閑話 アリスノート 14
不定期な更新ですみません!
モーラがすかさず、兄上にむかって頭を下げた。
「王太子様、ルドが失礼な態度をとりまして、本当に申し訳ありません。ルドは、いまだに、人見知りが激しくて…」
兄上が、小首をかしげた。
「人見知りというか、ルドは、ぼくが怖いんだよね? …フフフ」
何故か、楽しそうに言う兄上。
怯えるルドが、捕食される小動物に見えるな…。
「しかし、ルドは、兄上に、何故こんなに怯えるんだ? 何かされたとか…?」
俺の問いに、ウルスが気の毒そうに答えた。
「ルドは幼少期から霊感みたいなものが強くて、人には見えないものが見えるそうだ。おそらく、フィリップに邪悪なものを見てるんじゃないのか? ほら、あの笑顔。霊感などなくても見えるだろ。黒いものが…」
確かに…。俺は、ウルスの言葉に、思わずうなずいた。
見える人には、まがまがしいオーラみたいなものが見えそうな笑顔だ。
「ひどいな、ウルスもルイスも? こんなに、さわやかな笑顔なのに。ねえ、ルド」
そう言いながら、満面の笑みで、ルドに一歩近づいた。
「ひいいいっ!」
ルドの目が、こぼれ落ちんばかりに見開かれる。
そんなルドを見て、兄上の笑顔が更に黒くなった。
兄上、すごくうれしそうだな…。
「これっ、なんて声をだしてるの! 失礼でしょ、ルド!」
モーラはルドを叱ると、きりりとした顔を、兄上にむけた。
「王太子様の笑顔は、きらきらして、神々しくて、まるで、天使のようです。私は王太子様の笑顔を見ると、いつも心が洗われます!」
熱く語るモーラ。
ブフッ
ふきだしたのは、ウルスだ。
「こんな黒々した天使がいるか?! …失礼ですが、モーラさん。一度、医者に目を見てもらったほうがいいですよ!」
「ウルスさんこそ、目がお悪いのでは?! 王太子様の神々しいお姿が黒く見えるなんて!」
普段は、おだやかなモーラが声を荒げた。
兄上が何をしても輝いて見えてるんだろうな、モーラには…。
まあ、モーラは、俺たち兄弟を親以上にかわいがり、愛情を注いでくれてるもんな。
モーラとウルスの言い争いを気にもせず、兄上は、怯えるルドを見ている。
兄上は、下心ありの人間をすぐに見抜く。
人の本質を見る目は、ある意味、野生並みだ。
だから、すり寄ってくる人間たちには言うまでもなく容赦はない。
しかし、すり寄ってくる人間たちに限って、兄上の表面上の笑顔にころりと騙され、甘く見る。
そして、安易に近づき、何かしかけようとして痛い目にあう。その繰り返しだ。
その点、ルドもまた、兄上の笑顔のうしろの本質を即座に見抜いたんだろうな。
厳しさ、恐ろしさみたいなところを感じ取り、怯えているんだろう。
つまり、野生の感が鋭い者同士ということか…。
追うもの 対 追われるもの。
兄上はルドを自分の部下にするために、無理強いするのではなく、精神的な追いかけっこを楽しむはずだ。
ルドが、自ら、兄上のもとで働きたいと言わしめた時が兄上の勝利というか…。
兄上は、狙った獲物は逃がさないと思う。
が、ルドのその頭脳をもってすれば、逃げ切れる可能性もあると俺は思う。
あきらめるな、ルド! がんばれ、ルド!
読んでくださった方、ありがとうございます!
ブックマーク、評価、いいねをくださった方、励みになります! ありがとうございます!




