にえさをつけて、おびき寄せているとか? だが、それだと、虫はエサを食べようと服の上にとまる個体もいるよな? だが、とまっている虫は一匹もいない…」
「ちょっと、ルイス、やめてー!! 気持ち悪いこと言わないでよ!」
兄上が、体をブルブルッと震わせた。そして、俺を恨みがましい目で見る。
「ぼくの大事なお宝のケースの中に、虫なんてぜーったいに入れるわけない! ひいいー、思わず想像しちゃったよ!」
そうだった…。兄上の唯一の弱点は虫だ。そして、何故か、小さければ小さいほど、気持ちが悪いらしい。
猛禽類なのに、小さな虫が苦手という不思議。
あ、そうか。ルドも、昆虫柄の服とか着ていればいいんじゃないか? 兄上除けになるだろ?
今度教えておいてやろう。
…じゃなくて、今は、この謎の青い光だ。
わからないなんて悔しい。
考え込む俺を見て、兄が嬉しそうに微笑んだ。
「ねえ、ルイス、にいさまって呼んでくれたら、ヒントあげようか?」
「呼ぶわけないだろっ!」
「えええー? ちょっとぐらい呼んでくれてもいいのにー!」
ウルスが、あきれはてた目で兄上を見て、ため息をついた。
「フィリップ、ほんと、気持ち悪いな…。ルイス、ヒントはマーブル国だ」
「ちょっと、ウルス! ぼくを差し置いて、何、勝手にヒントあげてるの?!」
兄上がわめいている。
が、俺の頭の中は、猛スピードで、この青い光につながりそうなマーブル国の情報を、記憶の中で探り始めた。
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