閑話 アリスノート 3
ルイス視点が続きます。
「あ、モーラだ。久しぶりだね。どう、うまくいってる?」
兄上がモーラに明るく声をかけた。
「王太子様、ご無沙汰しております。ええ、順調にすすんでおります」
そう言って、モーラがにっこりと微笑む。
久しぶりって、どういうことだ? 俺は不思議に思って聞いた。
「俺は、ほぼ毎日、モーラにお茶を淹れてもらってるが…。二人は久しぶりなのか?」
「新人のメイドを採用したから、今、モーラはその教育で忙しいんだよね。だから、しばらく、ぼくのところへは、別のメイドがお茶を淹れにきてくれてるんだ」
「え? そうだったのか?! それなら、俺も、他のメイドに持ってきてもらうようにする」
俺がそう言ったとたん、兄上が身をのりだしてきた。
「それは、絶対ダメ! ルイスのお茶を淹れる仕事は、この王宮で最も重要な仕事のひとつだから。モーラ以外のメイドには任せられないよっ!」
…はあ?! 最も重要な仕事のひとつって…。兄上は、何を言ってるんだ?!
「俺のお茶は別にいいだろ。忙しいモーラに、時間を割いてもらうのは悪い」
俺が言い返す。
すると、兄上は首をかしげて、ちょっと考えてから言った。
「モーラじゃなければ、副メイド長のマリアだね。でも、マリアは今、娘のお産でしばらく休暇をとってるから…。そうなると、テオか、ローガンになるけど、それでもいい?」
「え? …いや、いいわけないだろ? テオとローガンって、どっちもメイドじゃないし、定年間近の執事だ。管轄外の俺のお茶を頼むのは悪いだろ」
「じゃあ、残るは、ウルスか…。どう?」
俺はため息をついた。
「ウルスは、兄上の側近じゃないか。そもそも、お茶を淹れられるのか?」
「うーん、ぼくも淹れてもらったことはないから、わからないけど…。ウルス不器用だしね。まあ、味はまずいかも?」
「なら、普通に他のメイドでいいだろ」
「いいわけないよね。だって、ルイスの身の安全が第一だもん」
「身の安全? 俺のお茶にどう関係してるんだ?」
「だって、ルイスの部屋に入るでしょ? それに、お茶に何か入れたりされるかもしれないし。絶対に安心できる相手でないと、兄様は認められない! だから、モーラ以外なら、マリアとテオとローガンとウルスだね。彼らなら、ルイスを子どもの頃から面倒をみていて、魔が差すこともない。絶対的に信用できるから」
そう言って、兄上は真面目な顔で俺を見た。
兄上…。そうか、まだ、心配をかけていたんだな。
幼いころ、俺は、何度かさらわれそうになった。男女問わず、俺の顔に魅了された者たちにだ。
その中には、メイドもいた。他の犯人も、王宮で働く者たちばかり。
つまり、通りすがりとかではなく、俺に会う機会があり、顔を見知っていて、俺が若干でも油断した者たちが犯人だった。働きぶりは真面目で評判も良く、魔が差したとしか思えない者もいた。
「…兄上、もう大丈夫だ。俺はそんじょそこらの暗殺者がきても、簡単には負けない程度に鍛えてきた」
「すごいな、ルイスは! どんどんたくましくなっていくんだから…」
兄上の目がうるっとしている。
猛禽類みたいな目をしている時とは別人のようだ。
俺は、モーラのほうを向いて言った。
「…でも、そうだな。お茶は、引き続き、モーラに淹れてもらいたい。モーラのお茶は美味しいから」
「そう言っていただけて、嬉しいです。ルイス様」
モーラが嬉しそうに微笑んだ。
本当はモーラにお茶の淹れ方を習って、お茶会には俺が自らアリスにお茶を淹れたい。
だが、前もって作っておける菓子と違って、お茶は目の前で淹れるからな…。
俺が、直接お茶を淹れたら、アリスが嫌がるかもしれない。今は、まだダメだ。
だが、結婚したら、俺が淹れたお茶を、アリスに飲んでもらいたい。
菓子だけでなく、食事も作って、アリスに食べてもらいたい。
庭はもちろん、屋敷中に、俺が咲かせた花を飾って、見てもらいたい。
未来のことを思うと、俺の望みはどんどんと増えていく一方だ。
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