閑話 アリスノート 4
ルイス視点となります。
モーラがアップルパイを切って、皿にのせ、お茶の用意をしてくれている間、兄上が俺の机に目をやった。
棚からとりだし、読み直そうとしていたアリスノートが置いたままだ。
「あっ! あれは、アリス嬢について書きとめたノート、アリスノートだよね?!」
兄上が興味深そうに聞いてきた。
そう、兄上はアリスノートを知っている。
というか、目ざとい兄上には、アリスノートの存在は、書き始めてすぐの時にばれた。
俺が、熱心にメモをしていた様子に驚き、興味をひいたらしい。
というのも、俺は、アリス以外のことで、ノートに書き記すことはない。
学園でも、ノートはとらない。他にも、兄上の公務のなかで、書類の仕事を手伝っているのだが、最初に教えてもらった時も、ノートはとらなかった。
びっしりと書き込まれた、分厚い自前のノートを見ながら教えてくれたウルスが、
「さすが、兄弟。こんなに覚えることがあるのに、メモをとらないなんて…! その恐ろしい記憶力、そっくりだな」
と、怯えた顔をしていた。
このように、今までノートの必要性を感じたことがなかった俺だが、アリスに関することだけは別だ。
積極的にノートに書きたい! 何一つもらさず、書きとめたい!
もちろん、アリスのことは、ノートに書かずとも、忘れることはない。
が、お茶会でアリスに会った時のこと、アリスを遠目で見かけた時のこと、アリスのことをマークから聞いた内容も、全て、アリスノートに事細かく記す。
読み返していると、後で気づくこともあるからだ。
それに、アリスノートの中に文字が増えていくたび、アリスが、俺の中に蓄積されていくようで、俺の心が満たされていく。
そんなアリスノートに書いている内容は、圧倒的に、お茶会の時の記録が多い。
アリスと直接会える、月に一回の貴重な機会。
お茶会の始まりから終わりまで、書くことばかりだ。アリスのことをつぶさに書きとめる。
なかでも、表情の変化は詳しく記す。
なぜなら、奥ゆかしいアリスは、俺が作る菓子について、感想を言わないからだ。
例えば、表情が固くなったときは、好みからはずれているのだろうと反省して、次の菓子作りの参考にする。
反対に、表情がゆるんだときは、好みだったのだろうと思い、これまた、次の菓子づくりの参考にする。
そんな俺のアリスノートの存在を知っているのは、兄上とマーク、後はお茶会の準備を手伝ってもらうモーラだけだ。
が、マークだけは、その存在を忘れていると思う。
マークの雑談には、アリスのことがよく含まれているから、マークの目の前でノートに書きとめることは多い。
それなのに、マークときたら、俺がアリスノートを取り出し、メモしているのを見るたびに、
「それ、アリスのことを書いてるのか?」
と、毎回聞くのだ。
記憶できない病なのか? …とも思ったが、石に関する記憶力はすごい。
以前、マークがポケットからとりだした石をなでているのを見た時、どこで手にいれた石か、ついうっかり聞いてしまった。
すると、その石は山で見つけてきた石で、その石が山道に転がっていただけの、ありふれた状況を、やたらと詳しく、ながながと説明をされた。石のまわりの雑草や、石の下の土の状態までも…。
あの時、俺は「わかりすぎるくらいわかった。だから、もう、やめてくれ」と、何度遮ったかわからない。
つまり、マークは、興味のあることを覚える能力はすごい。が、興味のないことを忘れる能力もすごいということだ。
しかし、何故だろう。
マークはアリスをすごくかわいがっているのに、俺が記録するアリスノートには興味がわかないみたいだ。
まあ、興味がわいたところで、中身を見せてやるつもりもないが。
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