閑話 ウルスの休日 12
ウルス視点のお話です。
「兄上、やめろ。ウルスは悪くはない」
ルイスがフィリップを止めた。
「…ルイス! なんて、優しいんだ! いい奴だな! ありがとう!」
思わず、ルイスの方へ体をのりだし、感謝の気持ちを伝える。
すると、フィリップが、俺とルイスの間をさえぎるように、黒々とした笑顔をさしいれてきた。
「ウルス。今頃、何、言ってんの? ルイスが優しいのは、わかりきってることだよ? でも、その優しさに甘えていいわけないよね? それに、奴? 失礼なんだけど。ウルスは反省してないんだね」
「いや、反省してる! 反省してます! ルイスはすばらしい奴…ではなく、すばらしい方です! 俺の知っている誰よりも優しい方です!」
俺は、あわてて、ルイスを賛美する。
「そこまで言うと、嘘くさいな…」
ぽつんとつぶやいた、ルイス。
おい! やめろ、ルイス! 今、それを言うな! フィリップがのってくるだろ?!
が、遅かった。
思った通り、フィリップが、わざとらしいくらい悲しい顔で、ルイスに話しかける。
「ほんと、ルイスの言う通りだよね。ウルスの言葉って、嘘っぽいよね? わざとらしい誉め言葉って、すごく失礼だしね。 あーあ、ウルスの罰が増えちゃった」
そう言って、俺の顔を見た。
ルイスに見せていた顔をころりと変えて、黒すぎる笑顔になっているフィリップ。
多分、今、俺の罰を嬉々として考えているんだろう。
ほんと、悪魔みたいだな…。
が、俺もやられっぱなしではない!
俺は立ちあがって、叫んだ。
「おい、フィリップ! そもそも、俺が罰を受けるのって、おかしくないか?! 俺は、何も悪くない!
俺は、あざとい女に騙されそうになっただけだ。簡単に権力のある男にのりかえる女に、ころっと騙されそうになっただけだ! 騙されているとは夢にも思わず、俺に気があると思っただけだ! そう、俺は立派な被害者なんだー!」
はっと我にかえると、店中に俺の声が響いていた。
静まりかえった店内。
店中の人たちが、俺に注目している。
みんなの同情するような目が、全身につきささる。痛い…。
「おまえ、声が大きい。みんなに聞こえて恥ずかしいだろ」
と、ローアンが小声で言ってきた。
おまえにだけは言われたくない!!
「そうだね。あんな女にひっかかるウルスって、ほんと、かわいそうだもんね? 減刑してもいいかな。でも、ルイスに迷惑をかけたのに、無罪ってわけにもいかないから…。そうだ、せっかくだし、ルイスのためになることをしてもらおうっと!」
そう言って、フィリップが嬉しそうに微笑んだ。
フィリップが嬉しそうだと、俺にとって嫌なことが起こる前触れでしかない…。
「ねえ、ルイス。今から、庭作業にいくんでしょ? ウルスに手伝えることって、なにかない?」
ない、ない、ない! ないって言ってくれ、ルイスー!
俺の心からの願いもむなしく、ルイスは少し考えて、口を開いた。
「これから、アリスの誕生日に渡す花束にする花の種を植える予定だ。が、今の畑が、お茶会用に使う花でいっぱいになって、植える場所がない。たから、新しく畑を作ることにした。が、広い畑にしたいから、かなりの量の土をいれて、耕さないといけない。一人でするつもりだったが、手伝ってくれるならありがたい」
「王宮の庭師に頼めばいいじゃないか」
俺が言うと、
「仕事ではないから、頼んだら悪い」
と、真面目に答えるルイス。
「もう、本当にルイスって、いい子なんだから! 兄様、感動しちゃう」
そう言って、ルイスにだけは邪気のない笑顔を見せるフィリップ。
が、俺のほうを向くと同時に、邪気のもれだした笑みを浮かべ、楽しそうに宣言した。
「じゃあ、罰として、ウルスには、ルイスの畑づくりを手伝うことを命じる!」
次回、ウルス視点の閑話が終わります。
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