閑話 アリスノート 5
ルイス視点のお話が続きます。
俺は机の方に歩いていき、さっき男が持ってきた、宝石の鍵付きノートを兄上に見せた。
「アリスノートを永久保存できるよう、これに、まとめることにした」
兄上は、食い入るようにノートを見た。そして、言った。
「へえ! なるほど、革はアリス嬢の髪の色で、鍵の宝石は目の色だね! うん、さすが、ルイス。趣味がいい!」
「俺の趣味がいいのではなく、アリスの色が美しすぎるだけだ」
俺はしっかり訂正する。
「もうー、ルイスったら、謙虚なんだから!」
兄上は、俺の訂正を流すと、また、ノートに目を戻した。
「ぼくは目の色に統一してたけど、こんな風に、髪の色を主体にして、目の色をピリッといれるのもいいね…。ぼくも、今度そうしようかな…。うん、そうしよう!」
などと、わけのわからないことを、ぶつぶつ言っている。
「なんのことだ?」
「あ、聞きたい?! 聞きたいよね?!」
目をきらきらさせて、俺のほうに身をのりだしてくる兄上。
ああ、面倒そうなやつか…。
俺は、即座に言った。
「…いや、別に聞かなくていい」
「もう、ルイスは遠慮深いんだから! よし、ぼくの秘密、言っちゃおう!」
って、話したいだけだろ…。
「ルイスにとって、アリスノートみたいな宝物をぼくも持ってるんだよ! なんだと思う?!」
兄上は目をきらきらさせて、俺に聞いてきた。
その期待に満ちた目を見ていると、何故だか、嫌な予感というか、悪寒がする…。
「さあ? わからないが…」
「ヒントは、ルイスだよ!」
やっぱり…。嫌な予感は的中だ。俺にまつわることなんて、ろくなものじゃない感じがビンビンする。
俺はおそるおそる聞いた。
「もしや、ルイスノートなんて言うんじゃないんだろうな…」
自分で言ってぞわっとした。
アリスのことを書いたアリスノートだと、胸が熱くなるのに、俺のことが書かれたノートだと思うと、心が冷える。
もしあったなら、即刻、燃やしてやる。
「うーん、残念! もちろん、それもいいんだけど、ぼくの場合は、もっともっと大きなものなんだ」
と、兄上が嬉しそうに言った。
「ふーん、そうか」
知りたくないし、考えるのも面倒だ。
答えるのを放棄する。
「ちょっと、ルイスー! もっと、考えてー! 興味を持ってー!」
「いや、別にどうでもいい。知らなくていい。できれば、消滅させといてくれ」
「えええ?! ひどいっ! ルイスが冷たいっ! 兄様、泣いちゃう!」
は?! 子どもか?
俺はため息をついた。
しかし、こんな兄上だが、恐ろしいほどに切れ者だし、腐敗した貴族を仕留める手腕には舌を巻く。
王太子としての能力はすごいし、正直、俺は足元にも及ぼない。絶対に、敵にまわしたくない人間だ。
だが、目の前でウソ泣きをする兄上は、あまりにも残念だ。残念すぎる。
俺は、こんな兄上を尊敬しているのか…。
「あ、ルイスの目がどんどん冷たくなる!」
などと言う兄上が、面倒になって、投げやりに聞いた。
「わかった、わかった。じゃあ、なんなんだ? 兄上の宝物は? わからないから、教えてくれ」
俺がそう言ったとたん、兄上は泣きまねをやめて、満面の笑顔を見せた。
「やっぱり、ルイスも知りたいよね! うん、教えてあげる! ぼくの大事な宝物はね…フフフ」
「もったいぶらずに、早く言え」
「あ、ごめんごめん。早く知りたいよね?」
「いや、そうじゃないが…」
「では、お待たせしました。発表します! ぼくの宝物は、ジャジャーン!
なんと、なんとルイスルームでーす!」
「…は?」
「だから、ルイスルームだよ!」
「…はあ?! なんだ、それ?!」
「その名のとおり、ルイスの思い出のもの、貴重なものがつまった、お・へ・やです!」
「…はあああ?! なんだ、その気持ちの悪い部屋は?!」
すると、兄上はすねたように言った。
「ちょっと、ルイスでも、ルイスルームのことを悪く言うのは許さないよ?!」
いつもながら、予想を超えてくる兄上だが、今回は頭も気持ちも追いつかない。
一旦、冷静になろう。
読みづらいところも多いと思いますが、読んでくださった方、ありがとうございます!
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