閑話 ウルスの休日 7
ウルス視点のお話です。
フィリップの言葉を聞いて、前のめりになったロクサーヌ嬢。
フィリップの放った、えさに、いとも簡単に食いついた…。
「私、ウルスさんは、いい方だと思いますが、気があるわけではありません! 王太子殿下に王宮に招待していただきたいわ!」
言った! 予想通りだ…。
フィリップの思うツボだろ。ほら、この笑顔。黒すぎて、なんて楽しそうなんだ。
そして、こんな簡単にフィリップに操られる令嬢に、俺は騙されそうになったのか…。
痛い…。心が痛すぎる…。
いたたまれなくて、目をそらす。
すると、隣のテーブルで客のふりをしているフィリップの護衛で、同期のアルベルトと目があった。
(どんまい)
と、クチパクで言ってくる。
が、笑うのを我慢してる顔だよな…。
笑いたければ、笑え! 恥ずかしすぎて死ねる…。
そして、今や、ロクサーヌ嬢は潤んだ瞳で、フィリップだけを見つめている。
俺をたらしこもうとしてた時より、瞳の水分量が多い気がする。
自由自在なのか…?
このテーブルには、ローアン、マリー嬢、俺がいるが、完全に二人の世界に突入しているような顔だ。
頭の中は、王子に見初められた没落令嬢の妄想が広がっているのだろうか。
が、そんな甘いことになるわけないだろ。
相手は、フィリップだぞ。おとぎ話の王子じゃない。
よく見ろ! この黒々した笑顔。ロクサーヌ嬢の手におえる相手じゃないのにな…。
まあ、よく見ろは、俺もだな…。
すっきりした頭で見れば、ロクサーヌ嬢は美人とはいえ、内面の浅ましさがにじみ出てるのがわかるのに。
はああー、一時でも、こんな女に、ときめいてしまった俺…。最悪だ…。
ここで、フィリップが、
「嬉しいね、ロクサーヌ嬢。じゃあ、王宮へ招待するよ。君にぴったりのところがあるんだ」
と、言った。
ロクサーヌ嬢が、テーブルごしにフィリップに近づき、
「嬉しいわ、王太子殿下! どこを見せていただけるのか楽しみですわ」
と、色気をふりまきながら微笑む。
「そうだ、先にウルスに謝っとかないと。ロクサーヌ嬢をぼくが誘ってごめんね、ウルス」
俺のほうを向いて、にっこり微笑むフィリップ。
その顔、なぐっていいか…。
面白がりすぎて、目がきらきらしてるだろ。
屈辱に耐えていると、何を勘違いしたのかローアンが、
「ごめんな、ウルス。相手が王太子様じゃ勝ち目がない。落ち込むな」
と、小声でなぐさめてきた。
やめてくれ! 全然、落ち込んでない! フィリップの顔に腹が立ってるだけだ!
ここで、ロクサーヌ嬢が、
「ごめんなさい、ウルスさん…。ウルスさんのお気持ち、受け取れなくて…。
私、王太子殿下に御招待していただきたいの」
と、悲し気に言ってきた。
告白してないけど、振られた感がすごい…。 心がどんどん削られる…。
「じゃあ、ウルスにも謝ったし、心置きなく、ロクサーヌ嬢を誘っちゃお!」
フィリップが、ロクサーヌ嬢に向きなおって、微笑みかける。
期待に目をぎらつかすロクサーヌ嬢。
「あのね、ロクサーヌ嬢に是非見てもらいたいのはね。王宮の開かずの間なんだ。どんな部屋だと思う?」
と、フィリップ。
開かずの間…。なんだ、その昔話みたいな部屋は?
王宮にあったっけ?
「…開けてはいけない部屋ってことですの? なら、王宮の宝物がしまわれている部屋なのかしら?」
と、ロクサーヌ嬢。
そこで、何故だか、ローアンがはっとしたように言った。
「もしや、代々の王妃に引き継がれる秘宝があるとか? 王太子様…、まさか、そこまでロクサーヌさんのことを気に入られたのですか…?」
ローアンの言葉に、
「まあ! そんな…」
と、頬に手をあてるロクサーヌ嬢。
そんなわけないだろ…。馬鹿二人がここにいた。
開かずの間が、なんなのかわからないが、この二人の妄想が違うことだけはわかる。
フィリップが、
「残念、はずれー」
そう言うと、ロクサーヌ嬢の顔を見ながら話しだした。
「開かずの間はね、15代前、王に嫁いできた伯爵令嬢が住んでいた部屋なんだよ。その伯爵令嬢はね、なりふりかまわず、王妃の座についたんだ。だって、権力のある男が大好きだったから。
でも、そんな女に王妃の器はないよね? 当時は離縁もできず、人目にだすわけにもいかなくて、その部屋に死ぬまで閉じ込められてたんだよ。扉には外に出たくてひっかいた爪のあとが今でも残ってる。怖いよね?」
ウキウキと話す、フィリップ。
場がシーンとなる。
「普段はね、不吉な部屋だから絶対に開けないんだけど、ロクサーヌ嬢には見せてあげる。特別だよ。だって、君にぴったりの部屋だもんね」
小首をかしげるフィリップ。
いやいや、小首をかしげられても、ちっともかわいくないし…。
というより、なんだ、その不気味な話は!
不憫なウルスのお話がまだ続きます。読んでくださった方、ありがとうございます!
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